自衛隊をコントロールすべき法制は、実は極めて軟弱である。
例えば、仮に尖閣諸島周辺で海上保安庁の巡視船が中国海軍艦艇から攻撃を受けたとしよう。反撃しないようであれば、
「力の信奉者」の中国は弱みに付けこみ、更なる海保巡視船への攻撃を招くだろう。そうなれば尖閣周辺の海保の実効支配は消滅し、領有権は中国に奪取されてしまう。
1988年、中国海軍がベトナム海軍を攻撃してスプラトリー諸島(南沙諸島)の領有権を奪ったパターンである。
海上自衛隊は中国海軍の活発化に対し、中国艦艇に一定の距離で海上に張り付く態勢を敷き、
「こちらから挑発しない一方、付け入るスキを与えない万全の警戒監視」を続けている。
こういう状況下で、2013年1月30日、中国艦艇から海自護衛艦に射撃管制レーダーの照射があったことは記憶に新しい。
中国海軍艦艇の攻撃には、海自護衛艦で対処しなければ海保巡視船を防護することはできない。
海自護衛艦の能力からすれば、中国海軍艦艇を撃退することは十分可能であり、
海保巡視船を防護することはできる。だが実際はどうか。結論から言うと、現行法制度では海自護衛艦は海保巡視船を防護できない。
海保巡視船を武力によって守ることは個別的自衛権の範疇であり、海自は自衛権を行使することによってこれを守ることができると思っている国民は多い。
だが、個別的自衛権を行使するには「防衛出動」が下令されていなければならない。だから「防衛出動」が下令されていない平時であれば、海保巡視船を守ることはできないのだ。
刑法36条(正当防衛)を根拠に防護を主張する人もいる。
だが現在、海自護衛艦は巡視船とは距離をおいて警戒監視活動を実施しているので(海保は海自の管理下にはない状態)、刑法36条を適用して反撃することも難しい。
仮に直ちに現場に駆け付けたとしても、海保巡視船が撃沈された後では、中国艦艇を撃退することもできない。過剰防衛になるからだ。
平時においては、自衛隊法82条「海上における警備行動」があると主張する人もいるだろう。
実際、過去2回発動された例がある(過去2回の海上警備行動の発令は、@能登半島沖の北朝鮮不審船事件(1999年)とA沖縄近海の中国原子力潜水艦事件(2004年))。
ただ、今の政治の仕組みでは、攻撃前の絶好のタイミングで「海上警備行動」が発令されることを期待することは難しい。