或人は目の前の光景に目を瞬かせた。
 居間のソファには灰色の大きな狼男みたいなものがあおむけに寝転がっており、それを真司と一真が笑顔でなでまわしている。狼男は観念しているのかなでられて気持ちいいのか目をつむったまま動かない。
「パフューマン剣?」
見慣れないその姿に愛読書を思い浮かべてしまったことを責められはしないだろう。
「違う違う」
「或人はまだ見たことないんだっけ?これたっくんだよ」
「たっくんいうな」
すかさず狼男から上がった抗議の声は確かに巧のものだった。
「え?なんで?」
軽く混乱しかけたところで、この家に来た時に渡された兄弟のあれこれが書かれているメモを思い出した。
「あ、これがオルフェノクってやつ?」
「そういうこと。どうだ、モフモフだろ!」
「なんで真司兄が自慢するんだよ」
呆れたような巧の声もどこ吹く風。笑顔でもふり続ける二人。
「っていうかさ、これ、どういう状況?」
或人のもっともな疑問にもふっている二人が楽し気に応えた。
「珍しくたっくんがここでお昼寝してて」
「さらに珍しいことに寝ぼけてオルフェノク態になったからかわいがってるの!」
「二人とも、そろそろいい加減に・・・」
どれほどこの状態なのか巧の声は大分お疲れだ。それでも気にしない兄たちは笑顔で或人を呼び寄せる。
「或人も撫でてみろよ。たっくんなかなか撫でさせてくれないから今がチャンスだぞ」
「そうそう。気持ちいいぞー」
勧められて側に座り、巧を覗き込む。
「巧、いいの?」
「少しならな」
ぶっきらぼうな口調だがお許しをもらった或人はそっと毛皮に触れてみた。
「おお、もふもふだあ」
「だろ!」
或人の手が毛並みを楽しむように動き始める。
 あまりにももふられ過ぎて我慢できなくなった巧が逃走するまであと少し。