そうだよなあ。普通ならそんなふうに考えるだろうなあ。
しかし御大の美学にすればその辞退は「潔く」という形容には該当しないんじゃないか。
自分の一存で授賞作が決定するなどという事態はあくまで結構なこととして受け止め、いつかそれが通らなくなるまで知らん顔して選考委員を続投しつづける。
だが御大のことだから若造の委員たちが内心で遠慮圧力に耐えかねて殺意にまで昇華した怒りを抱え爆発寸前であることは正確にお見通しだ。
それでもなお知らん顔で辞退などしない。
そしてある日いきなり、
最も血の気の多い若造の委員が白皙の顔面に朱を散らし、
抜き身の日本刀を握りしめて御大の自宅に乱入する。
恐るべき斬撃とともに襲いかかった一刀を抵抗する間もなく身に受けてうーむばりばりばりの断末魔とともに倒れ伏し絶命する。
そんな日が来るのを今か今かと待ち焦がれて過ごす。
これが文士・筒井康隆の美学であろう。