欧州諸国では一般に、事業上の理由による人員削減は合理的とされる。ドイツやスウェーデンなどでは「雇用調整」は比較的簡単に行える。

日本では正社員の雇用契約は、具体的な職種や職務を決めずにいわば「会社の一員」になる形だが、
欧州では、職種や職務を決めて働く。その職種や職務がなくなれば雇用契約は解消される理屈になる。
ドイツでは、整理解雇の要件の一つとされる事業上の必要性を司法が判断することは原則なく、解雇回避努力も緩い。
もちろん、労働組合は安易な解雇には抵抗するし、十分な補償措置を要求するし、政府はさまざまなセーフティーネットを整備している。
そうした前提があるので、労働組合は事業上の理由による「雇用調整」そのものには反対しない。
「雇用調整」を比較的容易に行える結果、残業を想定しない労働時間を前提にしたうえでの、必要人員数が確保されることになる。
不採算事業は比較的スムーズに整理され、一定レベル以上の生産性の事業しか残らない。
そもそも生産性が高いわけで、長時間労働を行う必要性がないのだ。

日本では「雇用調整」が難しいため、従業員をギリギリの数に抑え、景気がよくなると残業が当たり前になる。
景気が悪いと残業を減らし、それを「雇用調整」のバッファー(緩衝材)にしてきたのである。
不採算事業の整理が難しいため、その分生産性が低くなり、薄利多売ビジネスから業務量が増え、長時間労働が常態化してきた。
以上のように見れば、働き方改革ははじまったばかりだ。今回の法改正は出発点にすぎないことがわかる。
重要なのはそれを起点にして、さまざまな仕組みを継続的に見直していくことである。(2018/09/26 プレジデントオンライン)