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丸川知雄
中国経済事情
米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない
2020年09月08日(火)11時20分

今日アメリカが対峙している中国は、東西冷戦の時のソ連陣営に比べて経済的に格段に強力である。1950年の時点で、アメリカは一国で世界のGDPの27%を占める圧倒的な経済力を持っており、ソ連、中国、東ヨーロッパのGDPを合計しても実質的にはアメリカの6割ほどにしかならなかった。一方、2019年の中国のGDPは、購買力平価で測ればアメリカより10%大きい。アメリカのコロナ対策の失敗により2020年に両者の差はさらに広まるであろう。

また、1950年の時点でソ連陣営(中国を含む)が世界の輸出に占める割合はわずか8%にすぎず、うち5.4%はソ連陣営のなかでの貿易で、世界経済におけるソ連陣営の存在感は小さかった。一方、2018年の中国は世界最大の貿易大国であり、世界の輸出の13%を占めている。世界の国々の3分の2以上は中国との貿易額の方がアメリカとの貿易額より多い。このことが何を意味しているかというと、中国が西側から天然ゴムの禁輸に遭った時に窮地を救ってくれたセイロンのような存在になる国が今ははるかに多いということである。

このような中国を相手に経済冷戦を仕掛けるというのはまともな戦略判断に基づく方針だとは思えない。もちろん経済冷戦になれば中国だって痛い目にあう。しかし、今や貿易額も実質的な経済規模も中国より小さいアメリカの被る痛手はそれ以上であろう。まして、輸出の2割が中国向けである日本が対中禁輸などしたらGDPの縮小は免れ得ない。

欧米がコロナ禍で沈む中、中国がいちはやく危機から抜け出したこともあり、2020年7月には中国との貿易は日本の貿易額全体の26%を占めるに至った。「デカップリング」どころか日本と中国との経済的な結びつきはますます深まっているのが現状である。くれぐれも経済冷戦には参戦しないようにお願いしたい。