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新人職人がSSを書いてみる 33ページ目 [無断転載禁止]©2ch.net

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0001新人スレ住人 ◆tOSpv3Q.fqF6
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2016/04/03(日) 21:39:32.46ID:vT7Fwf4M0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 32ページ目
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新人スレアップローダー
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Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0336ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 18:29:56.60ID:fA1jv6E30
――艦これSEED 響応の星海――


「敵影発見! 攪乱酷くて数補足できないけど・・・・・・13時方向、距離15に敵の増援だよ!!」
「10時方向から魚雷接近、数9!」
「ト級砲撃! 直撃コース来るぞ!」

三日月陰る深夜3時。
曇天で光源に乏しい大海原。一寸先だってまともに視認できない暗闇で、佐世保の命運を賭けた防衛戦が開始されて早6時間、榛名率いる第二艦隊は敵侵攻部隊の第4波襲来を感知した。
現在、単縦陣にて同航戦。左舷は敵雷巡隊に、右舷は敵軽巡隊にと阻まれている格好にあり、このまま前進すれば敵増援に頭を抑えられる状況下にあった。早い話が、包囲寸前の絶体絶命である。
しかし、榛名の顔にはまだ余裕があった。

「取舵30、第一戦速で回避。木曾と瑞鳳はそのまま右舷ハ級群に火力を集中。響さん!」
「了解。響、突撃する」

状況だけを見れば確かに劣勢。だが、この程度ならまだまだ余裕で切り抜けられると確信していた。
敵第3波の生き残りも残り僅か、第4波到着前のこの攻防で片付けられるだろう。

「Урааааа!!!!」

響が吠え、単身最大戦速で左舷側、雷撃戦を仕掛けてきた深海棲艦の群れに突っ込んだ。
苦し紛れに魚雷を撃ってきた化物3体がターゲット。前衛に軽巡ホ級が2、後衛に雷巡チ級が1、そのどれもが手負いだ。
左腕に装備した12.7cm連装砲B型改二でホ級に牽制しながら、扇状に放たれた魚雷の隙間を勘と経験頼りにスルリと滑り抜けた響は、あっという間に中央のチ級に肉薄する。

「ギ、ギッ!?」
「無駄だね」

白い仮面で覆われた頭部と、右腕に装備した盾のようなパーツが特徴的な深海棲艦は甲高い呻き声を発し、後退して更に魚雷をバラまこうとした。
しかし、もう遅い。
艤装に備えられた超重量の錨(いかり)を投擲し、チ級を弾き飛ばし絶命させた響はそのまま速度を落とさず、
一息で防御態勢に入っていたホ級の間を抜ける。同時に反転、両脇に備えた61cm四連装酸素魚雷発射管から一発ずつ、無防備な背中めがけて魚雷を射出した。
直後、爆発。

「ガ、ア゛ァァァァッーー――・・・・・・・・・・・・」
0337ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 18:32:06.02ID:fA1jv6E30
まともに喰らえば戦艦だってただでは済まない一撃に、深海棲艦達は赤々とした爆炎に包まれる。更に、その光を頼りに標準を定めた榛名の35.6cm連装砲が火を噴き、左舷敵雷巡隊は完全に沈黙した。
その間わずか十秒。
速さだけが取り柄の駆逐艦の身でありながら、熟練の早業で格上の巡洋艦クラス3隻を手玉にとった響は、涼しい顔で錨を回収しながら木曾達に合流する。右舷ト級群はとっくに全滅していた。
どうやら全員が無傷のまま、第3波の撃退に成功したようだった。

「おつかれさま―。大丈夫? 怪我ない?」
「大丈夫だよ。全然」
「瑞鳳、敵増援はどうなっている?」
「あ、ええと・・・・・・うん視えた。こっちに向かってるのは・・・・・・戦艦ル級3、重巡リ級4、軽巡ヘ級6、駆逐ロ級6、駆逐ニ級10――かな、多いなぁ。方位0-3-5に向けて20ノットで進行中」
「松島方面か・・・・・・使えるな。榛名」
「十字砲火でいきましょう。榛名達はこのまま敵陣右翼後方につきます。木曾は信号弾を」
「応」

状況はそう悪いものではなかった。
長崎半島周辺を守備する第二艦隊は、開戦当初こそ敵侵攻部隊のあまりの数に泡食ったものの、後方火力支援隊の尽力もあって、迅速かつ安全に殲滅することができたのだ。
その後も第2波、第3波と大部隊が押し寄せてきたものの、長年のチームメイトでもある彼女達は今まで迎撃戦を主体にしてきたという経験もあって、苦もなく戦い続けることができていた。防衛ライン構築にあたり構成員
をシャッフルされた第一艦隊と第三艦隊と異なり、人数こそ減ってしまったものの「いつものメンバー」のまま据え置きで運用されることになったのも大きい。
阿吽の呼吸によるコンビネーション攻撃は、彼女らの一番の武器だ。

「しかし大盤振る舞いだね今夜は。なにか良いことあったのかな」

速力と防御力を活かした近接格闘戦を得意とする、特三型駆逐艦二番艦の響。

「借金取りにでも追われてるんじゃないか。なんにせよ、オレに勝負を挑む馬鹿は三枚おろしだ」

長距離雷撃戦と対空戦を本領とする参謀役の、球磨型重雷装巡洋艦五番艦の木曾。

「そうだ。今のうちにお弁当食べる? 私も大盤振る舞いして特製卵焼き、たくさん持ってきたんだから」

艦載機を使役して艦隊の「目」となる攻防の要、祥鳳型軽空母二番艦の瑞鳳。

「あら、いいですね。榛名はこの前のダシ巻きが気に入ったのですけど、ありますか?」

そして圧倒的な砲撃能力と継戦能力を備える、リーダーの金剛型戦艦三番艦の榛名。
佐世保の遊撃担当であった面々は、この現状では最も安定した戦力となっていた。
0338ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 18:41:41.52ID:fA1jv6E30
すいません。
本文中にNGワードがあるみたいなので、調べる為に投下を中断します
0339ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:10:48.05ID:fA1jv6E30
当然だ。この状況で不安にならない方がおかしい。明るく気丈に振る舞っていても、なにより瑞鳳は航空母艦で
ある身、艦載機を発艦できない闇夜では自衛すらままならない艦なのだ。辛うじて水上夜間偵察機は飛ばせるので「なにもできない」というわけではないが、その不安も一入だろう。
加えて、第二艦隊はここまでは思った以上に順調にきているのだ。その事実は他の艦隊を気にする余裕と、逆に「こんなに順調でいいのか」という焦燥感を醸しており、それを感じているのはなにも瑞鳳だけではない。
夜の海は気分を滅入らせるものだ。・・・・・・舞鶴には夜になるとテンションが上がる艦娘がいるらしいが。

「大丈夫ですよ」

榛名はしいて明るく前向きに応えた。

「まだ【Titan】が現れたという報告は来てないわ。大丈夫です。金剛お姉様達も、山城さん達も絶対に」

五島列島周辺を守備する第一艦隊――金剛、翔鶴、多摩、雷、電――からも、佐世保湾正面を守備する第三艦隊――山城、鳥海、暁、白露――からも、まだ誰かがやられたという報告も、強敵が現れたという報告もない。
軽傷者は何人か出ているが、皆健在の筈だ。
西に機動性に優れた第一を、東に同じく高機動な第二を前衛として展開し、北に火力に優れた第三を後衛として鎮座させるこの鶴翼の陣は、まだ崩れていない。これを維持できている限り自分達は大丈夫。
それに、と榛名は言う。今までは手ひどくやられっぱなしだったが、今回はしっかりバックアップを整えた陸を背にした防衛戦。いつもの孤立無援な沖とは違うのだと。
残りもたかが17時間。遠くインド洋で戦った時のことを思えば、これくらい。

「仮に現れたとしても、勝手は榛名が赦しません! 【Elite】だろうと【Flagship】だろうと【Titan】だろうと、要は先に叩けばいいんです。そして榛名達ならそれが可能です」
「流石は榛名。そうこなくっちゃな」
「現れないに越したことないけどね」

みんなが内心の恐怖とも戦っていることは重々承知。それが少し溢れたからって的外れな叱責なんてするわけないし、ここは率先して気持ちを共有して元気づける場面だ。
――たとえ空元気であろうと、Titan相手なら苦戦は免れないことを知っていても、皆を励ましてこそのリーダーである。
世話焼きたがりのお姉さん気質であるからこそリーダーに選ばれた榛名は、持ち前の明るさを発揮して叫ぶ。


「そしてなにより! 金剛お姉様は!! 無敵です!!!!」


「・・・・・・えぇー」
「そこで個人、なのかい・・・・・・」

盛大に滑った。
0340ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:12:13.96ID:fA1jv6E30
「え、ダメですか?」
「駄目だろ。お前達姉妹じゃなきゃ通じないだろ、そのまじないは」
「そうですか・・・・・・」
「そうだよ。・・・・・あぁしょげるなしょげるな頼むから」

金剛四姉妹はこれだから、と木曾は思わず頭を抱える。
基本的にみんな優秀でイイヤツなのだが、長女である英国生まれの帰国子女・金剛に心酔――もとい絶対の信頼を寄せていて、それはいいのだが「他者もきっとそうだろう」とナチュラルに思っちゃうところが玉に瑕。
金剛自身は紛れもなく人格者で凄いヤツなのは認めるが、台無しだよと叫びたい気分の木曾だった。

「――ふふ、ありがとみんな。元気でちゃった」

ただまぁ、それでも一定以上の効果はあったようで、瑞鳳の口元には若干の笑みが戻っていた。
響も木曾もつられて、苦笑じみた微笑みを浮かべる。
どうやらリーダー渾身の自爆によって、少女達の不安も道連れにシリアスな空気は轟沈したようだった。「不本意です。あそこはバッチリ決めたかったです」とは後の榛名の談。

「士気を落とすようなことを言って、ごめんなさい。もう大丈夫よ」
「そ、そう・・・・・・。それならよかったです。・・・・・・さて――」

響によしよしと頭を撫でられていた榛名も立ち直り、いつもの和気藹々とした雰囲気が復活した。
もう怖い物はなにもない気分だった。

「――所定の位置についたわ。面舵60、微速前進。総員砲雷撃戦用意。」

そうしてタイミング良く、第二艦隊は次の戦場に到着する。
おしゃべりの時間は終わり。
榛名の号令に従い、速やかに戦闘モードに切り替えた面々は深海棲艦の連中に鉛玉をブチ込むべく、主砲の照準を合わせていく。その瞳にはギラリと戦意が煌めく。
気分は上々。不安や恐怖に囚われることなく戦いに赴ける心持ちは、戦士にとっては一番に大事にしたいものだ。精神状態が生死に直結していることを身に持って理解している少女達は、先のやりとりに密かに感謝した。

「戦車隊発砲まで、残り10秒。同時に突っ込むぞ」
「了解」

目の前に広がる暗黒の海。
このわずか2マイル先に計29隻もの深海棲艦が、自分達に背を向け北進している筈だが、ここからでは視認できない。後ろに回り込むべく隠密行動で航行していたのだから、当然偵察機や探照灯は使用できず、
事前に計測した結果が正しいことを信じる他ない。
向こうも此方には気づいていないことと、進路と速度に変わりがないことを祈りつつ、戦闘開始の合図を待つ。
艦娘も深海棲艦も、暗視能力までは持ち合わせていない。これは賭けだった。
そして――
0341ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:14:10.92ID:fA1jv6E30
水平線の向こう、8マイル離れた東の地から、遠雷のように重い砲撃音が轟いた。


一拍置いて、2マイル先の海が文字通り火の海となる。
何十何百と打ち出された徹甲弾と焼夷弾が、木曾の信号弾によって指定されたポイントに雨霰と降り注ぐ。続けて照明弾。暗闇に閉ざされた海上に、辺り一帯を照らす小型の太陽が生まれた。

「ビンゴ!!」
「報告!」
「戦艦ル級――1隻小破。重巡リ級――1隻中破、3隻小破。軽巡ヘ級――全滅、駆逐ロ級――2隻撃沈。駆逐ニ級――全滅!!」

沿岸部にずらりと整列した対深海棲艦用の最新国産主力戦車、その主砲である40口径145mm滑腔砲から吐き出された弾丸の数々が、敵戦力を次々と削り取っていく様が浮かび上がる。
戦果も上々。先んじて偵察機を飛ばした瑞鳳からの報告に、賭けには勝ったと榛名は膝を打つ。

「全艦斉射後、分隊。一気に制圧します!」
「測敵良し!」
「照準良し!」
「――てぇーッ!!!!」

畳みかけるように、榛名達もそれぞれの主砲と魚雷を打ち込んだ。
東の八朗岳麓に待機していた戦車隊と、南の榛名達との十字砲火。奇襲を受けた深海棲艦は状況を正確に認識することもできないまま、あっという間にその頭数を半数以下にさせられる。残り、12隻。
ここまで減らせれば充分、むしろ予想以上の戦果だと、木曾は再び信号弾を撃つ。
撃ち方止め。
その要請に従って焼夷弾を最後に戦車砲は途切れ、木曾と響は更に魚雷を射出しながら接近する。この一連の連携こそが、佐世保の防衛がここまで上手くいっている要因であった。
国土防衛の要である戦車隊の後方火力支援によるバックアップ。
入院中の二階堂提督が、持てるコネクションと権力をフル活用して九州北西部に揃えた決戦用の布陣。いつもの孤立無援な沖での戦いとは異なり、陸を背にした防衛戦だからこそ採択できたもの。
これにより戦局を有利に進められるからこそ、佐世保守備軍は戦力の差をものともせず敵を撃退できるのだ。
誘い込んで一網打尽。古来より防衛側のほうが有利なものだ。
因みに、最新鋭の40口径145mm滑腔砲といっても深海棲艦を撃滅できる程の威力はない。
量産できる陸上戦車の主砲としては破格の威力だが、所詮は艦艇でいうところの軽巡の主砲に毛が生えたようなもので、敵の主力である重巡級、空母級、戦艦級を墜とすには少々心許ない。
その分多種多様な弾頭を速射することが可能で、これにより人類の主力である艦娘を援護することこそがコンセプトである。

「響、お前は右から回り込め。追い込むぞ!」
「Всё ништяк!!」
0342ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:17:03.30ID:fA1jv6E30
そうして打ち込まれた焼夷弾と照明弾によって轟々と照らされた目標に向かって、木曾と響は左右に散開。敵の混乱に乗じて挟撃し、釘付けにする算段だ。
しかし敵もさるもの、接近に気づいた個体が素早く戦闘態勢を整え、おぞましい奇声を上げながら反撃してきた。

「おおっと!」
「当たらないね」

山なりの軌道で降りかかってくる敵砲弾を、タイミングを計って小刻みに機動することで器用に回避。とにかく狙いを絞らせないように動きまわり、時には急制動・急加速して着弾位置をずらしていく。
二人は敵を中心に円を描くようにして対角線上から砲撃。
響は右肩の10cm連装高角砲を、木曾は左肩の25mm三連装機銃を速射しながら、徐々に距離を詰めていく。更には遠方の榛名が二門の41cm連装砲で追撃し、一隻一隻確実に撃破していった。
これで敵残存戦力は、戦艦ル級2、重巡リ級2、駆逐ロ級1、駆逐ニ級4。いずれも小破以上の損傷を負っている。
機動戦に持ち込まれて長引いては厄介だ。一気呵成に、一歩も動かさないまま決める。
だが物事はそう狙ったようにはいかない。

「――ッ!」
「!! おい!?」

ここでル級が動く。
両手に一つずつ携えた、巨大な甲羅のようなシールドから四門ずつ突き出された砲口が火を噴き、後衛の榛名と瑞鳳の至近距離に水柱が立ちのぼる。ちょこまかした響達前衛を無視して、鬱陶しい後衛から潰すつもりか。
他の深海棲艦達もそれに習い、火砲を榛名達に集中させる。
そうはさせじと、響が加速。
鋭角なターンで接近し、焼夷弾の影響で未だ燃え上がる海も、木曾の制止の声すらも無視して突撃。こっちを見ろとばかりに乱射する。
響が得意とする、超至近距離での機動戦で囮となり注意を引きつけるつもりだ。仕方なく、木曾もそれに乗じた。
二人で急接近と急離脱を繰り返し、後衛に対する砲撃を中断させる。
ここまでは少女の計算通りだ。
だが、そう、物事はそう狙ったようにはいかない。

「響!!??」
「・・・・・・この!!」

全ての砲がたった一人、響のみに集中する。
耳鳴りがする程に重なった砲撃音。幾十もの砲弾が、幼い少女を粉々にせんと降り注ぐ。対する響は艤装への負担を度外視して一気にトップスピードへ。防盾を構えながら45ノットで疾走しつつ弾幕を張り、魚雷で敵集団
をばらけさせようとする。はずみで幾つかの敵を撃墜しながらも、粘り強く砲撃圏内から逃れようとした。
しかし、ル級の砲弾が一つ、響の足下に着弾する。
最高の火力と最高の装甲、人類で言うところの戦艦の特徴に見事に合致するル級の一撃は、深海棲艦の中でもトップクラスの破壊力を秘めている。直撃こそ避けられたものの、あまりの衝撃により響の小さく軽い身体は、
大きな水柱を伴って空高く吹き飛ばされた。ふわりと、上空30mの高度で滞空する。
0343ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:20:02.04ID:fA1jv6E30
ル級が、無造作に無防備の響を狙う。当たれば駆逐艦の響はひとたまりもない。

「チィ!」

響は咄嗟に、錨を前方下側に投擲、左腕と右肩の砲を後方上側に向けて撃った。
直後にル級の砲撃。

「ぐぅうううう!!!!」

呻きながら、響は必死に錨と艤装を繋げる鎖を握る。
掌の皮をまるごと持って行かれそうになりながらも鎖をピンと張り詰めさせた、空中で踏ん張りのきかない少女の身体は、錨の重量と運動エネルギーに引っ張られてガクンと降下。
同時に放った砲の反動と、木曾の牽制射撃も手伝って、ル級の砲弾は響の黒帽子を道連れに虚空へと消えていった。
続けて、錨を再度投擲。

「――Урааааааа!!!!!!」
「!? 無茶だ、退け!! ・・・・・・クソッ!」

九死に一生を得た少女は、榛名と木曾の猛攻を受ける敵群に再度突撃する。
衝撃で軋む骨格を無視して投擲した錨はリ級に絡みつき、響は渾身の力で鎖をリリースして落下速度そのまま、『着地』がてらドロップキックをかました。
甲高い悲鳴と水しぶき。更に12.7cm連装砲と10cm連装高角砲を接射、此方に背を向けていたロ級もろとも蜂の巣にし、少女はようやく着水する。
残存、戦艦ル級2隻のみ。
しかしそこまで。
着水し、身を屈めたままの響の頭部にゴリッと、ル級の砲口が押しつけられる。
回避も防御も絶対不可能。誰が見ても「これは死んだな」と確信する状況。直後の未来を予測して、響は俯いた。
いや、正確には全体重を両手の指先に集めるようわずかに重心をずらした。
その様はまるで、クラウチングスタートでもするかのような。

「――おォッ、ラァ!!」
「・・・・・・ギィ!?」

スパリと湿った音を立てて、ル級の腕が切り落とされた。
振り抜かれた刀身が、炎を映してキラリと瞬く。それは、木曾の軍刀。背後から稲妻のように接近した、彼女の最後の切り札であった。青とも黒ともつかない液体をまき散らし、巨大な盾が海に没する。
洋風のサーベルで隻腕にされたル級は思わず後退、もう一方の盾を掲げて追撃の横一閃を防御する。

「・・・・・・?」

しかし、手応えがあまりにも軽い。更なる斬撃も来ず、一瞬、不自然なまでの静寂が海を支配した。
0345ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:22:12.48ID:fA1jv6E30
何か来るとル級達が身構えた、その時。
榛名の41cm連装砲と35.6cm連装砲が、背後からその胴体を真っ二つにした。
敵第4波、全滅。
榛名の砲撃を予期して一目散に離脱した響と木曾は、揃って安堵の溜息をつく。ギリギリではあったが、辛くも綱渡りは成功したのだ。
今回も全員無事である。

「Спасибо。助かったよ」
「こんの、馬鹿野郎が!! たまたま間に合ったから良かったものを!!」

安心するにはまだ早かった。
余韻もなにもなく、お折檻の時間が始まる。

「信じていたからさ。おかげでさっさと終わらせることができた」
「そういう問題じゃねぇ。いくら突撃癖があるっつってもな、それがいくら有効的だろうとな、此方は心臓が止まるかって思いなんだぞ、毎回」

響の反論をピシャリとシャットアウトして、木曾は正しく怒る。
今回ばかりは、怒鳴らざるをえなかった。
そう。別に響が囮になって危険な橋を渡らなくたって、この戦闘は無事に勝利することはできたのだ。
榛名も瑞鳳も、あんな砲撃に当たるほどノロマではなく、当初の予定通りに付かず離れずの砲撃戦をしていればそのまま終わらせられた戦いだった。
それを仲間が攻撃されたからってムキになって自らを危険に晒すなど、言語道断。確かに予定よりも早く戦い終わったが、それより安全な戦法を採択するほうが何百何千倍と重要だ。最近はなりを潜めていた後先考えない
無茶無謀な突撃戦法を目の当たりにして、それをなんとも思っていなさげな少女の態度を目の当たりにして、木曾はなんとも言えない気分になる。
木曾はこの目前の、しゅんとしていつもより小さく見える駆逐艦のコイツは、なんで突撃癖があるのだろうと思う。通常の砲雷撃戦でも並の駆逐艦よりずっと強いのに、どうも接近戦に拘っている節があるように感じるのだ。
それはいい。冷静であり、かつ軽巡級程度が相手ならまったく危なげなく処理できることは知っている。
だが、特に仲間が危機に陥ると暴走しがちだ。それはまるで特攻のようで、戦い方が乱暴になる。それでいて敵は確実に仕留めて、なにがなんでも生還するのだから、生きたいのか死にたいのかも判らない。
時たま「突撃隊長様」と揶揄することはあるが、なにも特攻しろとは言ってない。今後も絶対言わない。
実際、響が空に投げ出された時は心臓が凍るような思いだったのだ。もうあんなのはゴメンだと木曾は頭を振る。

「とにかく。あんま心配させてくれるな。突撃も結構だが、誰かに頼まれた時だけにしろ。もっと仲間を信じろ」
「っあぅ・・・・・・、ごめん」

木曾はデコピンして、この話はここまでだと少し焦げたマントを翻し水上を滑る。もっと何か言いたげなようだったが、榛名と瑞鳳と合流しなければならない。遠くで二人が手を振っているのが見えた。
響はあんまり痛くないおでこを抑えながら、その後に続く。

(・・・・・・そういえば、なんで私は接近戦に拘るんだろう)
0346ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:28:42.13ID:fA1jv6E30
そして密かに自問する。
自分で自分のことが解らないのはいつものことだが、木曾からのお叱りを受けてふと、響は自分の根源に疑問を持った。
接近戦には自信がある。
艦娘の戦法は独自の艤装と素質により決定づけられるもので、艤装は人それぞれの特徴があり形も装備もバラエ
ティ豊かだ。その点、特三型駆逐艦は艤装に防盾と錨が標準搭載されていて、持ち前の身軽さとスピードも相まって接近戦向けと言える。
自分には素養と適正がある。
姉妹の暁・雷・電も同様で、今は呉鎮守府にいる師匠からは格闘戦の手ほどきも受けたこともある。
だが師匠は、接近戦は護身用、最後の手段だと言っていた気がする。姉妹も師匠も、サーベルを持つ木曾だって、積極的に仕掛けることはしないのだ。
思い返せば、自分だけなのだ。日常的に積極的に接近戦を仕掛ける艦娘は。

(あいでんてぃてぃーってヤツなのかな、これは)

それは困った性質だなと、響は他人事のように分析した。
『本当の理由』を知っていながら、それを知らん振りをして。
確かに今回は無茶無謀だった。それは認めよう。自分自身、もうあんなのはゴメンだ。でも身体が勝手に動いてしまうのだ。これを制御するのはなかなか骨だなと思う。
もっともこの突撃癖はもう周知のもので、提督も榛名もそれを前提とした戦術を組むことは多々ある。敵が少数で駆逐級、軽巡級であれば殲滅してこいと送り出されるのが主だ。
そういえば戦艦級相手に立ち回ったのは久しぶりだっなと、今になって身震いがした。
本当にアレは、死ぬ一歩手前だ。それが二回連続で。
とりあえず当面は、木曾の言うとおり控えようと思った響だった。

「――なんですって!?」
「わっ! なに、どうしたんだい」

考え込んでいるうちに合流していたのだろう、気づけば目前にいた榛名が、珍しく大きな声で瑞鳳に食い掛かっていた。
全員無事に敵第4波を撃退したというのに、榛名は誰の目でみても明らかに焦っていた。信じられないという一心で、沈鬱な面持ちの瑞鳳の肩を掴む。
まさか、もう第5波が来たのか。だが、それにしては様子がおかしかった。
鳩が豆鉄砲をくらったような顔の木曾と響は、なにごとだと戸惑うばかりだ。

「・・・・・・うん、間違いない。このスピード――どうしよう榛名。このままじゃ・・・・・・」
「なんだ。なにがあった」
「それは――」
0347ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:31:15.93ID:fA1jv6E30
瞬間。


一条の閃光が、煌々とまっすぐに。榛名達の頭上の空気を灼いた。


遅れて、ヴァシュウッ! と、特徴的な擦過音が耳を打つ。
それは、聞き慣れた実体弾とは異なる音。それは、最近になって聞くようになった音。
それが意味するものは。

「・・・・・・【Titan】」
「おいでなすったか・・・・・・!」

深海棲艦にはランクがある。
通常のものよりも強い個体を【Elite】、群を統括する個体を【Flagship】と呼称する。
更に上位種に【姫】や【鬼】が存在するが、長らくこの【Elite】と【Flagship】の二種が、全ての海域に複数生息する、あまりにも強い敵として提督達を悩ませたものだ。
そして。
例の隕石が落ちてから出没するようになった、佐世保がここまで追い込まれることになった一番の原因。
10mまで膨れ上がった巨体で、荷電粒子砲や高誘導高速ミサイルを自在に操る、新たなる強敵。未知の機械を取り込んで異常進化を遂げたコイツこそが、二階堂提督が暫定的に【Titan】と名付けた新種の深海棲艦だった。
コイツの為にいったいどれほどの犠牲があったか、考えるだけで腸が煮えくりかえるようだった。

「6時方向、距離10。・・・・・・すごいスピードでこっちに来てるよ」
「弾が足りないよ」
「速度も射程もヤツのほうが上だ。コンテナに戻る前に追いつかれる」
「でも、ここで待ち受けることもできないわ。第五戦速で後退します。木曾は信号弾を」

今のままでは到底勝ち目がない。
弾薬がない砲塔はただの鉄屑だ。
続けざまの戦闘、予想よりもずっと速い敵の襲撃、このまま戦艦よりも硬い巨人などできるはずもない。
そう即座に判断した榛名は東に舵をとる。目指すは8マイル離れた八朗岳麓だ。

「囮もなにも使わず皆でただ逃げる。そうだな」
「ええ。逆襲はその後です」

先ほど火力支援をしてくれた隊を頼るほかなかった。途中で追いつかれるだろうが、そこからは戦車隊の善戦に期待するしかない。まずは補給しなければ。

「行きます!」

榛名達にとっては二日ぶりの、三度目となる【Titan】との戦いは、撤退戦から始まった。
0348ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/07/10(月) 20:33:22.65ID:fA1jv6E30
「くそ。なんて射程だよ」
「10mあるんだもん、私達よりずっと遠くまで視れるはずよ。・・・・・・羨ましいなぁ」
「ただでさえお前は小柄だもんな」
「ほ、ほっといてよぅ」

小柄な軽空母こと瑞鳳の最大速度である33ノットに準じた第五戦速(30ノット=約55km/h)で蛇行して、荷電粒子ビームを避けつつ愚痴を言い合う。
艦艇に準じた能力を持つ艦娘や深海棲艦といえども、通常の艦艇に明確に劣っているものがある。それは全高の低さに起因する、索敵能力の低さだ。
艦娘も深海棲艦も大体人間サイズ、つまり視認できる水平線は3マイル未満だし、電探も4〜5マイル程度に制限される。必然的に交戦距離は3マイル前後となり、これにもう慣れきっていたのだが、10mの巨人が相手とな
ると話は違ってくる。Titanなら目視で6マイルは見通せるだろう。
文字通りスケールが違う。索敵とは、高いところになければ性能を発揮できないものなのだ。
こちらからは見えないが、敵はもう自分達を完全に射程内に収めている。
夜目が利かない筈なのに、驚くべき精度だ。
今が夜でなければと、瑞鳳は歯がみした。
アウトレンジ攻撃は空母の華にして専売特許。それを踏みにじられた気分だった。

「追っかけてくるのは、あの一体だけみたい。やっぱり【Titan】は単独行動なんだわ」
「ならば打つ手はありますね。複数体ならどうしたものかと思ったのですが・・・・・・火力の限りフルボッコです。お姉様直伝のフルバースト、今こそお披露目です!」
「・・・・・・時々金剛さんが提督に怒られてたのって、まさかそういう?」

だが、今は自分のできることをできる限りやらなければ。
恐怖に押しつぶされそうな心を雑談で誤魔化しながら、瑞鳳は索敵と警戒に専念する。さっき泣き言を漏らしてしまったからこそ、全力で突破口を見出そうとよくよく目を凝らす。
偵察機のキャノピーを通じて飛び込んでくる視界には、鎧のような装甲やパイプ、謎のシリンダーを取り込んだ巨人の姿が確認できた。右手には大型のライフルが握られており、そこからビームが次々と射出される。
差し詰め、ビームライフルといったところか。
左肩にはミサイルポッド、背部には青白い炎を吐き出す推進ユニットを背負っていて、一目で今までの深海棲艦の装備とは趣が違うことがわかる。まるで、人類が造った機械をそのまま身につけているようだ。

「砲撃、来ます! カウント5。・・・・・・3、2、1、今!!」
「くぉ・・・・・・!」
「心臓に悪いね、これは・・・・・・」

瑞鳳が叫び、艦娘達は大きく進路を変えてビームを回避する。
超高熱のビームは海面に着弾すると同時に、小規模の水蒸気爆発を引き起こす。必要最低限の機動で回避、とはいかなかった。
急制動・急加速によって着弾位置をずらす常套手段も使えない。実弾相手なら、この遠距離なら、山なりに頭上
から落ちてくる砲弾の座標さえ避ければよかった。しかし、縦軸さえ合っていれば直進する光の矢は容赦なく背中から貫くだろう。どんなに遠距離であろうと、なにがなんでも横軸をずらさなければ回避できないのだ。
0349ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/07/10(月) 20:36:32.11ID:fA1jv6E30
砲撃音を聞いてからでは間に合わない、いつもよりずっと体力を使う回避動作。
特徴的な擦過音がただ通り過ぎるのを祈るしかない。御札が欲しいと切実に思う。
「ミサイルも来るよ! 数は10!」
「対空用意!!」

そうして逃走劇を始めて、5分が経った。
実弾砲と魚雷による戦闘とはまるで勝手も次元も違う、ビームとミサイルによる猛攻に追い立てられた第二艦隊は、当初の予定からは相当外れた航路を進み、ついに追いつかれてしまった。
最大にして唯一の誤算は、巨人達の速度が予想よりもずっと速かったことに尽きる。
背部推進機関によって戦車砲さえも機敏に避ける巨体は、孤立無援となった第二艦隊の前に壁となって立ちはだかる。

「この・・・・・・!」

木曾が毒づいて、左肩の25mm三連装機銃を向けた。しかし、ミサイル迎撃に酷使されたそれは既にすっからかんの鉄屑である。
それでも、構えずにはいられなかった。まともに戦うことも許されずに敗北するなど、認められるものではなかった。

「ッ、みんなは! 榛名が!! 護ります!!!!」
「・・・・・・諦めるにはまだ早いさ!」

まだ弾薬に余裕があった榛名と響が腹をくくり、火力の有りっ丈を巨人の右腕に向けて放つ。ビームライフルさえ封じればまだ活路はある。今までもそうやって倒してきたのだ。
しかし。

「学習しているとでも言うの・・・・・・!?」
「まだだ!!」

【Titan】は左腕を突き出し、ライフルを庇った。
代わりに左腕はズタズタに引き裂かれ使い物にならなくなったがそんなもの、こちらにとっては何も嬉しくない。弾を無駄に使ってしまったショックのほうが断然大きかった。
当然そんなことで挫けちゃいられない。今度こそと二人は散開し狙いを定めるが、今度は【Titan】が背部推進機関を噴かして跳躍、巨体に見合わない俊敏さで上空へ回避するとともにライフルを榛名に向ける。

「――!!」

――避けられない!
榛名は直感する。いつも当たって欲しくない事ばかり当てる戦士としての直感は、お前はここで死ぬと耳元で囁いてきた。上空の巨大な砲口を見上げ、一拍思考が停止する。
音が遠くなる。後悔の念だけが押し寄せる。
0350通常の名無しさんの3倍
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2017/07/10(月) 20:38:25.22ID:fA1jv6E30
連投回避
0351ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/07/10(月) 20:40:08.25ID:fA1jv6E30
瑞鳳が、夜であるにも関わらす弓に矢を番え、艦載機を出そうとした。
木曾が、思わず足を止めてしまった榛名を庇うべく走り出した。
響が、なんとかして狙いを逸らそうと錨を投擲した。
榛名は、そんなみんなを見て自失から醒め、最期まで抗おうと砲撃しようとした。


そして。
そのとき――


一筋の光条が天から降り注ぎ――


今にも発射されそうだった【Titan】のビームライフルに直撃し、小爆発を起こした。
0352ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/10(月) 20:48:13.19ID:fA1jv6E30
今回は以上です
どうもNGワードを含んでいた箇所があるようですが、どうにも特定できなかったので
そのあたりをバッサリカットしてしまいました・・・こういう時ってどうすればいいんでしょう? 
とりあえず今回の題は、第3話:闇夜の防衛戦になります。
まとめに載っけて頂く際にカットした部分を挿入してもらおうと思います。
自分も超感想欲しいです。


次スレですが、ちょっと外出しなくてはならなくなったので30分後ぐらいに
自分が建てようと思います。お待ちください。
テンプレ変更なし、ワッチョイなしでOKですよね?
0353ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/07/10(月) 21:23:14.96ID:fA1jv6E30
・・・・・・すいません。
テンプレに「NGワード書きすぎです。」と出ちゃってスレ建てできませんでした
どなたか代わりにお願いしますorz
0359通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/07/12(水) 02:23:55.62ID:76Nw/+jJ0
こういう時は容量高い人に合わせた方がいいの? それとも低い人?
個々人の環境によって容量が変化するにしても、個人的には高い方に合わせたほうが安全だと思うけれど
0361三流(ry
垢版 |
2017/07/12(水) 22:58:33.72ID:pNgwjlKD0
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第九話 ソロモンの時間、後編

「てえぇぇぇいっ!」
盾を内から外に薙ぐジャックのジム、カスペンのゲルググの胸元を盾先がかすめる。
その反動をアンバックに振り分けて宙返り、スラスターの噴射を合わせて
一気にゲルググの背面に回り込む。
「ぬん!」
腕の振りで後ろに向き直り、ヒートホークを打ち下ろして反撃するゲルググ、
しかしそれもジャックに、いやオハイオ・ジムには織り込み済みだ。
サメ顔の盾で受け止めると、それをいなし捌きつつ反転して蹴りを入れる、かろうじて盾で受けるゲルググ。

「くっ!」
カスペン大佐にとっての誤算は3つあった。ひとつは最新型モビルスーツ、ゲルググの操縦にまだ馴染みが薄いこと。
操作自体はザクと同じだが、反応速度や操縦桿の遊び、取り回しはまるで別物であり、違和感はぬぐえない。
2つにはこの宙域にまき散らされたビーム攪乱膜、ゲルググの特徴であるビームライフルやビーム長刀などのビーム兵器が
軒並み使えなくなっていること、やむなくザクの武器を携帯して出てきたが、照準も握りの感覚も合わない。
しかし彼にとって、そんな戦場での不都合など論じるに足りないことだった。

3つめ、この目の前の連邦軍モビルスーツ・ジムの、そして操縦者の恐るべき技量、これこそが脅威だった。
先読みをし後の先を取る、いわゆるニュータイプとは違う。とにかく先に動いてこちらに何もさせずに制圧を狙ってくる
その為の動きのバリエーション、行動ルーチン、普段からの練度がうかがえるというものだ。
防戦一方になりながらも、カスペンは冷静に反撃の機会をうかがっていた。
「あの盾を振り回すのが行動の起点になっておるな・・・そこから次の行動を読み違えなければ!」
何度目かの盾の大振りから機動をかけるジム、その瞬間にゲルググも動く。読み違えなければ性能はこちらが上なのだ!

ゲルググをジャックに任せ、ソロモン表面で戦闘する仲間のもとに向かうエディのジム、もうソーラーシステム照射まで時間がない。
すでに味方は片手で数えるほどに撃ち減らされていた、敵のモビルスーツ部隊はいまだに20機ほど健在、このままでは全滅も
時間の問題だ。部下たちを助けなければ!ここでエディは思い切った行動に出る。
「全員退避!ソーラーシステムが来るぞーっ!」
通信に絶叫するエディ、「通常回線」を「開いた」状態で、つまり味方のみならず敵にも聞こえるように。
敵味方が一斉に反応する。しかし連邦とジオンでその解釈は全く違っていた。
かろうじて生き残っている連邦兵、つまりエディの部下たちは、このままここに留まって戦闘を続けることが
確実な死を意味することを知っている、味方の攻撃によって。
ジオン兵にとっては違っていた。彼らはソーラーシステムの詳細を知らない。聞きようによってはここに連邦の新手が
来るようにも取れる。何より彼らの任務はこの地点の防衛、何が来ようと迎え撃ち、阻止するのが任務。
0362三流(ry
垢版 |
2017/07/12(水) 22:59:04.34ID:pNgwjlKD0
一斉に離脱するジム3機とボール2機、ザクやリックドムの多くはその場にとどまり、周囲を警戒する。

しかし反射的に逃げる敵兵を追おうとする者もいる、ザク3機とドム1機、その真っただ中に特攻するエディのジム。
追撃をしようとしていた所に、カウンターの体当たりを食らい激しく弾けるジムとザク、その自殺行為にも見える体当たりに
異常な空気を感じ、動きを止めるほかの追跡者たち。
システムのいくつかに異常を感じながらも、盾を振り回して白兵戦の機動を始めようとするエディ・ジム
しかし思うようには動けなかった、肝心の盾をさっきのゲルググの戦闘で捨ててきていたために。
次の瞬間、ドムのヒートサーベルがジムの腹を貫く、それを引き抜いた瞬間、別のザクのマシンガンがジムに集中する。
爆発までの数舜の間、エディは部下を少しでも逃がせたことに、ささやかな満足感を感じていた。
「ここまでか・・・ジャック、生き延びろよ・・・」
ソロモンに小さな爆発の光芒が咲く。そしてそれがまるでマッチを擦ったように、ソロモンの一角が明るく照らされていく。

カスペン大隊の精鋭たちは、何が起こったのかも分からぬまま、発生した太陽に焼かれ、溶けていった。


ジャックが何度目かの機動を開始した瞬間、ゲルググは腰からあるモノを取り出し、背後に放り投げる。
激しく機動してきたジムが、ゲルググの背後を取った時、それと接触する。
ザク用の兵器、クラッカー。モビルスーツサイズの手榴弾。
「しまっ・・!」
言葉を紡ぐ暇もなく、至近距離で爆発するクラッカー、吹き飛ぶジムに追撃の斧を振り下ろすゲルググ、勝負あった。
システムに甚大な被害を受け、パイロットも衝撃のGで激しく揺さぶられ、意識を飛ばす。
「手ごわかったな、褒めてやろう。」
とどめの一撃を加えんと構えるゲルググ、しかしその時、妙な光が視界に入る。
思わずふりむくカスペンは、信じがたいものを見た。
「な・・・」
ソロモンが輝いている、要塞の一角が、まるで太陽のように。わが精鋭たちが死守している区域が。
その光にあてられるように、失神したジャックが一瞬、意識をともす。
「ソーラーシステム・・・」
その光が消え、宇宙が再び闇に包まれるのに引き込まれるように、再び意識を閉じるジャック。
彼が最後に聞いたのは、一般回線から聞こえる、野太い声の軍人が絶叫しながら部下の名を呼ぶ悲鳴だった・・・

「リック小隊長!フレーゲル中隊長!応答しろ!ザガート軍曹っ!どこだあぁぁぁっ・・・」
0363三流(ry
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2017/07/12(水) 22:59:33.00ID:pNgwjlKD0
懐かしい顔を見た。
叔父や叔母、その周囲の面々。故郷シドニーでの気の合う仲間、旧友たち。
働きに出てたサイド2、アイランド・イフィッシュの工場の仲間、口うるさい上司、同い年の片思いの女学生、
そしてサメジマの兄貴、サラミス級シルバー・シンプソンの乗員たち、その傍らにはエディ・スコット。
そんな大勢の集団が無表情でこちらを見ている。
ふと、一人の男がジャックの横を通り過ぎ、その集団に向かって歩いていく。
背筋の伸びた、少しやせた金髪の軍人。堅苦しい面もあったが、深い情を持つ司令官。
「・・・ワッケイン指令、エディさん、どうして、そっちに・・・」
彼らは遠ざかり、光とも闇ともわからぬモヤに包まれ、そして、消えた。

ジャックは目を覚ます。涙はなかった、ただ深い深い喪失感だけが彼を包んでいた。
上半身を起こし、辺りを目にする。、周囲には無数のベッドとその上に寝る患者。
「おっ、目が覚めたか。」
医師が声をかける、枕もとのカルテを手に取り、言う。
「お前さんは外傷は無かったよ、意識さえはっきりしてればもう大丈夫だ。」
「・・・ここは?」
「ソロモン、改めコンペイトウ、つまり連邦軍の占領基地だよ、その医務室だ。
ああ、戦闘は連邦が勝ったのか、と思うジャック。しかし自分の部隊は・・・聞こうと思ったが、この医師が知るはずも無いだろう。
そのままベッドから起きだし、医務室を出るジャック。
医務室の外は各人が慌ただしく動いている。占領したばかりの敵基地、彼らにもやることはいくらでもある。
彷徨った末、コンソールルームを見つけ、個人情報を画面に出す。

『エディ大隊長、エディ・スコット:戦死』
『第三艦隊司令官 ワッケイン:任務中、テキサス・コロニー方面』
0364三流(ry
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2017/07/12(水) 22:59:57.91ID:pNgwjlKD0
・・・え?
一瞬の驚きの後、悲しみと安堵の両方の感情が押し寄せる。
サメジマの兄貴の意思を共に継いできたエディさんの死、それはソロモンがソーラーシステムで焼かれたのを見た時から
覚悟はしていた。実直で責任感の強い彼なら、あの場に部下を残して生き残ったりはしないだろう。
きっと部下をかばって逝ったろう、その姿を想像して目頭が熱くなる、兄貴とは違った意味で立派な人だった・・・。

ただ、嫌な夢を見た後だけに、ワッケイン指令が健在なことに安堵していた。
思えばルナツーで自分がかかわってきた人物では、もう彼くらいしか印象に残る人物はいなかった。
戦場の後方でふんぞり返っている偉いさんなど知ったことではない、ただ彼だけには生き残ってほしい。
戦争が終わって後、上層部として活躍するのは、ああいう人であってほしかった。
そのまま部屋を出て、自分の部隊の待機室を探しに歩いていく。

後に残ったコンソールの画面が、自動更新され、表示が切り替わる。

『ー第三艦隊司令官 ワッケイン、戦死ー』


第九話でした。実はPCがぶっ壊れて、書いてた分全部トビました orz
>>331さん
感想ありがとうございます。なるほど、場面転換や視点切り替えにも気を使ったほうがよさそうですね・・・
0365彰悟 ◆CEip2yjO.6
垢版 |
2017/07/13(木) 01:48:08.71ID:YfSo2Lws0
お久しぶりです。
皇女の戦いの続きを書いたので投下しますね。
0366彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/13(木) 01:53:50.67ID:YfSo2Lws0
皇女の戦い 第二話 PART1

「みなさん、お待ちかね!ガンダムファイトに備えて各国の選手達が集まってきております!」
ここは今回のガンダムファイトの開催地イギリス・ロンドン。
荘厳かつ新しいコロシアムには幾多の観客達に見守られながら多くのガンダム達が姿を現している。
空気を裂くようにして突如姿を見せるステルス機能搭載機。
大地を強引に割ってくる一際巨大な機体。
時計塔を天高く飛び越えるジャンプ力重視の機体。皆各国の最新技術をアピールする登場を見せている。
 
アザディスタンの王宮のテレビにもその雄姿が映し出されている。
「これが今回の代表の機体......」青紫の正装をしたマリナは下ろしていた拳を握る。
以前戦ってドローになった機体、テレビや合法的なネットワークで知っていた機体もあるが、やはり繊細な顔立ちは緊張りつめた心を隠せない。
「......?」突然消えた画面に驚いて振り向けば、リモコンの主はシーリンだった。
「今から自分を緊張させてどうするの?」
首を横に振ると微笑んで「他国の機体を少しでも知っておいた方がむしろ緊張を解せると思って。」
「肩、強張ってるわよ?」言われると恥ずかしそうに苦笑いするマリナ。
「だめね、どうしても下調べみたいなことをしなきゃ気が済まないところがあって。」
一度はすくめた肩をゆっくり張る。
「ふう......それだけの自覚があるのは良いけど逆効果な時もあるわ。責任感に押し潰されたら戦う前に負けるわ。そうなれば傷つくのはあなただけじゃないでしょう?」
口をキュッと結びながら頷くマリナ。「そうね。国のみんなの将来がかかっているものね......」
「そろそろ時間ね。行きましょう、シーリン。」その表情は紛れもなく皇女にしてガンダムファイターのものだった。
0367彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/13(木) 01:54:47.15ID:YfSo2Lws0
皇女の戦い 第二話 PART2

「マリナ様!絶対に勝って!」「必ず我々に資源を!」「ご武運をお祈りします!」
首都に住む多くの人々が王宮に集まり出発前のマリナを出迎える。幼い子供含め老若男女あらゆる人々が皇女に声援を送り、そして望みを託している。公務やファイトの修行の合間を縫って首都内の孤児院や病院に慰問を重ねてきたマリナには顔なじみの子供も大勢いた。
マリナの傍にいるシーリンは彼らの気持ちはわかるものの先を急いでいるといった面持ちだが邪険にする態度は取らなかった。それはマリナも同じだ。
「皆さんの思いは必ず果たします。離れていても私の戦いを見ていて下さい......
私に力を授けて下さりますから...」
真摯に答えるマリナに5歳ほどの女の子が大切そうに抱えた袋を持って寄ってくる。孤児院で何度も言葉を交わした子なので皇女相手にもそれ程緊張した様子はないが、その瞳は真剣そのものだった。
「あら、こんにちは。」両膝をついて微笑むマリナ。「これを私にくれるの?」
袋を開けると中には白を中心に赤、、黄色といった小さな花が1つに繋がった花飾りが出てきた。
「ありがとう、こんなに素敵なものを私に......」綻びながら少女の髪を優しく撫でる。
「いっぱい探して集めてきたんだよ。」少女はにこやかに、そしてどこか誇らしい笑みを浮かべた。
「マリナ様、この子が院の近くの山から採ってきたのです。土に汚れながら毎日少しずつ集めて......」少女の後ろにいたシスターの言葉にハッとして少女をそっと抱いた。
「そうだったの......貴女の為にも必ず勝つわ。信じて。」
0368彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/13(木) 01:55:45.63ID:YfSo2Lws0
皇女の戦い 第二話 PART3

以下が会場到着までの過程。
アザディスタン軍の基地内にあるガンダム(といっても保護用の巨大な飛行船に収納されているのだが)に乗り込みそのまま会場に向かうというシンプルなものだ。
ガンダムもその飛行船も過去のあらゆる軍事兵器や工業製品よりも頑強に作られているが、最新の注意を払う必要がある......

基地に向かう車内にはドライバーの他にマリナ、シーリン、腕利きのSPが3名。
道路の左右には王宮前よりも更に多くの国民達が皇女の乗った車に声援を送っている。
中には病を押して必死に手を振っている人もいる。マリナは微笑みながら丁寧に手を振り返す。
「マリナ、良かったわね。」「ええ...私、もっと強くなれた気がする......」
少女からもらった花飾りの入った袋をそっと、だが大切に抱きながらシーリンに応える。
「必ず勝つわ、私を信じてくれたみんなの為に......」
ガンダムファイター......本来格闘に身をやつした者が進む道を政の頂点にいる彼女自らが反対を押し切り選んだのだ。
無様な結果を残せば飢えと貧困に苦しむ国民だけでなく、彼女の無理を受け入れてくれたシーリン達にも申し訳が立たない...
(絶対に、敗北は許されない...)
「......」旧知の仲故かその切実な思いを見逃さなかったシーリンは、しかしいつもの冷然とした声で告げた。
「見えたわ、マリナ。」目の前にはアザディスタン軍事基地が質実剛健と聳えていた。
0369彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/13(木) 01:57:02.85ID:YfSo2Lws0
皇女の戦い 第二話 PART4

「今日という日をずっと待っておりました。私が皆様の礎になれるよう務めを果たします。」基地にて彼女達を出迎えた軍のトップに深々と頭を下げるマリナ。
「皇女自ら我らの為に御尽力下さるとは誠に光栄であります。」
トップの言葉と敬礼と同時に軍の上層部のメンバーも敬礼した。
一人一人に皇女が向けた視線は真剣さだけでなく、悲しげでもあった。
争いを好まないマリナも戦時中に命を懸けてきた彼らを尊敬している。だからこそ殊更に切なかった。
今回の闘いで国が豊かになれば少しでも彼らの犠牲も報われる...その感情もファイトでの力になっていたのは紛れもない事実だった。

基地内の格納庫はいつもより張り詰めた空気を孕んでいるように思われるのはファイターの思い過ごしだろうか。
技術者と整備員達とて同じような面持ちで皇女を送り出す準備に励んでいた。
「機体の最終点検は既に終了しました。ユディータの力があれば必ず......」
「はい、期待に必ず応えて見せます。」ずっと彼女のファイトを物理的に支えてきた技師長と握手を交わすマリナ。

「シーリン、先に行ってるわね。また会いましょう。」「ええ、気を付けてね。途中には何があるかわからないから。ここからがすでに戦場よ。」
厳しいながらもずっと見守ってくれた旧友と握手を交わすと慣れた足取りでタラップに乗って眼前の巨人・ユディータへと入っていった。
0370彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/07/13(木) 01:58:03.01ID:YfSo2Lws0
皇女の戦い 第二話 PART5
ガンダムユディータ......他国の機体とは一線を画す華奢でしなやかなそれは雪のように白い...
脛や前腕は濃紺に塗られており、白さと引き立て合う色使いになっている。
顎の上にスリットはなく、小さく細い顔。
出来得る限り攻撃のダメージを受け流す為全体的にボディのめりはりが強調されているが、胸と肩幅は小さくて狭い。
本来は弓術専用の機体だが、マリナのファイター志願により合気道にも対応すべく尚も柔軟なフレームシステムへと進化を遂げた。
背部にマウントされたケースからは縮小された特殊金属性の矢が収納されている。
(ユディータ、私を導いて...)
サバイバルイレブンを共に駆け抜けてきたこの機体に思いを馳せながら、孤独な戦場ともいえるコクピットに入っていく。

内部には上下に二つのリングがある。
丁寧に脱いだ衣服を折り畳むとそれらは一時的に粒子となって消えていく......
締まりつつもファイターらしからぬ細い肢体は決心を固めながら祈るように胸の前で手を握り、片膝を着く。
上方のリングからスーツが優しい色合いに似つかわしくない圧力を伴いながらマリナの身体に張り付いていく。
身体は強張り現在の態勢を保つのが精一杯。
「......っ!」いつものように苦しみながらも必死で手足を動かしスーツを纏わせていく。
ゆっくりと腰を上げ、立ち上がる。
最初の時に比べれば圧倒的に装着時間を短縮している。
実戦未経験の時は、スーツを着た直後でも体に負担がかかり動きがおぼつかず、フラフラしていたのだ。
それを国によるスーツの調節、柔軟性と(他のファイターには負けるが)最低限の筋力や動きのトレーニング。
これらの甲斐あって時間と負荷を最小限に留めるに成功したのだ。
各国共通の肩、手首、足首についたイエローのセンサー
無駄のない細い胴体を包む水色の爽やかなスーツがほんのりした腹筋を浮かび上がらせている。
撫で肩と股を守るのはうっすらとした水色。そしてそれらから伸びる長い手足と小さな臀部はユディータ同様の純白。
一口で言うと、手足に向かうに連れて薄い色になっているスーツだった。
そして胸にはアザディスタンの誇りを象った国の証が描かれている。
ずっとこのスーツと機体で戦い続けてきたのだ。
天井のハッチが開けば中東の真っ青な空がマリナを祝福するように広がっていた。
シーリンや技術者に会釈をするとシンプルな形状の格納型飛行船に乗り込み大空を旅立っていった。
皇女と国民の願いを風と轟音に乗せどこまでも......
0371彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/07/13(木) 02:00:37.79ID:YfSo2Lws0
今日の投下は以上になります。

改行忘れてすいません。読み辛いですよね...orz
今度から気を付けます。

それではお休みなさい。
0372彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/07/13(木) 20:47:03.74ID:YfSo2Lws0
>>331さん、読んで下さってありがとうございます。
リロってなくてレス遅くなってしまいすいません。

自分でもちょい奇抜?と思ったのですが、あのマリナが...という感じのギャップを出せたらいいかなと思ってます。
敵ファイター達の設定も考えていますので、皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。

>>355
遅れましたがありがとうございます。

昨日書き込んだ自分が言うのも何なのですが、容量の問題...しばらくはこのスレを使わせて頂いてもよろしいでしょうか?
自分のところでは534KBです。
すいません。リロって事情を把握すべきでした、気を付けます。
0373彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/07/14(金) 22:35:37.40ID:n0YyhdGF0
こんばんは。続きを書いたので投下します。

皇女の戦い 第三話 PART1

 中東の乾いた風が吹きすさぶ大空。
ガンダムによる飛行訓練をしているといつも思う。
自分が住んでいる国に貧困やそれによる犯罪が溢れているなんて嘘のような気がする...と。
そんな思いが今戦いに向かうマリナの気持ちを少しでも和らげていた。
自身のスーツよりも青々とした空に少しずつ晴れた表情になっているのがわかる。

「......っ!?」コクピット内に警報が響き渡る。それだけでなく何かが近づいてくる感覚に息を飲む。
「誰?」しかし辺りを見回しても何もない......ただ青空とそこに浮く白い雲があるだけ。
この気配は決して空腹の猛禽類ではない...もっと強烈な意思......≪人間の殺気≫だ......
幼いころより周囲の貧困を見てきた彼女は人々の金品や食料の取り合いを全く見なかったわけではない。
皇女の座に着いてからは極度に不満の爆発した国民の怒りも目の当たりに、その度に心を痛めてきた。
しかし、この殺気はそれまでのものとは違う。もっと純粋な敵対心。絶対に避けることができないことを彼女は感づいていた。
「どなたです?姿を見せてください。」
できるだけ毅然と落ち着いた声色で呼びかけた次の瞬間……
0374彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/14(金) 22:36:46.97ID:n0YyhdGF0
皇女の戦い 第三話 PART2
「はっ!」一瞬捉えられないように思えた太く、龍のように長く紅い光が澄んだ空を駆けていく......
避けたは良いが飛行船は右半分が溶けて白い鋼は形を歪ませ、溶けていく。あくまでそれはガンダム専用、マリナ以外誰も入っていなかったのが幸いだった......
勿論ユディータの巨大な白い痩身は右半分程が露出してはいるものの傷はないのがせめてもの救いだった。
「一体、何なの?」混乱する感情をできるだけ落ち着かせるマリナ。ファイターとして精神を鎮めることも教わっていた。
今朝テレビで見たステルス機能搭載のガンダムを思い出した。尤も、あれは既に会場に到着しているので今の連中は全く別人。偶然類似した技術を用いていたか、はたまた盗用したのか。
それはともかく目先の「空気」に視線を冷静に這わせるよう努めた。
0375彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/14(金) 22:37:28.76ID:n0YyhdGF0
皇女の戦い 第三話 PART3
「ふふ、中々いい避け方だったぜ。ちょっと惜しかったが。」「随分綺麗な機体じゃねえか。やっぱ皇女様が乗るものは一味違うな。」
どこか人を喰った、荒くれたような喋り方の男の声が2名聞こえてきた。
「私にはこんなことに付き合っている時間はないのです。どいて下さい。」
すると周囲にあった青空の一部が少しずつ人のような形となり浮かび上がってきた。
......いや、正確にはそれまで空中に擬態して隠れていた。
その姿はモンスターではなく、人の手で作られた歴とした機械...MSだった。
黒く無骨なシルエットと不気味に紅く光るモノアイ。まるで獲物を見つけて喜々とした獣のように見える。まるで狩人のように銃を構えて狙い撃ちするのを楽しんでいるような雰囲気さえある。
(今ここでまともに相手をしている時間はないわ......こうなれば...)
機体内部のパージスイッチを押すと残りの飛行船が外れゆっくりと地上に落ちていく。
こうなればデッドウェイトでしかないそれは、マリナの定めた狙いのままにゆっくりと緑の乏しい山に向かっていく。
誰もいないのは明らかなので一番安全な場所と言える。
0376彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/14(金) 22:38:30.40ID:n0YyhdGF0
皇女の戦い 第三話 PART4
背中にマウントしていた弓を携え矢を構える。
精度が高く、硬度と柔軟性を併せ持ったアローは幾度もマリナの窮地を救ってきた。
それに時に迫られている彼女にとって頼みの綱になるのは遠方から相手を狙える弓術しかない。
堂々とした構えで敵機二体のライフルを一気に弾き落とす。
「ぐっ、こいつ!」「やりやがって!」
「......私はガンダムファイターの端くれです。殺し合いなんて望んでいません。
......これ以上は......早く帰ってください。」
ファイトと違い明確な悪意を持った敵、しかしそれでも命を奪わずにいられることに越したことはない、そんなマリナの気持ちを嘲笑うかのように二体は太めのサーベルを取り出し襲い掛かってきた!

「仕方がないわ!残念だけど...」訓練で培った相手の動きを読む技術......マリナは柔らかい動きで回避するとさらに素早く構えた矢で一体の右腕、頭部を狙った。
センサーであるモノアイは外したが、空中でバランスを崩しつつ何とか存在している。
「野郎!」向かってくるもう一体に一切逃げる素振りを見せず弓の準備をするマリナのガンダムユディータ。
あともう少しでサーベルが頭部に届くかという所で瞬時にかわし、相手の懐に飛び込んだ。
「もうこんなことさせないで...」切なそうな声と共に相手の両肩を至近距離の射撃で破壊する。
衝撃で両腕は脆くも地上に落下していく。

「どうする、あいつ中々の腕前だぜ?」パイロットの一人が呼びかけた空間には誰もいない
...いや、いるのだ。マリナは犇々と感じていた。この二人よりさらに強い殺気を持った何者かがその空間にいるのだ。
「......!」ファイターになってからまだ数年も経っていないマリナですら緊迫感でその相手に目を見張らざるを得なかった。
「相当やるみたいだね......皇女さん?」
冷たく挑戦的な声と共に堅牢な装甲の巨人が浮かび上がって......
0377彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/07/14(金) 22:41:20.60ID:n0YyhdGF0
今日は以上です。
脱線気味?に思われるかもしれませんが、これからの伏線(というか前置き)のような展開にしました。

それではまた。
0378三流(ry
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2017/07/16(日) 12:08:53.86ID:pcJWScTn0
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十話 掌からこぼれる水のように

「諸君らの階級、所属は以上だ、なにか質問は?」
ソロモンのブリーフィングルームにて、壇上に上がっている指揮官から、部屋に座っている30名ほどの士官に通達がなされる。
ジオンとの最終決戦と目されるア・バオア・クー攻防戦、「星一号作戦」に備えた最終部隊編成、その会議場。
その一角にジャック・フィリップス「少尉」もいた。ほんの5分前から彼はこの階級と、自らの部隊の隊長を任じられた。
付く部下は5名、自分を合わせて6名の中隊クラス。彼に限らず、先のソロモン攻防戦の生き残りはほぼ全員が
先任として隊長クラスの地位に就くことになる。

それは連邦軍の如実な人材不足を示していた。もともとこの戦争は最近までジオン優位に進んでいた、それは
モビルスーツ等の兵器の差が主な原因であった。そこで連邦は兵器、特にモビルスーツの大量生産を重視してきた。
事実それは功を奏し、戦場をわずか数か月で地球から一気にジオン本国手前の月面周辺まで押し返した。
だがいくら兵器がたくさんあっても、それを動かす人間がいなければ意味がない。コロニー落としから初期の劣勢で
兵士の絶対数不足は軍にとって深刻な問題ではあった。そんな中、実戦経験者である彼らは連邦軍にとって
貴重な戦力であったのだ。

「質問がなければ、兵士の振り分けに入る、入ってきたまえ。」
後方のドアが開き、広くとられた部屋後ろのスペースにぞろぞろと人が入ってくる。会議のさ中、廊下で待機していたらしい。
しかし入ってきた彼らを見て、その部屋にいた先任パイロット達は驚きを隠せなかった。
あどけない顔、華奢な体、似合わない軍服、そう、子供だ。明らかに軍に所属し、戦争をする年齢には見えない。
100人以上が入室してきたが、おおよそ軍人らしい人間を探すのが難しいレベルだ。
「司令!こりゃ・・・なんの冗談ですか。」
年長の士官が壇上の人物に問う。無理もない、この士官の息子でももう少し年がいっているだろうから。
「彼らはみな、シュミレーションで上位の成績を収めた優秀者だ、志願兵だから意欲も高い。」
「そんな問題じゃねぇでしょうが!」
別の士官が吐き捨てる。なるほど、確かに若いと対応力も高いだろう。シミュレーションなら頭の固い大人より
彼らのような若者のほうが好成績をあげられるのも無理はない。
しかし戦争で部下として使うということは、彼らに「死んで来い」と言うことすらあるのだ。
まだ20年も生きていないような子供を戦火に放り込むというのか・・・
0379三流(ry
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2017/07/16(日) 12:09:32.46ID:pcJWScTn0
「彼らには志願した理由がある、ジオンを打倒したいという共通の認識が、な。」
指令の言葉に息をのむ士官たち。なるほど、彼らはジオンに恨みがある、つまり家族や友人、近しい人を
この戦争で亡くしているのだろう。
だが、だからといってやはり前途有望な彼らを前線に出すのは気が引ける。そんな空気を読み取ってか、こう続ける指令。
「決戦での戦力比は10対1と想定されている、とにかく数で圧倒する必要がある以上、人員は必要なのだよ。」
戦力差10対1、それはもう戦闘にもならないほどの圧倒的大差である。この物量作戦をもってすれば
敵の戦意を削ぎ、ろくに戦闘にならずに勝つことも十分ありえるだろう。
ただ、それにはまがいなりにもモビルスーツが動いてなければ意味がない、無人操作で戦闘できるような
機体は今の連邦にはないのだから。
「では、振り分けに入る、名前を呼ばれた士官は起立、そのあと呼ばれた新兵は起立した士官のもとに行くこと。」
「「はいっ!」」
「リチャード・アイン大隊長!所属兵、ニック・ノーマン一等兵、アルフ・リキッド軍曹・・・」
次々と名前が呼ばれ、起立した士官の机に少年たちが集まってくる。
「次、ジャック・フィリップス中隊長!所属兵ビル・ブライアント軍曹、キム・チャン一等兵、サーラ・チーバー一等兵・・・

振り分けが終わり、それぞれの隊が個室に移動してブリーフィングを始める。
「ジャック・フィリップス少尉だ、30分前からな。じゃあ、時計回りに自己紹介を。」
ジャックに促され、順に紹介を始めていく。
「ビル・ブライアント軍曹です、ジム搭乗。隊長もずいぶん若いっすねぇ、俺19ですけど、いくつ?」
5人の中では比較的、軍人に見える長身の青年、とはいえ軍人を基準にすると単なるチンピラにしか見えないが。
「キム・チャン一等兵、ボール搭乗、17歳です。」
眼鏡をかけた、背の低い少年兵、色白で少し小太りな、戦うイメージが全く見えない。
「サーラ・チーバー、ジムのパイロットです。18ですけど、ご不満ですか?」
ブロンドの髪を目の前でかき分け、見下ろす長身の少女。これまた生意気そうな、そして扱いにくそうな娘だ。
「マリオ・サンタナ一等兵、ジム、17!」
それだけ言うと着席する、浅黒い肌の少年。礼儀正しいのか緊張しているのか・・・
「・・・あの、ツバサ・ミナドリ二等兵・・・ボール搭乗、16歳です・・・。」
最後におずおずと挨拶をする内気そうな東洋系の少女、なんとも頼りないこのメンバーの中でも一際頼りない・・・

「ちなみに俺は18だ、同じ世代だが、不満があるか?」
全員の紹介が終わってから、最初のビルの質問に答えるジャック。彼の意図は見え見えだ、かつて俺が最初サメジマの兄貴に感じた
頼りなさを感じ取っているのだろう、あえて挑発を向けてみる。
「年下っすかぁ!ま、いいや。戦場では己の腕ひとつですからね。」
「そうね、自分の身は自分で守らないと、ね。」
ビルとサーラが返す。暗にお前の指揮に従って命を落とすのは御免だ、と言っているのだろう、頼もしい限りだ。
だが2人に勝手をさせれば、他の3人がどうするか困るだろう。彼らを死なせないためにも統率は必要だ。
思えばサメジマの兄貴やエディさんもこんな苦労をしていたんだろうなぁ、彼らなりのやり方で。
0380三流(ry
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2017/07/16(日) 12:10:04.56ID:pcJWScTn0
ソロモンから艦隊が発進する、いよいよ星一号作戦の開始だ。一列に並べればソロモンからア・バオア・クーまで
繋がるのではと思うほどの大艦隊、搭載されているジムやボールの数もすさまじいものだ。
そんな中、ジャック中隊は突貫訓練を行っていた。艦隊速度が安定した時点で艦を出て、実戦形式の戦いをする。
6名の中隊なら、うち3名を率いる小隊長も必要だし、自分が戦死した時の指揮官代理も決めておく必要がある。
その資質を実戦練習で見極め、また彼らにもシュミレーションではない実機の操作を決戦までに身につけねばならない。

最初はジャックがキム、サーラ、マリオの3人と対戦。
もちろん結果はジャックの圧勝だった。3人とも少しは搭乗経験もあるようだが、まだまだ戦場に出せるレベルではない。
サーラもマリオもまだまだジムの基本ルーチンすら使いこなせていない、特別ルーチンを開発、搭載し、実戦で鍛えてきた
ジャックのジムとは比較のしようもなかった。キムの機体はボールだが、練度はそこそこの線に行っていた、小隊長候補かな。。
彼らが母艦に補給に行くと入れ替わりに、ビルとツバサがやってくる。ジャックは気が付かなかったが、ツバサにはすれ違う時に
ビルとサーラが軽くコンタクトを交わしたように見えた。
「あ、あの二人、もしかして・・・」

「さて、お手並み拝見と行きますよ、中隊長殿。」
ビルは自信満々だ、性格からくるのだろう。ただ戦場という場においてこの性格がうまくハマれば伸びる可能性は十分ある
対戦をこの組み合わせにしたのも、ビルの自信家っぷりの影響を気弱そうなツバサにも受けてほしかったから。
ジャックはいつの間にか、彼らの隊長であることを自覚し始めていた。ルナツーからこっち、周りはみんな先輩で
誰かに何かを教えることなどなかったから。
この訓練が終わったら、サメジマの兄貴に教わった大事なことを5人に教えてやろう。
敵は恨むものじゃなく褒めるものだということ、殺しあう相手だからこそ、それは大切なこと、自分の人生を後悔しないために。

なるほど言うだけのことはある、ビルのジムの練度は5人の中でも飛びぬけていた。基本ルーチンをうまく使いジムをぶん回す、
これでサポートのツバサがうまく動けばジャックも不覚を取りかねないだろう、それを見越して接近戦に持ち込むジャック。
こうなるとさすがに練度の差が出る、ダイナミックなアンバックを駆使してのトリッキーな動きでビルを翻弄、彼の背中に
ペイント弾を打ち込む。
「くっ、くそおっ!」
「自分一人で何とかしようとするからだ、援護砲撃できるボールがいるんだから、たまに距離をとってその機会を作れ。
あとツバサはもっと動け、戦場では静止してると的になるだけだ。」
「は、はいっ・・・」
「じゃあ、もう一回いくぞ、お前らの機体がペイントで真っ赤になる前に一本取って見せろ。」
「イエッサー!」「はいっ!」
たった一回の訓練で、ビルは少し従順になり、ツバサは強い返事ができるほどにはなった。そう、1の実戦は時に
100のシュミレーションを上回る価値がある、ジャックは今まで感じたことのない充実感を覚えていた。
0381三流(ry
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2017/07/16(日) 12:10:26.75ID:pcJWScTn0
―そしてその時、宇宙が輝いた―


その恐るべき野太い光の筒は、連邦軍艦隊のど真ん中を通過していく、恐るべき破壊と殺戮を伴って。
直径数キロ、長さ100キロにも及ぶ超巨大レーザーが、艦隊のど真ん中を焼き払って行った。
その光景にジャックも、ビルも、ツバサも、言葉を失った。確実なことは一つ、連邦軍艦隊の大部分が
壊滅したということだけだった。

突然、高速でその艦隊に起動するビル。
「うわあぁぁぁーっ!サーラ、サーラあああっ!」
絶叫しながら艦隊に向かうビル、明らかに取り乱している。その態度が逆にジャックを落ち着かせた。
「おい、待てっ!」
消滅した艦はともかく、ダメージを負った艦に不用意に近づくのは危険だ。止めに走るジャック。
「やっぱり・・・あの二人・・・」
ツバサは冷静に、しかし悲しい声で二人を見送る。

「サーラ!どこだ、返事しろおぉぉっ!」
爆風の熱波が残る空間で、サーラの姿を探すビル、しかし当然ながらどこにも見えない。
無理もない、彼らの母艦は艦隊のほぼ中央、つまり巨大レーザーのど真ん中あたりにいたのだ。
「落ち着けビル!この空間は危険だ、避難しろっ!」
すぐ右に半分吹き飛んだサラミスがいる、いつ大爆発してもおかしくない。ビルのジムの腕をとり、その場を離れるジャックのジム。
「離せ、離してくれっ!サーラが!サーラが・・・うわあぁぁぁぁーっ」
爆発するサラミス、その余波で少し前までいた空間が炎に嘗め尽くされる、まさに間一髪だった。

ツバサと合流する二人、ビルは未だに嗚咽を洩らしている。強気な彼にもこんなに脆い一面があったのか。
もっとも彼の態度を見れば、ビルとサーラの関係は容易に想像がつく。恋人同士か、それに近い関係だったのだろう。
それが戦争、愛しい者が簡単に消え去るからこそ・・・
「あ、あれ・・・?」
ジャックは自分が泣いていることに気づいていなかった。過去に故郷の仲間や兄貴が死んだ時にも涙はあった。
しかし今回は違う、彼らは自分が守るべき、そして大切なコトを伝えるべき部下だったのだ。
サーラ、キム、マリオ、この3人を失った事実、それはまるで掌ですくった大切な水が手の隙間からこぼれていくように
止めようのない悲劇を悲しむ感情だった、覆水を止められない自分の無力さを噛みしめる涙・・・

ジャックはソロモンで聞いた、銀色のモビルスーツ乗りの指揮官の絶叫を思い出していた。
あれほどの軍人でも部下が死ぬのは身を切られるように辛いのだ。
ジャックは声を上げずに、黙祷してさめざめと泣いた。短い間だったが、決して忘れたくない俺の初めての部下。
彼らを失った喪失感、それは「過去」ではなく「未来」の自分の居場所を削り取られたようだった・・・。


第十話でした。
部下から上官へ、最終決戦を前にジャック君の立場も変わりつつあります。
物語も終盤、上手くまとめられるか不安なところですので感想、アドバイス頼みます。
0382三流(ry
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2017/07/18(火) 22:36:23.75ID:EXn3Dp580
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十一話 光芒の星々をすり抜けて

―ソーラレイ―

ジオンの最終兵器、コロニーそのものを砲身とした超巨大レーザー。
ジオン公王デギン・ザビを乗せたグレート・デギンもろとも連邦軍艦隊を薙ぎ払ったその一撃は
連邦主力の4割をもぎ取っていくという大戦果を、そして悲劇をもたらした。
圧勝のはずの星一号作戦は一転、どちらに転ぶかわからないほどの戦力の拮抗を招いた、未だ数的には連邦有利とはいえ。
しかし、ギレン・ザビ以下、ジオン首脳は正しく理解していなかった。このソーラレイで数的不利を覆したツケが
連邦軍全体に憎悪となって刻み込まれたことを。
数で圧倒し、降伏したものには寛大な処置をしえた思考から、憎しみに塗りつぶされた復讐戦と化したことを。
上は指揮官から下は前線の兵士まで、ジオン憎しの意識を燃え上がらせたことが、のちの悲劇につながることを。

戦艦マゼランの兵士待機室、その一角に座り込み、俯いて床を見つめる兵士がいた。涙は枯れ果て、その瞳は憎悪に燃える。
「ジオン・・・許さねぇ。皆殺しにしてやる。ぶっ殺してやる、一人残らず・・・」
ビル・ブライアントが最愛の人を亡くしたのはほんの十数時間前、最後に交わした言葉は、ジムの訓練中、隊長ジャックに
こてんぱんにノされたサーラに「カタキはとってやるぜ」と冗談めかして送った通信だった。
返信はなかったが、彼女のジムが親指を立てて合図したそのポーズが、その奥のコックピットにいる彼女の表情を
浮かび上がらせる、がんばって、と。
そのサーラは見ていただろう、彼が結局ジャックに及ばなかったこと、そしてそれを決して残念には思わなかったことを。
無事に帰ったなら、「やるじゃない、ウチの隊長クンも。」などとウインクを投げて言われただろうことを・・・

ジャックはそんなビルの前に立ち、かける言葉を探していた。ジャック自身アイランド・イフィッシュの仲間、
シドニーの家族、尊敬する兄貴、先輩、そしてつい先日には長く世話になった司令官さえ失ってきた。
しかしただひとつ、恋人を亡くした経験はなかった。その悲しみがいかほどか、それを推し量ることはできなかった。
あるいはそっとしておくべきかもしれない。戦場において彼の憎しみがプラスに働くこともまた否定はできない、
赤く燃え盛る憎悪は破滅しか招かないが、青く静かに燃える憎悪の炎は戦果と生還につながる可能性がある。
兄貴は俺をぶん殴って目を覚まさせた。しかし彼を今殴っても憎悪の質を赤い炎にするだけかもしれない。
彼は一言、ビルにこう告げた。
「サーラは、きっと見てるよ、お前を。だから・・・死ぬなよ。生きて彼女をまた思い出してやれ。」
0384三流(ry
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2017/07/18(火) 22:41:40.53ID:EXn3Dp580
部屋を出るジャックを追いかけて、ツバサが部屋から出てきた。
「あの・・・ジャック中隊長、その、お願いがあるのですが・・・」
「何だい?」
自分でも信じられないほど優しい声で返すジャック。先のビルとのやりとりの余韻もあっただろうが、最終決戦を前に
ただ二人残った自分の部下、しかも少女となれば自然と語句も柔らかくなる。
「その・・・コックピットで、音楽、かけてもいいですか?」
「んあ?」
「そ、その、同期の人に聞いたんです。彼の所属の隊長が、出撃時に音楽をかけるって。だから、私も・・・ダメですか?」
「・・・どこの隊、それ?」
「えっと、部隊名は忘れましたけど、確かイオ・フレミング隊長とかいう・・・」
有名どころだ。激戦区であるサンダーボルト宙域を戦い抜いてきた猛者、連邦でも数少ないフラッグ・モビルスーツ
「ガンダム」を乗りこなし、数々の戦果を挙げてきた英雄。しかし音楽を聴きながら戦闘してたというのは初耳だった。

「私、音楽を聴くと落ち着くんです、そうすれば戦場でもきっと冷静になれると思うんです、だから・・・」
「・・・通信は聞き逃すなよ。」
「え、いいん、ですか・・・?」
「好きにするといい。」
それだけを言って背中を向けるジャック。正直、彼女の技量では最終決戦を生き延びれる可能性は少ない。
その確率を少しでも上げられるなら、多少のワガママにも目をつぶれる。
背中で「ありがとうございます」の言葉と、深々と首を垂れる彼女を感じながら、ジャックは愛機の待つハンガーに向かった。

ハンガーに格納された彼のジム、その中身は兄貴のスピリットを受け継ぎ、エディさんとの研鑽の結晶が詰まっている。
そしてその盾には、その象徴である精悍なサメの顔が映っていた。
「ねぇサメジマの兄貴、それにエディさん、俺にも部下ができたんだぜ・・・」
シャークペイントに向かって語る。まるでそこに二人がいるように感じられたから。
「これで最後だよ、長いようで短かったけど、今回で最後にする、きっと!だから、見ててくれ。」
獲物をかみ砕く顎(あぎと)、兄貴のお気に入りであり、エディさんが苦笑いで受け入れた勇敢の証。
その牙に誓う。これを最後にすること、彼らから自分につながれた命を、必ず部下の二人に託すことを・・・
0385三流(ry
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2017/07/18(火) 22:43:01.55ID:EXn3Dp580
―宇宙世紀0079、12/31、星一号作戦、開始―

攻撃目標ア・バオア・クーを上方から見て4つのフィールド、東西南北を示すE、W、S、Nに区切り
うち3方向から一気に制圧を目指す。主力をNフィールド、搦め手をSフィールドに振り分け、Eフィールドには
牽制部隊が送り込まれる。とはいえどの戦場でも、戦力は連邦のほうが圧倒的に優位だ。
しかしソーラレイでの戦力減退が、安易な降伏や停戦を許さないほどには戦力を拮抗させたことは否めない、
つまりどの空間でも剝き出しの殺し合いになることは確実だ。

ジャックの所属する部隊は牽制のEフィールド、しかしその配置は敵索部隊によって敵にも知られている。
本命のSフィールドやNフィールドに比べ、ジオンの戦力の振り分けが少ないのは確実だろう。
となれば最初に敵の防衛線を突破し、ア・バオア・クーに取りつくのがこのEフィールドの部隊であっても
なんら不思議ではない。

マゼラン1、サラミス6艦から吐き出された大量のジム・ボール部隊がEフィールドに展開する。迎え撃つは数隻のムサイと
そこから発進するザクを中心としたモビルスーツ部隊。双方の戦艦は対に位置し、その間の宇宙でモビルスーツが激突する。
例えるなら艦隊はサッカーの両ゴールで、フィールド内のモビルスーツは選手といったところか。
モビルスーツの勝敗が決すれば、大量のシュートが敗れた方のゴールに打ち込まれるだろう、そしてそこでの勝敗が決する。
モビルスーツという巨人の群れ同士の殺し合いが始まった。

「ビル!ツバサ!絶対に動きを止めるなよ!」
激しく機動しながらジャックが叫ぶ。こうも敵味方が密集していると、狙いをつけるだけでも大きな隙となる
攻撃は適当でいい、味方を誤射さえしなければ。3機で離れすぎないように飛び回り、戦場のフィールドを横切る。
密集地を抜けたところで終結し、わずかな時間を射撃に費やし、そしてまたフィールドに飛び込む。
ジャックにとって意外だったのは、ビルが思ったより冷静だったことだ。突出して身を危険にさらすことを
心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。
爆発の光芒の中を両陣営のモビルスーツが飛び交う。そして優越が徐々に偏っていく。押しているのは連邦だ。
一度優劣がつくと、そこからは早かった。1機のザクに複数のジム、ボールが殺到し仕留めていく。
もともと数で劣勢なジオンにとって、負け始めると崩れていくのは加速を増す。やがてザク部隊はムサイ周囲まで下がり
母艦を逃がすための殿(しんがり)として最後の抵抗をする。そこに殺到するジム・ボール。

その側面に、大量のミサイルが降り注ぐ。正面にしか注意が行ってなかった連邦軍はこの不意打ちに大きなダメージを受けた。
ミサイルの後に来たのはモビルスーツではなかった。円筒形の、ドラム缶を横倒しにしたようなモビルポッドだった。
その数約30機、思わぬ新手に連邦の攻勢が止まる。再び戦場は互角の攻防になるかと思われた。
しかし連邦も押し返されてばかりではない。攻勢に便乗しようとしたサラミスやマゼランの艦砲射撃がザクやその後ろの
ムサイに殺到する。次々に撃沈していくムサイ。そしてザクに代わりムサイの前に立ちはだかるジオンのモビルポッド。
0386三流(ry
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2017/07/18(火) 22:45:06.34ID:EXn3Dp580
「オッゴってやつか!気を付けろ、先日月軌道上でボール2個小隊がこいつに食われているぞ!」
大隊長が叫ぶ。モビルポッドでもボールとは違い、アタッチメントを使用してザクのマシンガンやバズーカを搭載
動きもモビルポッドとは思えないくらい速く、なおかつ3機1組で編隊飛行しているために、今しがたまでの
対モビルスーツ戦闘とは毛色の違う戦いを強いられてしまう、頭の切り替えの遅いジムやボールが仕留められていく。
とはいえ艦砲射撃によりムサイはほぼ轟沈、残った最後の一艦もたまらず退避を始める。これによりオッゴが
補給を受けるべき母艦はなくなった。マゼランやサラミスは健在、数は互角、ボールはともかくジムは性能が上位、
未だに連邦の優位は動かなかった。

ここで連邦は部隊を2つに分ける。居残って戦闘を続ける者と、一度母艦に帰艦して補給を受ける者に。
一時期戦場は不利になるが、その行動自体を罠と思わせるような巧みな全体機動で敵に警戒させる、これが功を奏した。
連邦側は知らなかったが、実はジオンのオッゴ部隊は学徒兵の部隊だった、戦場において攻勢をかけるべきタイミングを
つかむためのカンが働かなかったのだ。
一度両サイドに分かれる連邦とジオン、素早い着艦で補給を済ませ、再出撃するジムやボール。
この判断をした連邦軍の大隊長は自分の判断の成功に思わず舌なめずりをする、彼は勝ちを確信した。

その時、その大隊長のジムを含む補給を終えた数機が、突如飛んできた光に飲み込まれた。
戦場を走るその光線は、そのままサラミス1隻を薙ぎ払い、爆発させる。
敵味方が一斉にその方面に目をやる。そのビームを放ったのは戦艦ほどもある、巨大な赤い影に。

「また新型かっ!」
ジャックが叫ぶ。地球軌道でヅダ、基地攻防戦でザクレロ、ソロモンで銀のゲルググ、そしてこのア・バオア・クーでの
この赤い巨大モビルアーマー、ジオンの開発の速度は一体どこまですさまじいというのか・・・。
「なんだ、アイツは!」
「隊長・・・」
ビルとツバサが動揺を隠せずに発する。彼らはこれが戦場デビュー、次々変化する展開に付いてこられるか不安は尽きない。
だからジャックは機動する、その赤いモビルアーマーに向かって。部下を委縮させないために。
「お前らは離れて他との戦闘に集中しろっ!」
二人にそう言い捨てて、怪物モビルアーマーに突撃する鮫の顎。そのほかにも判断の早い者、つまり戦場の急変に動じない
パイロットたちがそれに突撃する。コイツを仕留めればもうジオンに後はないだろう、と。
0387三流(ry
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2017/07/18(火) 22:47:34.83ID:EXn3Dp580
十一話でした。
いよいよ書きたかった青葉区の攻防、イグルーのチンピラ連邦軍が
ここで何を考え、どういう意思で行動したのか、それをフォローするのが
このSSのテーマの一つでしたから。
0388三流(ry
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2017/07/21(金) 00:07:24.63ID:R+/pgzL40
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十二話 赤の無双

突如現れたその巨大な赤いモビルアーマー、いきなりサラミス1隻を沈めたその巨体に連邦のジムが殺到する、
次々と発射されるビーム・スプレーガンがモビルアーマーの表面に花火を咲かせる。
だがその巨体に致命傷を与えるにはエネルギーが不足していた。おそらくメガ粒子砲クラスでないと
その装甲に穴をあけることは敵わないだろう、だがそれでいい、牽制射撃から近距離まで切り込めば
ビームサーベルで本体を切断することは可能なはずだ、ソロモンでガンダムがビグ・ザムにしたように。
だが、その目論見は外れた。巨体の側面に設置された発射口から無数のランチャーが発射される。
それはジムには向かわず、モビルアーマーの周辺で起爆、爆発は小さく、代わりに粒子がまき散らされる。
切り込んだ1機のジムがビームサーベルを抜くが、刀身部分はゆらぎ、形を成さずに消える。

「ビーム攪乱膜!」
ジャックが叫ぶ。ソロモンで連邦軍が使用したビーム兵器霧散システム、ビーム兵器の効力を著しく
減少する効力がある。この瞬間から火器を持たないジムはこいつに対して無力になった。
すでに戦闘が始まって相当時間がたっている、戦闘開始時にはバズーカやマシンガンを持っている
ジムも多数いたが、すでに皆使い切り、無尽蔵に使えるビーム兵器に頼る情況になっていた。
「みんな、離れろっ!」
そう叫んでモビルアーマーから離れるジャックのジム、しかし遅かった。切り込んだジムたちは、ことごとく
モビルアーマーの大型バルカン、または周囲を飛ぶオッゴの十字砲火によって爆散していく。

後退し、再び中隊と合流するジャック。ビルとツバサに叫ぶ。
「ビル、あいつに近づくな!ビーム攪乱膜だ、何をやっても効かないぞ!ツバサ、残弾はあるか?」
「すいません!たった今、使い切りました・・・」
無理もない、これが戦場デビューの、しかも気弱なツバサであれば、弾を使い切る前に戦死しなかった
だけでも上出来だ。
「母艦で補給してこい!皮肉だがこの戦場ではボールの砲撃が頼りだ!」
「はいっ!」
反転して母艦マゼランに向かうツバサのボール、ジャックとビルは追撃を防ぐべく援護に入り、オッゴを狙い撃つ。

他の隊も同じ判断だった。ビーム攪乱膜を使われた以上、あの化け物の周辺ではボールの砲撃が頼りだ。
いくつもの部隊が合流し、オッゴに対するジムと、モビルアーマーに攻撃を加えるボールの群れに分かれる。
幸いあのデカブツ、さすがに機敏さは無いようだ、ボールの機動力でも十分にとらえられるだろう。
事実、ほどなくボールはモビルアーマーを包囲しつつあった。
が、バルカンの砲門を開いたモビルアーマーは、意外ともいえる細かな弾幕で次々とボールを打ち落とす。
それでも巧みな機動で、一機のボールがモビルアーマーの側面を確保し、砲撃を加えんとコックピットを狙う。
0390三流(ry
垢版 |
2017/07/21(金) 00:09:45.45ID:R+/pgzL40
その瞬間、信じがたい事が起きた。
モビルアーマーはその左腕を動かし、そのボールをわし掴みにする、動いてるボールを、だ。
そして球技の投球のように振りかぶり、そのボールを投げ捨てる。吹き飛んだボールは何と、
側にいた別のボール部隊に次々に激突、まるでビリヤードのように跳ね返り、当たったボールすべてが爆発した。
その信じがたい行動を目の当たりにした誰かが、通信で呟く。
「ニ・・・ニュータイプ、かっ!」
予知能力やテレパシーを有し、目で見ずとも周囲の状況を把握、念動力さえ使うと言われるエスパー、
もしそんなものが存在するなら、今の神業も十分に説明がつく。
そして、そのモビルアーマーは、そんな悪い予感を確信させるように無双を始める。

ボール部隊が苦戦とみるや、そのフォローに入ろうと突っ込んできたのは2隻のサラミス。
モビルスーツと違い、これだけの巨体なら戦艦や巡洋艦の砲撃でも命中は容易だ、艦砲のエネルギーなら
ビーム攪乱膜を貫いて撃沈も可能と判断したのだろう。
だが甘かった、モビルアーマーから先手を打ってミサイルランチャーが発射される。3発放たれたその弾は
曲線を描き、正面から突進するサラミスの横腹に食らいついた、瞬く間に爆発する2隻のサラミス。

遅れて突撃するのは旗艦であるマゼランだった、サラミスが瞬く間に散った以上、もう後戻りはできなかった。
殺られる前に殺る、戦艦の火力で撃たれる前に沈める、メガ粒子砲を赤い悪魔に向けて放つ。当たれ、当たってくれ!
願いむなしく特大ビームはモビルアーマーの頭をかすめる。ビーム攪乱膜の影響もあっただろうが
サラミスが撃つ前に撃たれた焦りが、砲手の照準を狂わせた事実もあった。
その返礼とばかりに、モビルアーマーのクチバシが開く。黄金の光が灯り、瞬時に強力なレーザーが吐き出される。
その咆哮は周囲のビーム攪乱膜を薙ぎ払い、マゼランの甲板から上を嘗め尽くし、吹き飛ばす。
あわや体当たりかというほどの近距離を、炎上したサラミスとモビルアーマーが交錯する。
操縦者も指揮官も焼き尽くされた戦艦はそのまま横を向いて爆発、炎上する。

わずか10分ほどの間に多数のジムやボール、巡洋艦2隻、そして旗艦の戦艦1隻がこの戦場から消滅した。
その恐るべき破壊力、パイロットの技量に、連邦軍の戦士たち全員がほぼ凍り付いていた。
例外のうちの一人が通信に向けて絶叫する。
「ツバサ!ツバサ・ミナドリ二等兵!応答しろーっ!!」
ジャックが叫ぶ。先ほど吹き飛んだマゼランは、その直前にツバサが補給に向かった戦艦だった。
どうか無事でいてくれ、その願いに対する通信は・・・無言。またひとり部下を失ったのか・・・
0391三流(ry
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2017/07/21(金) 00:12:24.24ID:R+/pgzL40
「ニュータイプ、赤いモビルアーマー・・・まさか、こんな戦場に!?」
誰かが発したその通信に、連邦兵の多くがひとつの事実を認識する。赤い機体を扱うことで有名な
ジオンのエースパイロット、この手薄なEフィールドに、なんという恐るべき配置を敷いたのか!
「一時後退して、部隊を再編するっ!」
戦死した隊長に代わる隊長代理が撤退を命令する。一斉に撤収するジムやボール。艦もすでにサラミス3隻しかない
全員が補給し、部隊を再編するまで多少の時間は要するだろう。
しかしそもそも敵がビーム攪乱膜を使う以上、実弾兵器の装備は不可欠だった。バズーカやマシンガンを持ってこないと
冗談抜きであの赤い悪魔に全滅させられる危険すらあった、撤収の判断は大正解だったのだ。

「ビル、俺の分も頼む!」
「隊長は?」
「奴を見張っている、待っているぞ。」
そう告げると、ジャックは先ほどマゼランが爆発した地点に向かう。戦艦が爆発したなら破片も多く、
身を隠すには最適だろう。しかしビルはもうひとつの目的にも気が付いていた、だから短くこう答える。
「アイ、サー!」
撤収する仲間を追うビルのジム。後ろに赤い悪魔を感じながら、待っていろ、と闘志を燃やして。

手ごろな破片の後ろに隠れたジャックは声をかけ続ける。
「ツバサ、応答しろっ!誰か、生存者はいないかっ!・・・」
返信はない。マゼランは完全に爆発したのだ。そのエネルギーは戦艦全体を包んで余るエネルギーを発して散った。
生存者がいると考えるほうが不自然だろう。ジャックはヘルメットを上げ、ぼやく視界を直すべく目を拭った。
やるべきことはある、敵の行動を注視し、駆けつける仲間に報告する。この短いインターバルに、
敵が罠を仕掛ける可能性は十分にある。
しかしジャックが見たのは、それとは別の意味での敵の脅威となる行動だった。
0392三流(ry
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2017/07/21(金) 00:14:37.55ID:R+/pgzL40
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
過呼吸にあえぎながら、赤いモビルアーマー、ビグ・ラングのコックピットで、オリバー・マイ技術中尉は
自らの仕事、試作兵器の評価をしていた。
「ビーム攪乱膜は極めて有効、しかし、ジェネレーターの出力にふらつきを認む。これはひとえに
パイロットの技量不足に起因するものと思われる・・・」
初めての実戦、殺すか殺されるかの戦場に、戦力としての参戦。それでも彼の本文は評価試験なのだ。
たとえ最終決戦でも、のちに生かすデータがなくても、彼は実戦の中で得たデータを言葉で記録する。
同時に彼は、このビグ・ラング本来の任務を遂行する。下部の巨大な格納庫にオッゴを収納し、兵装を補給、
負傷した部分を溶接し修理、次々と船内に収納し、補給、修理して船外に出す。
そう、このビグ・ラング本来の目的はオッゴの補助兵器なのだ。ただ完成間近で開発が断念され、
最終決戦用にビグロを連結、牽引させることで一応の兵器の体を取った、まさに急造兵器だった。

それを考えれば、彼のここまでの戦果は大健闘と言えた。母艦ヨーツンヘイムを守るべく3隻の敵艦を
破壊したのを皮切りに、この戦場に到着してからも多数の戦艦やモビルスーツを仕留めてきた。
巨大な格納庫をもつビグ・ラングは、エネルギーや格納空間のキャパシティが非常に高い。それを兵器に転用すれば
超強力なメガ粒子砲を発することも、高性能なランチャーやミサイルを多数搭載することも可能だ。
その火力と攪乱膜に助けられ、戦場初心者の彼がここまで戦い抜くことができた。
しかし幸運は長くは続くまい、とも確信していた。おそらく敵は実弾兵器を補充してくるに違いない。
そうなればこのビグ・ラングは巨大な的でしかない、撃沈されるのは火を見るより明らかだ。
それでも彼に迷いはない、彼の周りにいるのは紙装甲のモビルポッドを操る少年兵なのだ。
彼らに比べて、強力な装甲と兵器を持つ機体に乗る自分は何と幸運なことか。
ならせめて彼らを支援する、それがこのビグ・ラングの役目なのだから。彼らを一人でも多く生還させる、
その為にたとえ自分が散ることになっても・・・幾人ものテストパイロットの死を見てきた彼は、
いま自分がその立場にあり、その覚悟さえも備えつつあった。

補給工場となったモビルアーマーを見て、ジャックが呟く。
「なんてこった、移動補給基地だったのか、あの化け物が!」
この空間にジオンの艦艇はいない、オッゴがもう補給を受けられないだろうという連邦軍の思惑すら、
この赤いモビルアーマーに破壊されてしまった。
だが出来ることはある、こっちはその事実をつかんだ、再決戦の前に仲間にそれを伝えれば、油断や慢心からの
死と敗北を減らすことができる。ジャックは味方を待ちながら、通信の準備をする、言葉を決める、勝つために。

やがて連邦軍の部隊が光の点となり見え始めた。一気に距離を縮める彼らに通信をすべく、言葉を発しようとしたその時
別の回線から通信が飛び込んできた。
「一般回線」に。

―こちらア・バオア・クー司令部、すでに我に指揮能力なし、残存の艦艇は直ちに戦闘を中止し、各個の判断で行動すべし―


12話でした。いやぁマイさんすっかりニュータイプ扱いです。まぁあの戦果じゃぬべなるかな(プロホノウ風)
0393三流(ry
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2017/07/22(土) 01:07:06.08ID:lmBsZLjX0
なんか私だけになってしまった・・・みんなどこ行ったんだよー




MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十三話 叫ぶ宇宙


―繰り返す。こちらア・バオア・クー司令部、すでに我に指揮能力なし、
 残存の艦艇は直ちに戦闘を中止し、各個の判断で行動すべし―

敵も味方も固まっていた。通常回線から聞こえるその通信が意味するところを、信じられないがゆえに。

停戦命令。このア・バオア・クーでの戦争終結を示唆する、そしてこのジオン独立戦争そのものの
終結を意味する宣言。この戦場はジオンにとって、総力を結集した最終防衛線であったことは
連邦、ジオン共によく理解している。そこが墜ちた、つまり向かう先は、終戦―

このEフィールドにおいて、その事実に対する受け止め方は、連邦、ジオンで全く違っていた。
ジオン兵にとって、敗戦の足音はここ最近、日々大きくなっていた。その時がついに
来てしまったのか。覚悟はしていたが、やはり無念ではある。
が、これで戦争は終わる。どうにかこうにか自分たちは生き延びたのだ、との安堵感もある。

対する連邦軍は違っていた。自分たちは戦争に勝っていない、このEフィールドにおいて。
戦闘艦4隻を含む多数の仲間が散っていった、その敵を討つために武器弾薬を補充してきたのに
自分たちの知らないところで勝手に戦争が終わってしまっていたのだ。
ましてやこのEフィールドに投入された新兵たちは、その誰もがこの戦争で肉親や友人を亡くしてきた。
全てジオンの都合だ。コロニーを落としたのも、地球に侵略して略奪されたのも、今さっきまでこの戦場で
多くの仲間を焼き尽くされたのも、すべてジオンの独立したいというワガママのもとに実行された非道、
この上戦争終結までジオンによって決めつけられてしまうのか・・・誰もがやるせない思いにとらわれていた。

それはジャックも同じだった。故郷を滅ぼされ、居場所を消され、兄貴を、エディさんを、指令を殺され
はじめての部下3人をソーラレイで焼かれ、ついさっき、もう一人の部下もいなくなった。
それで都合が悪くなったら降伏か!どこまでジオンのワガママで俺たちを踏みにじれば気が済むんだ!
合流したビルからマシンガンを受け取ると、ジャックは憎しみに満ちた目で、赤いモビルアーマーを睨む。
0395三流(ry
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2017/07/22(土) 01:09:20.64ID:lmBsZLjX0
―敵を褒めるんだよ―
はっと我に返る、尊敬している兄貴からの言葉を思い出し、その言葉を心に染み渡らせるジャック。

ヅダは実弾を携行していない状態で、ボール部隊に果敢に向かってきた。
基地攻略でのザクレロは勇敢だった、艦隊に身ひとつで特攻し戦果を挙げた。
ソロモンの銀のゲルググは、己の部隊を鍛え上げ、それが全滅した時に悲痛な叫びをあげた。
そして目の前の赤いモビルアーマー。火力はすさまじく、ビーム攪乱膜もある。
しかし冷静に考えれば、一度連邦部隊が撤収した時点で、実弾兵器にさらされることくらい理解しているはずだ。
それでもアイツは逃げない、オッゴを修理し、彼らをかばうべくこの戦場に中心に居座っている。

彼の心から、敵愾心がすっと消えるのが理解できた。停戦命令が出た以上、戦いは終わったのだ。

「くっくっく・・・」
「へへへへへ、へっ、へへへっ!」
通信から聞こえる笑い声にジャックはそのとき気付いた、下卑た、憎しみに満ちた笑い声。
それは連邦軍兵士の憎悪を音にした、つい先ほどまでジャック自身も心に湧き上がっていた感情の音。
それは一人や二人ではなかった、対峙する連邦軍のジムから、ボールから、その全てから敵に向かって
刺すような殺気が向けられていた。
「おい、ビル・・・」
部下を制しようとしたその瞬間、ビルのジムは機動をかけ、飛ぶ。敵の鼻先にいるオッゴの目前に。
ジャックは理解した、彼は赤く燃えさかる憎悪にとらわれている、恋人を殺された悲しみが
行き場を失ったことが、彼を狂気に駆り立てる。ビームガンを抜き、目の前のオッゴに向ける。

「ノーサイド、ってか!?」
ラグビーの試合終了を意味する用語。ホイッスルが鳴ったら、その時点でサイド(陣営)は無くなる。
共に同じフィールドで戦った相手をたたえる時を迎える。
しかしこれはスポーツではない、戦争だ、ましてや連邦兵にとって、これは復讐戦、敵討ちなのだ。

「レフェリーは、ここにゃいねぇよおぉっ!!!」
口上を述べたのは、ビルの最後の良心だったのかも知れない。最初に銃を向けたのだからさっさと逃げるか
反撃でもすれば、自分が無抵抗の相手を殺すことは無い、だが彼の希望は叶わなかった。
無抵抗の相手に引き金を引き、それがオッゴに直撃し爆発、ひとりの少年兵が終戦後に命を落とした。
0396三流(ry
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2017/07/22(土) 01:11:01.79ID:lmBsZLjX0
それを合図に、連邦軍が一斉に攻撃を開始する。ボールがオッゴを打ち抜き、ビグ・ラングに弾丸が集中する。
「ああっ!待ってくれ、停船命令だ、撃つなーっ!」
敵兵の声が通常回線から響く、その発信源はすぐに分かった。目の前の赤いモビルアーマー。
「何が停戦だ!さんざん俺たちの仲間を、焼き殺しておいてーーっ!!」
憎しみと悲しみに満ちた返信が返ってくる、もう理性は働かなかった。ただ殺戮の意思だけが連邦軍を支配する。

ジャックは皆を止められなかった、元々そんな権限もない、しかも戦端を開いたのは自分の部下、言い訳は効かない
開始された戦闘の責任をとる必要ができてしまった。機動をかけ、悲しい戦闘に突入する。
「どうしてだーーーーっ!」
モビルアーマーのパイロット、オリバー・マイの絶叫が通信に響く。ビグ・ラングは再び砲門を開き、
ランチャーを連射する、そのひとつがまっすぐビルのジムに向かっていく。
ビルは動けなかった。自分がしでかしてしまった事への後悔と、自分が打ち抜いたオッゴのパイロットの悲鳴が
通常回線からはっきりと聞こえていたから。あれは・・・子供の声だった。その行為に対する罰が、
ランチャーの弾丸に姿を変え、ビルのジムを爆発に包んだ。

「バカ野郎・・・っ!」
ビルの無抵抗な死を見てジャックは悟った、彼が似合わないことをして後悔していたことを。
それが恋人サーラが望んだ復讐ではなかったことを。
「あの世で、幸せに・・・なりやがれっ!」
涙を振り払いジャックのジムが飛ぶ。初めてできた5人の部下はすべていなくなってしまった。
もう何もない、あるのは後始末だけ。この戦場を支配してきたあのモビルアーマー、あれさえ破壊すれば
連邦兵の復讐心も和らぐかもしれない、もう他に方法は考えられなかった。

戦場は、地獄と化していた。

停船命令が出た時点から、すべての機体の通信はすべて開かれる。敵味方の報告や指示を聞き逃さないために。
だが戦闘継続中に開かれた通常回線からは、敵味方の絶叫が、悲鳴が、断末魔が、泣き叫ぶ声が
否応なしに飛び込んでくる、ほぼ全て少年の声で。
0397三流(ry
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2017/07/22(土) 01:12:25.54ID:lmBsZLjX0
「助けて、死にたくないー・・・」ブッ
「お母さん、お父さーーーんっ!」
「墜ちろ、墜ちろ、おちろおぉぉぉっ!」
「嫌あぁぁぁぁぁっ!いやあぁぁぁぁぁぁぁぁー」ブツン
「ははは・・・あははははははは」ザッ、ザー・・・
「なんでだよ、もう終わったじゃないか、もう嫌だ、いやだイヤダ嫌だいやだ・・・」
「死ね!死ね死ね死ねえーーっ!」ブツン!

幼い少年たちの、狂気に満ちた声が響く戦場、それが尚更狂気を呼ぶ。彼らは死を目と耳で感じながら
泣き叫び、生存のための戦いに身を投じていた。理性も戦術もフォーメーションもない、
味方同士激突して四散する機体すらあったのだ。

ジャックはそんな中、赤いモビルアーマーに狙いを定めていた。向かってくるオッゴをいなし、銃撃をかわし
下を取るべく機動をかけていた。あの機体は下部がオッゴの収納庫であることを知っている、
そこがおそらく奴の弱点だろう。簡単にはいかないが、そこに辿り着ければ・・・
だが、それは彼以外のジムが先に実行する。バズーカを構え、モビルアーマーの腹を狙う。

「スカートの下!」
他とは違う、平静さを保った女性の声が通信に入る。その瞬間、ジムは銃撃を食らい爆発する。
「大尉、大佐!」
戦場外から2機のモビルスーツが突入してくる、青い機体ヅダと銀色のゲルググ!
「世話を焼くのは慣れていても、焼かれるのは慣れていないか。」
女性の声を発するヅダはモビルアーマーの横で止まり、ゲルググはそのままオッゴの前まで飛び出す。
「待たせたな、ヒヨッコ共!」
そう言うとビームライフルを2連発する、その先にいた2機のボールが爆散する。
「友軍の脱出まで、このEフィールドを維持する!」
0398三流(ry
垢版 |
2017/07/22(土) 01:13:22.00ID:lmBsZLjX0
ジャックは反射的にゲルググに突進していた。あの声、間違いない。ソロモンで戦ったあの指揮官!
速度を止めずにゲルググに向かい、シャークペイントの盾を叩きつける。
「貴様!この盾はソロモンの・・・」
「連邦軍、ジャック・フィリップス少尉だ!」
「ヘルベルト・フォン・カスペン大佐である!」
戦場では珍しい口上を述べ、2機のモビルスーツの戦いが始まった。盾を起点としたアンバックから
縦横無尽に動くジャックのジムと、ビーム長刀を自在に振り回し応戦するカスペンのゲルググ。
何度も打ち合い、離れ、そしてまた接近。モビルスーツ戦の集大成のような激しい機動戦と
その前の二人の名乗りは、戦場での決闘をイメージさせた。

戦場から悲鳴が消えていた。二人の堂々とした戦いぶりに感化され、冷静さを取り戻し
少年から戦士に戻っていく両陣営のパイロット達。

それと入れ替わるように、戦場に似つかわしくない「歌」が、通常回線から流れ始めていた。

―夢放つ遠き空に、君の春は散った。最果てのこの地に、響き渡った―




13話でした。少年兵の悲鳴を書いていて自分で鬱になってしまった・・・
で、また夢轍です。この戦闘にこの曲は絶対外せません。
0399彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/07/22(土) 12:09:57.83ID:y1Nfo/Co0
すいません、専ブラ?の方に四話目は書いたのですが、非専ブラには反映されてなかったので念のためここでも書かせてください。

皇女の戦い 第四話

 それは全身がダークグレーの装甲に包まれたMSだった。
僚機同様にステルス機能を宿していたその正体は強靭としか言いようのない姿をしていた。
全身に緑色の小型・板状スラスターが埋め込まれているのも相俟ってどこか冷ややかな印象を与える。
肩と太腿には太めのマッシブな装甲、身の丈程もあるバスターを軽々と持つ腕と脛は程良い太さなのが体型的なアクセントになっている。
兜のような頭部は簡単に貫かせてはくれないような硬さを持っていた。
「流石ガンダムファイターの端くれだな。皇女が参戦するというからお飾りと思っていたら......国を背負って立つだけのことはあるか...」
どこか中性的な声はまるで獲物を狙うかのような響き......
MF内のマリナには音声通信だけで相手の姿こそ見えないが...
冷たく蒼いバイザー状の頭部メインカメラ、中東の太陽に照らされて艶を見せる装甲はパイロットの威圧感を伝えるには十分な外観だ。
「引いて下さい...あなた達との戦いは決して望むものではありません...
私が行くべき場所は知っているのでしょう?」
マリナが感情を訴えるように下げたままの両腕を広げれば、華奢な機体も同じ動作をする。しかし...

「ふふふ、そんな温いことを言っても無駄さ。......お前達、絶対に手出しはするんじゃないよ。」
釘を刺すような声に僚機二体はじっとして動く気配を見せない。
荒くれ者達を従わせる辺りかなりの手練れだと悟ったマリナは口をきっと結ぶ。
0400彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/07/22(土) 12:13:32.75ID:y1Nfo/Co0
埋め立てですか、という表記のエラーが出たのでここでのレス(専ブラではない場所の)は一旦中断します。

スレ汚し失礼しました。
0401三流(ry
垢版 |
2017/07/22(土) 18:37:19.26ID:4IkYhA59O
>>400さん
あ、それ連投規制です。
他の誰かが書き込むと続きが投稿できますよ。
私は1レス投稿したあと自分のガラケーで割り込ませていますw
0402彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/07/22(土) 20:23:43.85ID:y1Nfo/Co0
教えて頂いてありがとうございます。
規制だったのですね。

不勉強なものでw
自分でももっと色々2chのこと調べてみます

裏技もメモさせて頂きましたw

僕の場合、ここに書くと専ブラの方のスレで僕の文がダブってしまうのでここに書くのは止めようと思います。
重ね重ね失礼しました。
0404通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/07/22(土) 23:24:44.77ID:7OBY2cGa0
ちょっとわからんな
ひょっとしたらなんだったっけ、一昔前にできた2chのそっくりさんサイトと二重投稿になってるってことなんだろうか?
だとしたらだけど普通に専ブラ1本で投稿すりゃいいだけではないのか
違ってたらすまん、そして職人氏方投稿乙
0405三流(ry
垢版 |
2017/07/23(日) 11:16:09.74ID:NO7CT/iv0
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十四話 心の青山


戦場は整然とした機動戦へと変貌しつつあった。オッゴが小隊単位で編隊を組み、
ジムはボールと連携して狙撃と格闘戦を入れ替える。他の戦場から駆けつけたザクやリックドムは
オッゴの隙間から彼らを支援し、巨大なモビルアーマー、ビグ・ラングを守る。
その戦場の最中心で、激しく機動し、戦う2機のモビルスーツ。
鮫の顔が描かれた盾を持つジャックのジムと、ジオン軍カスペン大佐の銀のゲルググ。
その激しい戦いに、誰もが横槍を入れることはできなかった。誤射して味方を討つ危険もあるし
なにより見惚れるほどの見事な機動戦、彼らはちょっかいを出すのではなく、二人に負けない
戦いをしたいと思い、他の敵と対峙する。

「やるな小僧!、だがそれだけの研鑽を経ていながら、何故だ!」
寡黙なカスペンが珍しく敵に問う。通常回線が開いている現在、間近で戦うジャックの存在は
息遣いまで感じられる。
「何がだ!」
ビームサーベルとビーム長刀で鍔迫り合いをしながらジャックが返す。
「停戦命令は聞いているはずだ、貴様ほどの技量を身につけていながら何故戦う、道理はわきまえぬか!」
それは説教のようでもあり、現在の状況にいたる経緯を説明させる質問でもあった。それを察してジャックが返す。
「道理?俺たちの居場所を、大切な人を奪い続けたお前たちがそれを言うか!」
自分の意見より、むしろ戦場の味方の本音を代弁するつもりで返し、続ける。
「コロニー落とし、地球侵略、各所の戦争、お前らの独立のためにどれだけの人が居場所を失ったと思ってやがる!」
鍔迫り合いを打ち払い、ゲルググの盾を蹴って距離を取る。しばし対峙し、カスペンが返す。
0406三流(ry
垢版 |
2017/07/23(日) 11:17:28.52ID:NO7CT/iv0
「青臭いな、小僧。」
思わぬ返答に顔がこわばる。反省や謝罪など期待してはいなかったが、その言葉には黙っていられない。
「なんだと!?」
「居場所とは作るものだ・・・我らスペースノイドが、常にそうしてきたようにな。」
「作る・・・?」
その言葉を咀嚼するのには、ジャックにはしばらくの時間を要した。
「人生至る所に青山あり、我々スペースノイドの指針となる、東洋の言葉のひとつだ。」
骨を埋める場所はどこにでもある、生まれ故郷にこだわらず、どこにでも行って活躍しなさい、という意味の諺。
「宇宙という過酷な環境、真空の恐怖、衣食住の確保、そんな敵と戦い続けて、我々はジオンという
『居場所』を築きあげてきたのだ、先祖から与えられたのではない、自分たちで作り上げたな。
その居場所の独立を願って、なにが悪いというのだ?」
カスペンの口調は、いつのまにか年少者を諭すものに代わっていた。素晴らしい技量を持つ若者なればこそ。

「我々が殺戮をしていないとは言わん、恨まれるのもぬべなきこと。だが、それに溺れて未来を見ぬなら
貴様もそれまでの男でしかないぞ。」
言葉を聞くジャックは、それが憎むべき敵の建前でないことを感じ取っていた。それは目上の人の言葉、
かつての兄貴に教えられた言葉を聞く感情と、すごく似ていた。
「居場所がなくなったのなら探せばよい、作ればよい。失ったことを嘆くばかりでは何も変わらぬ!」
「・・・余計なお世話だ!」
盾を振って機動、スラスターを噴射し、ゲルググの右下を取り、サーベルを振る。
憎しみはもともと消えている。ただ、彼の言葉を連邦の兵士はどう取っただろうか、聞く余裕はあっただろうか。
そのサーベルを盾で止めるゲルググ。

「今は戦っても構わぬ、だがそうするならその恨み、決して未来に持ち込むな、貴様は貴様の先を見ろ!」
ビーム長刀を回転させ、ジムに切りかかる、ジムは盾で受ける、シャークペイントの横面が焼け、傷つく鮫。
もう言葉はいらない、言いたいこと、言うべきことは言った。あとは戦いが未来を決めるだろう。

―果て無き夢轍、照らす我が運命、燃え尽きること知らず、どこへ向かうのか―

回線から流れる歌が、少年戦士たちの心に染みる。生きたい、自分たちの向かうところを知るために。
それでも戦闘を止めることはできない、ここは戦場であり、彼らは未熟なれども職業軍人なのだ。
停戦命令の後でも、味方が危険なら身を呈して戦う、それが兵装を持つ国家軍人の業。
0407三流(ry
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2017/07/23(日) 11:19:04.68ID:NO7CT/iv0
「ぬぅっ!」
カスペンが左腕を操縦桿からすべらせ、離す。彼は左手が義手であり、激しい操縦を繰り返す実戦において
それが操作ミスを引き起こす可能性は常にあった。普段はともかく、目の前の若者はこのスキを
逃しはしないだろう。
「もらった!」
ジャックがマシンガンを向ける。その時1機のオッゴが、スキを見せたカスペンのゲルググを庇う様に立ちはだかる。
「大隊長殿ーっ!」
芯の通った少年の声を聴き、一瞬ジャックは引き金を引くことをためらった。
2機を仕留める絶好のチャンスだというのに・・・。刹那を置いて意を決し、引き金に手をかけるジャック。
「馬鹿者おっ!」
その時、カスペンのゲルググがオッゴを掴み、反転して自分の後ろに回す。その勢いでさらに反転し、
両手を広げてオッゴを庇うゲルググ、そこに殺到するジムのマシンガン。

「ジーク・ジオ・・・」
マシンガンを全身に受け、最後に主の絶叫を放ち、爆発する銀のゲルググ。
ジャックは常から狂信的に聞いてきたその言葉が、今回だけは全く違った意味に聞こえていた。
ジオン、彼らにとってそれは『無から懸命に築いてきた彼らの居場所』だったのだ。だからジーク(万歳)と唱える。

―悲しみの地図なら、あまた風に散って、故なき日々の地図も、瞬く彼方よ―

彼を悼むようなフレーズの歌が、回線から流れる。ジャックは心に染みる感情を押し殺して、ビグ・ラングに向かう。



14話・・・あああ寡黙なカスペン大佐をおしゃべりなキャラにしてしまった。
たぶんあと2話、最終話とエピローグを残すのみとなってしまいました。彼らの戦争の結末がどうなるか
見てる人がいたらお楽しみに・・・いるのかなぁw
0408ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:24:36.15ID:dhSrnXZb0
お二方乙です。
久しぶりに覗いたらえらく更新してて驚きです。
自分も投下します。

――艦これSEED 響応の星海――


夢。
夢を見た。
それは紅く、鮮やかな夢。真っ赤に染まった視界の中で、燃えるソラに囚われている自分が、誰かの夢と誰かの命が終わることを知った。それはきっと抗えないことだったのだと諦めて瞳を閉じる、そんな夢。
そんな夢を見たと思い出し、これは記憶なのだと感覚的に理解して、それでも今はそんなことにかまけている暇はないと、キラは考えないことにした。
行かなければ。
それは自発的な欲求、決意。思い耽り、考える時間はいくらでもあって、たくさん迷って、これで良いのかと何度も問うた。
相変わらず成すべきことは判らないけど、やりたいこととできることがあるから、その心のままに戦う道を選んだ。
眼を開く。
確固とした意識に、確固とした意志を入力する。
変わっていく明日を生きる覚悟を、変わらず示し続ける為にも。


夢で見た情景に畏れを抱きつつ、しっかり心に留めて道を征く。そうできるだけの支えが、今の彼にはあった。


「あたれぇ!!」

立て続けに3発、キラの右手に握り込まれたライフルから荷電粒子ビームが射出された。
ストライク用57mm高エネルギービームライフル。モビルスーツ用携帯式荷電粒子砲塔としては最初期のモデルにあたり、
後に【GAT-X102 デュエル】のものと並び地球圏全勢力の火器事情に多大なる影響を与えた名銃であるそれは、今や人間用サイズにまでミニチュア化していた。
ただし吐き出されるビームそのものは本物で、ザフトのローラシア級航宙フリゲート艦の外装をも一撃で貫く威力は健在だ。直撃すれば 深海棲艦にだって通用するだろう。
原理原則など知ったことではない。

「――チッ!」

もっとも、万全であればの話だが。
背部に装備したエールストライカーパック――大型可変翼と4基の高出力スラスター、大型バッテリーパックで構成された高機動戦闘用装備――で最大加速をかけながら敢行した超長距離狙撃は、
ひとまず成功したと言ってもいい。しかし、予想に反してその戦果は芳しいものではなかった。
0409ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:26:12.94ID:dhSrnXZb0
高度500mの上空から放たれた三条のビームは、そのどれもが約3km先にまで迫ったターゲット、第二艦隊を襲っていた巨人【Titan】に吸い込まれるようにして命中。
一発は今にも発射されそうであった敵のライフルに、遅れて残り二発は頭部に当たり小爆発を引き起こす。
だがどれも、敵の表面をわずかに削っただけで終わった。
威力不足。
ビームの減衰の激しい大気圏内といえどギリギリ射程内である筈なのに、期待された破壊力は発揮されなかった。

(思った以上に硬い。でもそれよりこっちのパワー不足が深刻だ)

動力系にエラーを抱える今のストライクでは、この距離で戦えない。
出力が低く、パワーが上がらない。エンジンを始めとした主要パーツは最新式のものに換装されて近代化改修が施されているが、それでも今のストライクの性能は初期型のものにすら劣っている。
ライフルに供給できるエネルギーも通常時の半分を割っており、その威力は泣きたくなるほど低下しているようだ。
接近するしかない。
そう見切りをつけたキラは高度を落としつつ、注意を引く為に更にビームを射かけながらホロキーボードを展開する。

(ぶっつけ本番でと思ってたけど・・・・・・思ったよりあちこちガタがきてる。下手したらフレームも死ぬ)

暗視モードの視界の中で、ようやく此方を敵性存在と認識した【Titan】は、醜くおぞましい巨体の表面で幾つもの火花を散らせながら対抗するようにビームを連射。
五条の閃光が瞬く。
サイドスラスターを噴かして避けようとした。だが瞬時に思い直し、まっすぐ飛行しながら左腕大型シールドで受け止める。まだまだ機体が重い。シールド耐久値も危険域にあるが、避けきれるものではなかった。
外見では判らなかったが『前任者』がよっぽど無理させたらしいストライクの内装はボロボロだ。修理どころかシステムチェックする間も惜しんで戦場にやってきたキラは、中断していたOSの調整を急ぐ。
やっと傷が癒えたのだ。遅れた分は結果で取り戻す。
非我の距離はもう1kmまでに縮まっている。のんびりやってられないなと、衝撃に呻きながら虚空に顕れたキーボードを荒々しくも正確に叩いた。

(ライフルの出力は短射程設定で補う。長時間戦闘ならスラスターは――持続と瞬間加速力を優先、他は軒並み低出力でバランスを取ればいい。駆動系はレスポンス落として延命するしかない)

ベストには程遠いが、現状では限りなくベターな修正案。
後は自分の操縦技術でフォローすると割り切った青年は、新たにやってきたビームの雨をバレルロールでかいくぐり急降下、ついで真っ黒な海面を蹴ってミサイルを飛び越える。
海面に激突して自爆するミサイルの爆風に乗って、更に加速した。
次々と機体のパラメータを書き換えて最適化し、一部スペックを落としながらも動きのキレを増していくストライクと同様に、キラもどんどん己の身体が軽くなっていくように思えた。
接触まであと500m、300m。
0410ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:32:05.20ID:dhSrnXZb0
またNGワード?
一体なんで・・・・・・なにが引っかかるんだろう
0411ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:40:37.66ID:dhSrnXZb0
ちょっと細かく分割して投稿してみます

「これなら!」

ビームライフルを一射。
ザフトの白服を纏い、【GAT-X105 ストライク】を取り込み同化したキラは、生身のまま57mm高エネルギービームライフルのトリガーを引き絞る。
人間の銃撃戦のレンジまで接近してからようやく放たれた光の矢は、先までのものよりずっと細く、速く、漆黒の空を駆け抜けて。
庇うように突き出された【Titan】のボロボロの左腕を貫通して、その奥のライフルのセンサーサイトを破壊した。



《第4話:旧き翼》
0412ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:43:06.13ID:dhSrnXZb0
「やった!?」
「まだよ! まだアイツは!」

思わぬ援軍の出現とその戦果に、つい瑞鳳は歓喜の声を上げかけるが、それを榛名が制する。
援軍の最初の一射で【Titan】の狙いが逸れた結果、水蒸気爆発に吹き飛ばされるだけの被害に留まって窮地を脱した榛名は、木曾に肩を貸してもらいながら指摘する。
衝撃で口内を切ったのか、鉄の味がひどい。
まだ照準装置を破壊しただけ、無力化できたとは言いがたい。それに飛んでくるビームも派手な割には威力不足みたいだ。有効打であることには違いないが致命傷には遠い。
状況は巨人と援軍の一対一。
危機的状況から脱し、さっきまでの騒々しさが嘘のように状況に取り残された第二艦隊。しかしだからといって、ここで黙って戦局を見守っていられるほど脳天気の集まりではない。
0413ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:45:04.56ID:dhSrnXZb0
「此方も仕掛けます! 響さん!」
「Всё ништяк!!」
「てぇッ!!」

愚かにも此方に背を向けた【Titan】に向けての全力攻撃。
今こそが勝機。
残り僅かな弾ぜんぶ持ってけと、無駄にデカい背中に主砲をしこたま撃ち込んだ。

「ゴォヲヲォァァァァアアアーーーー!!!!??」

前後からの執拗な砲火にたまらず、巨人が耳を覆いたくなる程の甲高い雄叫びをあげる。
戦艦よりも硬い装甲を持つといってもこれは効くだろう。だが、それでも火力が足りなかったのか、全身を穴だらけにされようとも巨人の活動は止まらない。驚異的な耐久性だ。
怒り狂ったかのように巨人が、デタラメにライフルを乱射した。目眩ましにでもするかのように周囲に幾つもの水柱が上がり、榛名達は後退を余儀なくされる。
すると、ゴキャリと嫌な音が響き、巨人の腰部から一対の大型ガトリング砲が跳ね上がった。
0415ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:46:14.29ID:dhSrnXZb0
そんなものまで隠し持っていたのかと驚く間もなく吐き出された弾丸の嵐は、天空からやってきたたった一人の援軍――いや、第二艦隊に合流しようと駆けつけてきたキラを飲み込まんと殺到した。

「危ない!」
「そんなもので!」

青年は空中で両足を忙しなく動かしつつ、ただのブーツにしか見えない黒い軍靴のいたる所からスラスター炎を吐き出した。
重心移動とスラスターを併用した姿勢制御で、必要最低限のエネルギー消費でガトリング砲の掃射をやり過ごす。
鮮やかに弾幕から躍り出た青年は、素早くビームを一射。左腰のガトリング砲を射貫く。
「本体」に比べて柔かったのだろう砲身がグシャリと溶けて、機関部が爆発。左半身がごっそり抉れた。

「オ゛ォォォォ・・・・・・!!??」

ついに、巨人の動きが止まる。
だが次の瞬間、背部推進機関からは爆発でもしたかのように盛大に、青白い炎が轟々と噴き出された。
逃げるつもりか!

「やらせない!」

榛名と瑞鳳にガッチリ固定された響が、すかさず錨を投擲した。
弧を描いて飛翔するそれは【Titan】の右足に巻きつき、その逃走を妨害する。更にサーベルを抜き放った木曾が鎖の上を猛スピードで駆け上がり、跳躍。
同時に目と鼻の先までに肉薄していたキラが、その意図を察してビームサーベルを抜刀。腰だめに構えて最後の加速をかけた。

「これで!!」
「仕舞いだぁ!!」

洋風の実体剣と、荷電粒子を収束させた光刃による斬撃。


前後から振り抜かれた二つの刃が、鎖を振り解かんと藻掻いていた巨人の首を見事に切り裂いた。


断末魔もなにもなく、身体と頭を切断された巨人はゆっくりと崩れ折れる。
【Titan】、討滅完了。
佐世保にとって通算四度目となる巨人との戦闘は、第二艦隊フルメンバーの即興連携攻撃によって、ただの一人の犠牲者を出すことなくその幕を閉じたのだった。


だが、状況はまだ終わらない。
0416ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:48:10.30ID:dhSrnXZb0
「・・・・・・なんだ、あれ――戦闘機? まだ来る!!」
「え、あ、ちょっと!?」

キラが上空で何事かを呟き、背中のスラスターを噴かす。そのまま加速していずこかへと飛び去っていった。
響は手を伸ばし呼び止めようとしたが、背後から上がった瑞鳳の悲鳴のような声に、思わず振り返る。

「ッ! 南西から接近する機影! ――なにこれ、さっきの【Titan】より速い!?」
「新手ですか!?」
「反応と形状は航空機タイプだけど・・・・・・数は1、高度200、速度600! サイズ・・・・・・約13m!?」
「なんだ、次から次へと!」

強敵を倒した喜びさえも凍りつかせる、絶望的な報告。
速度600マイル、つまり約1100km/hで迫る影。まだまだ夜は明けずレーダーも使えない状況下、それだけの速度で低空飛行できるのはまず深海棲艦の艦載機しかあり得ない。

(敵の航空戦力が単機で突っ込んできた? それにしたって)

でかすぎるし、速すぎる。
今までに確認されてきた敵の航空機は、大きくて2m前後、速度も大体350マイル程度だ。まったくもって規格外だ。あの巨人のように異常進化した個体なのか。
なんの冗談だ、それは。
弾薬も今度こそみんなスッカラカンで、逃げるにしたってあと1分足らずで追いつかれてしまうだろう。こうなってしまっては自分達にできることはない。
響達は、先程キラが飛んでいった方角を見つめた。
それは、新たな敵が飛来してくる方角でもあった。
いち早く危機を察知して、単身戦いに赴いた彼に任せるしかなかった。

「アイツ一人でやろうっていうのか」

サーベルを抜いたままの木曾が、呆然と言う。
遠くの空で、数条のビーム同士が交錯し、幾つかが衝突しては爆発した。
自分達のあずかり知らぬ場所で、また自分達が置いてきぼりにされて戦闘が始まったのだ。

「くそ、なんてザマだ」
「木曾・・・・・・」

提督から説明は受けたものの、まだ自己紹介どころかまともに会話すらもしていない男に間一髪救ってもらったばかりか、あの敵の対応までも任せっきりにしなくてはいけない事に不甲斐なさを感じているのか、
ギリっと握り拳を固めた。
そう、あの男と会話したことあるのは、このメンツではまだ響だけ。その実力は確かだとしても、プロフィールを知るだけで他人を全面的に信じることは難しいだろう。
ましてや、【Titan】と同一の力を使役する男のことなど。
0417ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:50:10.26ID:dhSrnXZb0
そんな彼女に榛名は労るように声をかけ、静かに首を振った。

「仕方ありません、今は彼に任せましょう。・・・・・・榛名達も今は、できることをしなくては。瑞鳳?」
「うん。他に敵は見当たらないよ。動くなら今しかないと思う」
「・・・・・・わかった。借りを返すにしても、まずは生き残らないとな」

パッと、いろとりどりの光が空に瞬いた。
木曾が打ち上げた信号弾と照明弾だ。また無事に合流できることを信じて、キラへと発信したメッセージ。今は自分にできることをしなくては。
そうして第二艦隊は粛々と移動を始める。
目指すは補給コンテナ。今度こそたどり着かなければ、自分達が何のためにここにいるのか分らなくなる。
まだこの海は戦場なのだ。
ならば一瞬たりとも呆けている時間はない。

「単縦陣、面舵40! 第四戦速でこの戦域から離脱します!」

榛名の号令に従い、一同は縦一列になって進行する。先頭が榛名、次に瑞鳳、木曾と続く。
艦隊最後尾についた響は無言で、自然と戦闘が始まった空域を注目していた。
目を見開いて、男の一挙手一投足を観測する。
同時に思い出すのは、二日前の彼の言葉と、先の戦闘行為だった。
知っているのが当然といったニュアンスで発せられた、どこぞのアニメ漫画でしか出てこないであろうキーワードの羅列がまったく嘘偽りでなかったことを、確信する。

(あれが、宇宙軍第一機動部隊の隊長の戦い。宇宙に上がった人類が得た力)

僅かに白みはじめた空で、木曾の照明弾に照らされた敵の姿が、ぼんやり浮かび上がる。
それはT字型の戦闘機だった。
勿論、ただの戦闘機ではない。深海棲艦のように真っ黒でどこか有機的、よくは見えないがコクピットには真っ白な肌の人――これもまた勿論、深海棲艦だ――が乗っている・・・・・・というより一体化しているようだ。
いずれにせよ、やはり初めて目にする敵だ。あれもまた一種の【Titan】なのか。
戦闘機型深海棲艦は、空戦の教本に則ったような単調な機動で旋回し、上面部に搭載された旋回砲塔から荷電粒子の光を迸らせた。
対するキラは鮮やかな宙返りをうってそれを回避。お返しとばかりに頭部の機銃で敵の垂直尾翼を射貫く。
バランスを崩した戦闘機とすれ違った――直後にキラはすぐさま両足を前に向けて逆噴射、一気に減速しつつ振り向いて、すかさず両手でグリップしたライフルで追撃した。
あの【Titan】と同じように空を飛んで、ビームを撃つ。スパイなんてイカしたものじゃないと判っているからこそ思うが、味方になればなんて頼もしいことだろう。


人間と戦闘機による高機動空中戦。目まぐるしく空を駆ける両者にしばし、少女は目を奪われた。
0418ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:52:04.88ID:dhSrnXZb0
(人が空を飛べば、あんなことができるんだ)

人型が単身空を飛ぶ。揚力に頼らず、自由に「浮遊」して「飛行」する。
その様はまさに異質としか言いようのないものだった。
水上を駆ける艦娘達も初めて目にする、史上類を見ないもの。
背部、胸部、脚部、肩部。全身いたる所に搭載された高出力スラスターを操って実現するソレは、飛行機ともヘリコプターとも異なる人型のモビルスーツ特有のものとして、
また機動兵器たるモビルスーツが人型である理由の一つとしてC.E. 世界に浸透した飛行様式だ。
実際、C.E.の宇宙では【ZGMF-1017 ジン】が、大気圏内では【AMF-101 ディン】が旧来の戦闘機相手にその運動性で圧倒的優位に立ち、
以降モビルスーツ開発はスラスターの性能と配置が最重要視されるようになったという経緯もある。
特に脚部の複合推進器は、モビルスーツの総合運動性能の4割から5割を占めるとまで言われており、背部のものと並びメインスラスターとして扱われる。
18mの人型ロボットの重量と空気抵抗すらも問題としない高性能小型スラスターの登場が、C.E.の未来を決定付けたと言ってもいい。
そんな背景を持つ「人型の浮遊」を生身の人間が、それも男がやっているのだから、誰にとっても驚くべきことであった。
艦娘と同じように、兵器と同化してその力を振るう、ヒトデナシ。
それが彼だ。

「よし!」
「わぁ!」

小さな主翼に懸架されたミサイルポッドが吹き飛ばされて、響と瑞鳳は揃って小さく喝采を上げた。
2分も待たずして、早くも雌雄が決しようとしている。
圧倒的な旋回能力と、機首方向に依存しない広々とした射界を備えるキラがほぼ一方的に、戦闘機にダメージを与えていた。
敵の速度はなんのアドバンテージにもなっておらず、浮遊と回避機動をうまく使い分けるキラにいいようにいなされていた。
ストライクを駆るキラは今にも止まってしまいそうな程ゆったりと空を舞い、時には倒れ込むようにして撃ちかけられた機銃を躱す。
と思いきや急加速して敵の死角に飛び込み、矢のようにすっ飛んでいく戦闘機めがけて射撃する。
いうなれば通常艦艇と艦娘の戦い、その空戦バージョンといったところか。普段意識しないので忘れがちだが、自分達艦娘も人の形の利点を最大限発揮させて戦っているのだ。
縦長の生き物である人間が、他の横長の生き物・乗り物よりずっと優れている運動性能は、もう無くてはならない大事なパラメーターだ。
人間はもともと水上に立てないし、空だって飛べない。だが、そんなステージで発揮される人型の汎用性は、人間が思っている以上の力を秘めているのだろう。

(しかし・・・・・・それにしたってこれは一方的過ぎないか?)
0420ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:55:06.11ID:dhSrnXZb0
キラの高い実力と相性の問題もあるが、些か戦闘機が弱すぎるような気がした。でかい図体して、戦い方は素人のそれだ。
こと船の化身である艦娘であるからして飛行機のことはよく分らないが、あれではレシプロ機とだって良い勝負をするんじゃないか。あり得ないスピードだとビビってたのがバカみたいだ。
そこに響は強い違和感を覚えた。
敵は弱いに越したことはないが、しかし深海棲艦というのは総じて戦闘のスペシャリストみたいなものだ。おそらく、生まれながらにして戦い方を熟知・習得している艦娘と同じように。
では、あの戦闘機は一体なんなのだ?

「はぁ!」

戦闘している内に随分と、こちらに接近していたらしい。潮風に乗って微かにキラの声が響き、みな一様に空を仰いだ。
ここで勝負を決めるつもりか、右肩からビームサーベルを抜き放って、急激な旋回行動で失速しかけていた戦闘機に真っ正面から肉薄した。
ライフルの直撃には耐えるようだがサーベルは防げまい。その切れ味は対【Titan】戦で証明済み、あの凄まじいエネルギーの塊はどんな敵だって真っ二つにできるだろう。
戦闘機はなんとか殺傷圏から逃れようと、体勢を立て直そうとする。
だがそれよりもずっと早く、キラは大きく振りかぶったサーベルを、ついに振り下ろした。光の刃は寸分の狂いもなく機首を断ち切らんとして――


――寸前、キラの身体が不自然に一瞬、ギクリと止まった。


「え?」

次の瞬間、二つのことが同時に起こった。
まずキラのサーベルが、タイミングを逸脱した為に狙いが逸れて、戦闘機の翼端を斬り飛ばした。
その時、意図しないカウンターのように、キラの身体と戦闘機の機首とがまともに衝突したのだ。

「な!?」
「ちょ、マジか!?」

体格差もあってか青年が弾かれ、重力に引かれてくるくる回りながら落下した。
気を失ったのか身動き一つしないままどんどん高度を落としていく。その隙に、完全に戦闘能力を奪われた戦闘機は、黒煙の尾を引きながらフラフラと逃げていった。
だが今はそんなことはどうでもいい。
あの高さから落ちればただではすまない。
思いもよらないアクシデントに呆気にとられた第二艦隊の面々は、しかし流石の反応で駆け出す。受け止めなければマズいと悟ったのだ。
――けど、この距離じゃ!
0421ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:57:08.30ID:dhSrnXZb0
「キラ!!」
「っ!」

咄嗟に、響がその名を叫んだ。
少女に似つかわしくない大声で、精一杯の力を込めて。
その声に反応したのか、キラはすんでのところでスラスターを噴かし、なんとか海面との激突を回避しようとした。
それでも勢いは完全には殺せず、キラな半ば尻餅をつくような格好で着水した。
高く水しぶきが舞って、青年が海に没する。
けど、それだけだ。
すぐに彼の頭が海面に出てきた。
大きく咳き込んでいるが、溺れているわけでもなくて存外平気そうだった。

「・・・・・・ふぅ」

最悪の事態を回避できて、みんな一斉に安堵の溜息をつく。
ピンチに次ぐピンチの連続、それを切り抜けた矢先に仲間を喪うなんて事態は御免だ。ある意味、戦艦級の大軍と戦うより心臓に悪い。同一のものではないのだ、戦闘とドッキリに対する覚悟は。
まぁなんにせよ早く救助しなければ。
波は穏やかでも、いつ高波が来るかは分らない。いつまでも立ち泳ぎは危険だ。

(そういえば、初めて名前を呼んだな)

咄嗟のこととはいえ、それも大声で。普段はそんなこと気にもとめないが、何故か今回に限っては気恥ずかしい気がした。なんでだろう?
そんなことをぼんやり考えながら、少女は速度を徐々に落としていく。戦闘機が去った方向をいつまでも見つめ続けるキラの頭は、もうすぐそこだ。
このメンツでは一番速い響が、やはり一番に彼のもとに辿り着いた、その時。
立ち泳ぎをしていたキラが、ぽつりと。呆然と呟いた。
自分が目にしたものが信じられないといった面持ちで。


「――スカイグラスパー・・・・・・トール? いや、まさかそんなわけ――」
「・・・・・・え?」


その声は波音にかき消され、ついぞ響の耳に届きはしなかった。
キラが戦った戦闘機は、そのパイロットは。
かつてキラを救わんと空を駆け、そしていなくなったモノと、どこか似通っていたのだった。
キラはただ、その直感を否定することに精一杯になった。
0422ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 11:59:03.51ID:dhSrnXZb0




「じゃあ、かなりギリギリだったんだ。よかった、間に合って」
「うん。本当に助かった・・・・・・Спасибо。おかげでみんな元気だ」
「そっか・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

通算四度目、榛名達にとっては三度目となる対【Titan】戦を乗り越え、さらにその後の【謎の戦闘機】を追っ払った第二艦隊。
へろへろになりながらも遅れに遅れた自己紹介を済ませて、海上に浮かぶ補給コンテナに辿り着いた彼女達は、ようやっと弾薬と燃料の補充にありついていた。
念願の補給だ。照明に満たされた室内に入ってホッと一息つく。
更に良いことに、虎の子の【Titan】が倒されたからか侵攻の手が緩まっていた。敵も戦力を再編する必要がでたのか、それとも単に品切れなのか、他の海域でも戦闘が止まっているという。
できることならこのまま深海棲艦が諦めてくれれば良いのだが、まぁ、そう都合良くいくはずもないだろう。
兎にも角にも、落ち着いて休憩できる時間も勝ち取れたのは僥倖だった。

「うーん。こんなことならお弁当とっとくべきだったかなぁ」
「急いで食べちゃったのは勿体なかったですね」
「食える時に食っとかなきゃな、仕方ないさ。・・・・・・お、間宮印の羊羹があるぞ」
「ほんと!? 食べるー!」
「折角ですし頂きましょうか」

コンテナ内のチェストを漁ってきゃいきゃい姦しくはしゃぐ三人を背に、すっかり濡れねずみになったキラは、いち早く補給を終えた響と会話する機会を得ていた。
こうしてちゃんと顔を合わせるのはこれで二度目。最初に目覚めた時以来だった。
あの時からまだ二日しか経っていないが、随分と昔のように思える。なにせ、あの時はまだ何も知らなかったのだ。
あれから天地がひっくり返るような事実に何度も打ちのめされて、一日が何千時間とあるような気さえしたのだ。
あの時間濃度は、かつてアークエンジェルがクルーゼ隊から逃げまわっていた時のものに匹敵する。
あんな思いはもう、金輪際御免蒙りたい。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

何はともあれ、こうして再会できたのは嬉しくて、ちょっとこそばゆい感じだった。なにか色々と話したいことがあったのだが、こうしてみるとなかなか言葉がでない。
キラと第二艦隊が合流するまでのアレコレについて、特に対【Titan】についてのことを話し終わったら、なんとなく会話が途切れる。
0423ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/07/23(日) 12:01:06.59ID:dhSrnXZb0
お互いのお互いに対する認識が、出会った当初よりずっと異なってしまったからだろうか。まさか、この白い少女と轡を並べて戦うことになるとは思いもよらなかったキラであった。
だが、いつかの親友との再会とは違って、悪い気はしなかった。

「・・・・・・怪我はもう大丈夫なのかい?」

ふと、響が深呼吸して、こちらを伺うように切り出してきた。
そういえば自分は病み上がりで、しかもさっき戦闘機とぶつかったのだ。そりゃ心配もするだろう。
もっともフェイズシフト装甲のおかげでなんともないが。

「あ、うん。僕はもう平気。・・・・・・君こそ無理してない? ずっと戦いっぱなしだって聞いたから・・・・・・」
「・・・・・・ごめんなさい」
「え?」
「あなたを護ると、ちゃんと司令官を紹介すると約束したのに・・・・・・結局守れなかった」

俯いた少女の右手が頭の付近で彷徨い、所在なげに揺れる。
帽子の鍔をつまもうとしたのだろう、いつの間にか無くしていたことを気づいた小さな手は、誤魔化すように長いもみあげをくるくる弄ぶ。
突然の謝罪に面食らったキラは、そういえばそんな約束もあったなと、懐かしい気分になって思い出した。
響が出撃する際に交わした約束だ。
思えばあれは、ただ焦り恐怖するばかりで混乱していた自分を落ち着かせる為の言葉だったのだろう。しかしその響きは真摯的で、決して口から出任せの、その場凌ぎの言葉ではないということはちゃんと伝わってきた。
たとえ絶望的な状況であっても、彼女はちゃんと約束を果たすつもりでいた。
でも結果的に、仕方ないこととはいえキラは大怪我を負った。それどころか、討ち漏らした敵を撃退するといった尻ぬぐいまでさせてしまった。
それが彼女の負い目になっていたのだろうか。
俯いて、こうして謝って、そんなの、彼女達は全然悪くないのに。
みんなはもう一杯一杯だというのに、どうしてそれを責められるだろうか。

(そんなこと、気にしなくていいのに。君達が最善を尽くしてくれたことは、よくわかっているから)

律儀だなと思った。
その在りようはとても眩しく感じられた。
とある赤毛の少女が脳裏に蘇り、胸がチクリと痛む。口から出任せの、その場凌ぎの言葉で少女を傷つけた自分には、とても眩しい。
これは曇らせてはいけないものだ。

「大丈夫だよ。君はちゃんと約束、果たしてくれたよ」
「そう、かな?」
「そうだよ。だからこうして、ここにいられる。君にまた会えて嬉しいから」
「・・・・・・うん」
0424ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/07/23(日) 12:03:05.42ID:dhSrnXZb0
気づけば、くしゃりとその無防備な頭を撫でていた。
一瞬「しまった」と後悔したが、ええいままよと、そのままゆっくり労るように撫でてやることにする。
無事にまた会えた。それだけで充分。
それ以上はいらないと想いを込める。
すると強張っていた少女の肩から力が抜けて、くすぐったそうにしながらもされるがままになった。
そうして汗と潮風でぱさついた髪の毛を梳いていると、瑞鳳から声をかけられる。

「響ー、キラさーん。羊羹あるよ。今のうちに食べちゃお?」
「Спасибо。頂こう」
「ヨーカン?」
「日本のお菓子よ。小豆は平気?」
「えと、大丈夫。甘いのは好きなんだ・・・・・・ありがとう」

ついで三切れの黒々とした長方形を盛った小皿が手渡された。
初めて見るそれは、小豆を主原料とした餡を寒天で固めた伝統菓子だそうな。
昔カガリがお土産として持ってきたお饅頭の中身みたいなものかなと思い、フォークもないのにどう食べたものかとキラはうっすら透明感のある艶やかなブツを眺めた。
すると響が、セットで渡された小さな木ベラみたいなものの使い方を教えてくれて、それを真似て一口大に。
・・・・・・うむ、美味しい。この羊羹とやら、なかなかデキるやつのようだ。
控えめで上品な甘さ、滑らかで上質な舌触り。これは個人的甘味ランキングのベスト5に食い込むかもしれない。
見てみれば榛名達も美味しそうに食べ進めていて、それはまさに平和そのものといった雰囲気だった。

(こうしているとホント、普通の女の子だよね)

二人並んで羊羹を食しつつキラはつい、さっきまで響の頭を撫でていた掌を見つめる。
さて、まったくファンタジー極まりない話だが、彼女達は艦艇の生まれ変わりで、艦艇だった時の記憶があるらしい。つまりは人間ではない、人在らざるモノ。霊的存在。
コーディネイターとナチュラルの違いなんて些細なものに思えるほど、根本的に異なる生命体。
自己紹介も『特三型駆逐艦二番艦の響』とか『金剛型戦艦三番艦の榛名』とか変な言い方だと思ったけど、船そのものなのだとしたら納得できる話だ。
それが本当なら彼女達は、自分よりずっとずっと長く戦い続けた戦士ということになる。
あまりに認めがたいことだが、今のキラにそれを否定する材料はなかった。むしろ、今の自分の存在そのものがエヴィデンスになっている。

(兵器として生まれ、一度は死に・・・・・・そして再び戦うために産まれた彼女達は、一体どんな気持ちでこの海を眺めているのだろう。既に決定付けられた自分の『運命』に、なんて思っているんだろう)

そう考えるとなんだか複雑な気分になってしまうが、微笑を浮かべて羊羹に齧りつく響の姿を見ると、それもまた些細な事のように思えた。彼女らも血の通った一人の人間であることに変わりはないらしい。
少なくとも我が姉よりもずっと女の子女の子してるし。
ありのままを受け入れようと思う。
0426ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/07/23(日) 12:04:27.80ID:dhSrnXZb0
「そういえば、その服はどうしたんだい? 見たところ軍服のようだけど」
「・・・・・・え、ああ。これ? これは借り物で・・・・・・ストライクの中にあったんだ。軍服だよ」
「へぇ。――なかなかいいデザインだね。白と黒で、私好みだな」

すっかり上機嫌になって早くも完食した響の興味が、キラの纏うザフト白服に移ったようだ。
クールな蒼い瞳をキラリと煌めかせ、まじまじと観察してきた。どこか大人っぽい立ち振る舞いの少女だが、こうしていると見た目の歳相応に子どもっぽい。それが何故か嬉しく思えて、キラは微笑んだ。
差し色の金もいいねと呟く少女に、結構バリエーションあるんだよと教える。
今となっては笑い話にできることだが、様々な陣営の軍服に袖を通してきたキラとしては、この白服が一番お気に入りだったりする。一番長く使用したということもあるし、なにより色使いがいい。
好みが一緒というのは何気に気分が高揚する。

「こういうの好きなの?」
「Да」

しかし実際のところ、今着ているこの白服を入手した経過は、決して笑い話にできるものではなかった。
この服は出撃の間際にストライクのコクピット、そのストレージボックスから回収・拝借したものだ。それ自体に問題はない。未使用であることを示す、しっかりパッケージされた予備用を貰ったのだ。
問題は、コクピットシートにべったりと、大量の血糊が付着していたことだ。
コクピットは文字通り血の海になっていて、驚きのあまりにコクピットハッチから転げ落ちそうになったものだ。
あれが大人一人分のものだとしたら、間違いなく致死量。
つまり誰かが、ストライクの中で死んだのかもしれないのだ。この白服は、その人の遺品なのかもしれない。

(ホント、謎ばかり増えてくな・・・・・・。はやく記憶戻らないかな)

今の自分は曲がりなりにでも生きているのだから、あの血はきっとこのストライクに乗ってた『前任者』のものだろう。
その『前任者』といい、酷使された機体といい、それに乗ってた自分といい、ストライク一つだけでも不明なことばかり。
もはやこの世界は謎しかないというのは過言だろうか。いや、過言ではない。
早急に謎が解明されることを祈って、キラは最後の一口を飲み込む。
それを見計らったようなタイミングで、榛名がポンと手を打った。

「さぁ、そろそろ休憩は終わりです。出撃しましょう」
「あと一踏ん張り! やっちゃうよー!」

けど、少しだけ。
戦場に出てみて、【Titan】と戦ってみて幾つかわかったこともあった。
少しずつだけど確実に、今この海域で起こっているという異変、その謎は解明されつつある。
0427ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/07/23(日) 12:08:07.54ID:dhSrnXZb0
「・・・・・・すいません、みなさん。少しいいですか?」
「キラ?」
「移動しながらでもいい。でも戦う前に。・・・・・・僕は、みなさんに話さなきゃいけないことがあります」

それは自分とストライクがここに転移した理由というか、その原因を内包する謎でもある。
なにもかも不明なことばかりで殆どが憶測の域を出ないものだが、それでもだいたいの当たりがついているのも事実。
キラは、自分は気づいたこと、もしかしたらということを第二艦隊の面々に説明すべく、その口を開いたのだった。



以上です。
自分のこそ見てくれる人がいるかどうか・・・・・・でも続けますが。
種世界出身のキャラはあと一人ぐらい出る予定です。
0428通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/07/23(日) 15:02:46.51ID:bFvkam6I0
次スレのURLが見落とされないよう、貼っておきます。

新人職人がSSを書いてみる 34ページ目
http://mevius.2ch.net/test/read.cgi/shar/1499781545/

私の環境では、現在652KBです。
0429三流(ry
垢版 |
2017/07/24(月) 00:37:33.40ID:g7IrCHHN0
いけるトコまで、このスレでいきますか。

MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
最終話 顎(あぎと)朽ちるとき


「ヨーツンヘイム!聞こえるか、これより、我々の最後の映像を送ります。
 記録願います・・・願います!」
巨大なモビルアーマー、ビグ・ラングは今や連邦軍の的と化していた。全身に砲火を浴びながらも
それでも装甲の厚さと、懸命の操縦と、オッゴやモビルスーツの援護により未だ健在だった。
その必死の抵抗を、周囲に漂う観測ポッドが記録し、母艦ヨーツンヘイムに通信する。
603技術試験隊、その最後の映像が今、記録されようとしていた。

カスペンを下したジャックのジムがそこに到着した時、出迎えたのは青いモビルスーツ・ヅダだった。
「させないっ!」
そのパイロット、モニク・キャデラック特務大尉の張り詰めた叫びが通信に響く。
盾のピックを立て、ジムを突き刺しにかかるヅダ。それを盾で受け止めるジム、盾と盾の激突。
ピックがシャークペイントの目の部分を刺し貫く。ジムはそのまま左腕を回転させ、相手を左腕ごとひねりにかかる。
「ふんっ!」
ビームサーベル一閃、ヅダの左手を肩口から切り落とす。ジャックは盾を振り、刺さっていたヅダの腕を
宇宙空間に捨て飛ばす。
「くっ・・・さすがだな、あの大佐を倒しただけのことはある。」
彼女はカスペンの最後を見ていた。彼を仕留めたジムがこちらに機動してきたのを見たとき、彼女は
真っ先にそのジムに向かっていった。アイツは強い、危険だと。

ジャックは機動をかけ、ヅダを振り切りにかかる。目標はヅダではない、巨大なモビルアーマーだ。
この戦場を支配してきたこいつを沈めることが、この戦闘の終わりを告げるきっかけになるだろうから。
思えばこのヅダこそがジャックの戦場での最初の相手、そして兄貴が死に至る因縁の相手でもあった。
だが、もうそれもどうでもいい。今はこの戦闘を終わらせること、それだけだ。
ビグ・ラングを狙撃する位置に回り込み、マシンガンを構える。が、追撃してきたヅダはヒートホークを
打ち下ろす。盾で受けるジム、シャークペイントの頭の部分が焼け付き、絵の一部が消える。
「くそっ!さすがに速い、しつこい奴だ!」
ヅダに向き直るジム、ヅダの向こうには赤い巨体が見える。その片腕のヅダはビグ・ラングを庇い
守ろうとしているようにも見えた。あのゲルググがオッゴを守ったように・・・
0430三流(ry
垢版 |
2017/07/24(月) 00:38:35.10ID:g7IrCHHN0
「どけ!」
「どくものか!」
ヒートホークを振るうヅダ、一歩後退し、盾を振ってアンバックからの動きを作り、
曲線軌道でヅダをすり抜けるジャックのジム。ビグ・ラングはもう目の前だ。
が、上から機動してきたオッゴの砲撃がジムの行く手を阻む、やむなく減速したジャックのジムに
特攻してきたヅダがタックルを食らわし、そのまま片腕でヅダに抱き着いてビグ・ラングから引き離す。
自分がこのビグ・ラングを何が何でも沈めたいように、このヅダの女パイロットは
何としてもこのビグ・ラングを守りたいようだ。

戦闘しているのは彼らだけではない、ビグ・ラングの周辺ではジムが機動し、ザクが戦い、ボールが舞い、
オッゴが飛ぶ。砲火の応酬は熾烈を極めるが、犠牲を示す光芒はほぼ見えなくなっていた。
戦闘自体がビグ・ラングを沈めにかかる連邦軍と、守ろうとするジオン軍の動きへと偏っていたから。
その肩代わりのように、ひとつ、また一つ、ビグ・ラングは被弾し巨体を揺らす。
きしみ、ゆらぎ、塗料を剥離させながらもビグ・ラングは吠える。さすがにもう弾丸もビームも弱弱しいが
最後まで戦い抜く意思だけは失っていない。

ヅダによって遠方まで運ばれたジャックのジム。しかし遠目から見ても、ビグ・ラング陥落は
もう時間の問題だった。
「行かせるか・・・やらせは、しない!」
ジムから離れ、立ちはだかるヅダ。
「やめろ、もう・・・終わるぞ。」
ジャックは相手に伝える。背中を向けている彼女からは見えないだろう、ビグ・ラングの下側に
連邦軍のジムが位置し、バズーカを構えている様子が・・・チェックメイトは目の前だ。
「はっ!」
ヅダが振り向く。その瞬間にバズーカが放たれ、ビグ・ラングの急所であるモビルポッド格納庫に
吸い込まれる。爆発が上がり、内部からの火炎が巨体を嘗め包んでいく。
「ああっ・・・!」
ヅダは戦闘を忘れ、一瞬固まる。ジャックもまたこれ以上の戦闘をする意思はない、これで・・・

「マイーーーーーっ!!!」
悲痛な叫びと共にヅダが機動する、爆散しつつあるビグ・ラングに向けて。
その声、どこかで聞いた。音声の質ではない、愛しい人を無くす瞬間の悲鳴。
反射的にヅダを追うジャックのジム。そう、この戦闘の少し前、自分の部下であるビルが
サーラを失った時の悲痛な声、それが目の前で再現されていた。
0431三流(ry
垢版 |
2017/07/24(月) 00:39:28.71ID:g7IrCHHN0
ヅダは間に合わなかった。あと少しのところでビグ・ラングは炎に包まれ、大爆発を起こす。
至近距離の爆風に晒されながら、呆然と立ち尽くす片腕の青い機体。
しかし、それを追いかけていたジャックには見えていた、より遠方からの視点ゆえに。
爆発したビグ・ラングは後部から崩壊していき、前部にあるビグロ部分が弾かれる様に連結を外され
爆発する直前にそのコックピットからパイロットが弾き出されるのを。
ジャックはその先に飛ぶ。ああ、そうか。彼女には帰るところがあったのか、このパイロットと共に。

戦闘は止んでいた。この戦場の支配者であった赤い巨体の爆発は、連邦、ジオン共に決着の花火に写ったから。
全ての機体が起動を止め、銃を下す。
その爆発の鼻先で、ジャックのジムが止まっていた。両手で小さな何かを大事そうに抱えて。
その手の中には、ノーマルスーツを着た一人の人物。ビグ・ラングのパイロット、オリバー・マイ技術中尉。

―あてどなくさまよえる愛しさよ、この胸を射抜く光となれ―

通信の歌を聴きながらジャックは待つ。その人の迎えを。
通信の歌に導かれキャデラックは向かう、その人を迎えに。

ジムの目の前まで近づき、停止するヅダ。向かい合う敵機同士だが、そこには殺気も殺意も無い。
穏やかな声で、表情で、手の中の人物をヅダに差し出すジャック。
「ほら。」
ヅダが右手を出し、パイロットを受け取る。それを愛おしそうに胸に包む青い機体。
「行けよ・・・お前たちには、帰るところがあるんだろ。」
「・・・礼を言う。」
ゆるやかに距離を取るヅダ、そして反転すると、ジオンの脱出部隊が連なる艦隊に向けて機動する。
それにオッゴやザク、ゲルググが続く。彼らは戦闘を終え、独立の夢から覚め、帰るべき場所に帰っていく。

彼らにとっての一年戦争が、他より一時間ほど遅れて、終わった。

―終わらぬ夢轍に、君の影揺れた―

通信の歌が静かに終わる。残された連邦軍兵士たちはそれを聞き届け、終わりの虚無感を感じていた。
0432三流(ry
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2017/07/24(月) 00:40:15.71ID:g7IrCHHN0
―夢放つ遠き空に、君の春は散った―

意表を突かれた。終わったと思った曲がまた最初からリピートされる、思わずコックピットで
ずっこけそうになる者、苦笑いをする者が続出、しまらねぇなぁ・・・誰だまったく。

『その・・・コックピットで、音楽、かけてもいいですか?』

ジャックは雷に打たれたようなショックを感じた、何故気が付かなかった、この戦場で音楽が流れる不自然さを、
それを希望した自分の部下がいたことを!こんな間抜けな上司がどこにいるか!
音声を複数のセンサーで拾い、発信源を探す、あっちだ。反転して全力で機動をかけるジム。
その瞬間、彼のジムの腕に付いていた盾が外れる。構わず飛び、叫ぶジャック。
「ツバサ!ツバサ・ミナドリ二等兵!どこだ、返事をしろーっ!」

破片の隙間に挟まるようにして、そのボールは生きていた。砲塔は吹き飛んでいたが、残弾が無かったのが幸いして
本体は大破することなく原形をとどめていた。そこに到着するジャックのジム。
「ツバサ、大丈夫か!?返事をしろ、生きているかっ!」
目の前のボールに向けて叫ぶジャック、返事は無い。歌だけが聞こえている。
コックピットから飛び出し、ボールのハッチをこじ開けにかかる、素手では無理だ。ジムに戻り緊急脱出用の
バールを取って戻る。ハッチの隙間に差し込み、こじる。隙間ができたことで中の空気が抜け、それが
ハッチを押し開ける。
少女はノーマルスーツを着ていた。動きを見せずに横たわってる。彼女を抱きかかえるジャック。
そして、彼女の寝息を感じ取った時、ジャックは安堵した、よかった、本当に良かった。

ジャックは自分が大泣きしていることに気づかなかった。兄貴に救われたこの命、その俺が今度は
次の誰かを救いえた。命の連鎖、上官から部下に、守るべきものをひとつだけ、守り切った。

―気にするな、責任は誰かがとらにゃならねぇ、いつかお前にもその番が来る―

そんなサメジマの言葉を思い出すジャック。
「兄貴、俺・・・やったよ、4人を死なせちまったけど、せめて彼女だけでも・・・」

戦闘のあった宙域に残されたジャックのジムの盾、シャークペイントはこすれ、顎の部分は無くなっていた。
もう顎(あぎと)は必要ない、自らの帰る場所へ帰る、または帰る場所を「作る」ために―




最終話でした。でも、もうちょっとだけ続きますw
0434三流(ry
垢版 |
2017/07/24(月) 22:52:58.11ID:g7IrCHHN0
容量チキンレース!最後まで入るかな?

MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
エピローグ 彼の青山

「お疲れ様ですお客様、当機は○○空港に到着いたしました、降りる準備をなさって下さいませ。」
キャビンアテンダントに起こされ、ジャック・フィリップスはアイマスクを上げる。
「ん?ああ、ありがとう。」
やっと着いたか、まったく、サメジマの兄貴もえらいトコに住んでたもんだ。
地球、日本国の国内線の空港、トクシマと呼ばれる地方都市。
まったく、どうせ日本ならトーキョーに住めばいいのに、乗り継ぎ乗り継ぎでこんな片田舎まで・・・

―あれから半年―

あの戦争のあと、ジャックは軍に退役を申し出る。しかしそう簡単にはいかなかった。
彼のア・バオア・クーでの活躍は映像記録として軍に提出され、しかもその戦いぶりから
件のニュータイプでは無いという認識から、彼は軍から強烈なラブコールを受けていたからだ。
モビルスーツ、ジムの部隊長、教官、指揮官から動作ルーチンの開発者として、彼は引く手あまただったのだ。

しかし彼は決めていた、軍に身を置くということは、仕事として殺し合いを続けることであり
その生き方を自分は選ばないということを。
山のように積まれた、軍の引き止め工作&嫌がらせという名の書類を5か月かけて片付け、
わずかな退職金を得てお役御免となった。

その過程で、彼はルナツーにサメジマの兄貴の遺品が保管されていることを知る。
遺品と言ってもなんの事は無い、スケジュール手帳が1冊とそれに付いているウイスキーのボトルの
形をしたキーホルダーにすぎなかったのだが。
だが、それはキッカケにはなった。この遺品を彼の家族に届けよう、と。

軍法会議で処刑された兄貴の家族は、ひょっとして肩身の狭い思いをしているかもしれない、
これを届けるのを口実に、ヒデキ・サメジマがいかに魅力的な人間だったか、その死がいかに不運で
不合理なものであったか、自分がいかに彼を尊敬し、彼の言葉によってどれほど救われたか
彼の家族に伝えたかった。
0435三流(ry
垢版 |
2017/07/24(月) 22:54:09.66ID:g7IrCHHN0
同時に地球へ降りるのだから、これからの人生の居場所を探すのも悪くない。地球は未だコロニー落としの
被害から完全に回復はしていない。メカニックとして働けるところはいくらでもあるだろう。
あの銀のゲルググの軍人の言葉が浮かぶ、人生至る所に青山あり。
そうだ、踏み出せば自分の居場所はきっとある、アイランド・イフィッシュは既に無く、シドニーは
巨大なクレーターと化してはいるが、それはもう過去のことだ。
自分は軍人としてジオンと戦い、敵を殺してきた、味方の死を見てきた。そんな俺が恨み言を言うのは
筋違いだ、それも兄貴の教え。俺が歩んできた足跡をいつまでも見ていても仕方ないんだ。
それを夢の轍にして、さらに歩いていく、死が訪れるその時まで―

鉄道もろくに走っていない田舎を、タブレットの地図を頼りにバスや歩きで彷徨う。
季節は夏、緑濃く青山が太陽に映える大地、頬に汗をかきながらも乾いた風に心地よさを感じていた。
セミと言うらしい虫の声、たまにすれ違う元気な子供達、大空で弧を描く鳥、平和な光景。

「このあたりだな・・・」
タブレットとにらめっこしながら、一軒の家に続く道に入る。平屋ではあるが広い庭のある家。
庭の一角では少女らしき人物が、ホースで花に水をやっている。
彼はその家の門柱に埋め込まれた表札を確認する、サメジマは日本語表記で「鮫島」こんな漢字だった。

「水鳥」

あちゃー・・・どこかで間違えたか、なんて読むのかは知らないが明らかに違う文字。
しかしおかしい、ちゃんと道筋に沿ってここに来たはずだ、最悪引っ越してしまったか・・・
仕方ない、あの少女に聞いてみよう。いきなり外人が声をかけて引かれなきゃいいんだが。
「すいませんお嬢さん、このあたりにサメジマさんというお宅は・・・」
「はい?」
振り向く少女。そして両者が固まる。
彼の目の前にいたのは、かつての彼の部下、ツバサ・ミナドリ元二等兵その人だった。
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