フィギュアスケートの試合をテレビで観戦している際に、派手に転んでいたり、
一度もジャンプに成功していなかったりした選手が上位になっているのはなぜなのかと、
採点に対して煮え切らない思いをしたことはないだろうか。
実は視聴者がしばしば抱くそうした思いを、選手はその倍、いや100倍は感じている。
自分自身、選手時代からこの疑問に頭を巡らせて続けてきたが、本稿ではそこで辿ってきた道筋を簡単に記してみたい。
煮え切らないジャッジが発生する状況は、実はある程度限られている。
そもそもフィギュアスケートは、スポーツであると同時に芸術でもあり、その競技の点数はジャンプやスピンの成否に対する技術点と、
表現力やプログラムのクオリティに対して与えられる演技構成点の合計ではじき出される。
そして、技術点がある程度客観的に決まるのに対し、演技構成点の評価はジャッジの主観に依るところが大きい。
もちろん、評価のための一定の基準は存在しているが、それ自体が競技を取り巻く状況に応じて変化していくものであり、
決して不変というわけではない。つまり、演技構成点は依然としてジャッジの主観的な判断にある程度は委ねられているのである。
そしてジャッジの心理としては、自分だけが他のジャッジと大きく異なる点数をつけることは避けたい。
そのためジャッジは、無意識のうちに個々の選手の実績等からある程度の予想点数を見積もった上で、毎度の演技の評価に臨んでいる
──というのが、少なくとも選手として競技をしていた時の自分の実感である。
そうしたバイアスによる採点結果の歪みが最も顕著に現れるのが、絶対王者──実力や実績、
人気などで他を圧倒しているスター選手──の地位が脅かされそうになる局面だ。
正当な評価が下されるならば絶対王者が他の選手にその地位を譲るはずの場面でも、
絶対王者が絶対王者であるという理由で、負けるはずの試合に勝ってしまう、あるいは僅差になりそうなところで
圧倒的な大差をつけて優勝してしまう──そんなことが往々にしてあるのだ。