https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32406260Z20C18A6MM0000/?n_cid=DSTPCS001
隠れた功績 元警視総監 池田克彦 あすへの話題 日経 2018/9/5 14:00

 警視庁では、毎朝、警視庁ニュースが全庁に向けて流され、その中には、各所属のちょっといい話もある。私が広報課長の時、八王子署からニュース担当に次のような話が送られてきた。
「当署のMさんは先日癌(がん)で亡くなられたが、その葬儀に行った同僚たちは驚いた。暴走族と見まがうような若者がたくさん集まっているのだ。話を聞くと、皆、Mさんから指導を受け、立ち直った人たちで、Mさんを心から慕っているという。このMさんの功績をぜひ放送してほしい」。
私は、これを読み、大変なことだと感じた。庁内ニュースで流すのはもったいないと某新聞の警視庁キャップに話したところ、「取材してみましょう」ということになった。

 数日後、そのキャップが飛び込んできた。
「池田さん、この人はすごい人ですよ。署の報告どころのレベルではない。交番で勤務しながら、誠心誠意子どもたちの面倒を見て、尽くした人です。亡くなる直前には、少年たちは入院先まで行き、最後のお別れをしたそうです。なんでこんな人が知られていなかったのですか」「おそらく、本人がそういう報告を上げていなかったのでしょう。その功績に報いる意味でも新聞で扱ってもらえませんか」「もちろんです」

 そして、この話は社会面トップで扱われ、その日行われていた閣議でも話題になったそうだ。「こういう人こそ叙勲にふさわしい」。そして、勲章は直ちにMさんの霊前に届けられたと聞く。世の中には、このMさんのように隠れた功績を持ち、一隅を照らしている方が多くおられるに違いない。その方たちに少しでも光が当たるように努めていかなければならないと思う。