富野由悠季「ガーゼィの翼」ログアウト冒険文庫・全5巻

かの名作アニメ「機動戦士ガンダム」の総監督が書き下ろした冒険ロマン。
異世界バイストンウェルを舞台とする物語は富野自身のライフワークとも言える。

主人公、千秋クリストファ(クリス)はバイクを走らせている最中に白鳥のような光を目にし、
バイストンウェルへと召喚される。異世界ファンタジーの王道とも言える展開である。
しかし富野は一筋縄では行かない。召喚されると同時にクリスは二人に分離し、
そのまま現実世界にももう一人のクリスが残ったままなのである。

バイストンウェルで英雄に祭り上げられたクリスは新たな人生を切り開いていく。
二人のクリスは互いに愚痴ったり助言したりするが、
これはまさに現代人の分裂ぶり、精神の不健全さを鋭く突いた社会派の描写と言える。

そう、この作品のテーマは病理である。
富野は現代人の病んだ情念を凝縮しこの5冊に叩き込んでいる。
その文章は読者の脳を激しく圧迫し、休憩を挟まず通して読むのは困難なほどである。
むしろ1冊目で投げ出しても誰も責めはしないであろう。
読んだ人間に粗筋の説明を求めても必ず言葉に詰まる、それほど高密度な物語なのだ。