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 主權の觀念此の如くなるを以て、我が國の如く統治權が最高獨立なる國に於ては其の統治權を主權と稱するも、
結論に於ては謬なしと雖も、統治權が最高獨立ならざる國に於て、其の統治權を主權と稱し、其の國の統治?を主權者と名附け、
其の國を主權國と云ふは謬れり。
永久中立國若しくは聯邦制度の下に於ける各國は統治權を有するも、主權を有せざるが如し。

 國家の觀念-社會的觀念-構成要素-領域・人民・*統治權
 *統治權-強制的權力・一般的支配・不可分性・固有性・主權と異る

學者或は主權を以て國家の要素なりと爲す者あり。
然れども是政治上の實際と歴史上の沿革とを無視したるものにして、聯盟組織の如き國家現象を説明すること能はず。
蓋し聯邦及び之を組成する各國は何れも沿革上竝に實際政治上、國家と認めらるゝに拘らず、兩者共主權を有すと云ふは
理論の許さゞる所なるがゆゑに、其の何れかを國家に非ずと謂はざるを得ざる可し。
主權は國家の要素に非ず。
國家に缺く可からざる者は固有の統治權にして、主權に非ずと爲すを正當とす。
聯邦組成の各國は主權を有せざるも、統治權を固有するがゆゑに國家たる縡を妨げざるなり。