安置所になっている高校に夫と急ぐ。遺体は塩ビの収納袋に入れられ、体育館の床に寝かされていた。
口を半開きにしている。眠っているようだ。この子はいつも口をパカーンと開けて寝る。
「寝てるだけなんだよね。起きてよ、ねえ」
肩を揺する。反応がないと分かっているのに。おえつが止まらず、息継ぎが苦しい。ほっぺに手を伸ばす。ひんやりしている。死後硬直はまだ見られず、ぷくぷくしていた。
「土葬なんかにできるかっ」
夫が係の人ともめている。係の人の話では、震災で油不足になり、市の火葬場が十分に稼働できない。遺体は日に日に増えて処理能力が追い付かず、「仮埋葬」を勧めているという。
「仮埋葬なんて言い方を飾るな。要は一時的な土葬なんだろ?」夫は食って掛かっている。息子の死に直面し、気が高ぶっている。夫の怒気に気おされて係の人が折れた。
一定期間仮安置が認められ、その間に火葬場を探す。
ドライアイスを葬儀屋さんから買ってきて、遺体の周りに敷き詰める。ドライアイスは需要過多で品薄で、遠くに足を延ばさないと手に入らなかった。
火葬場はどこの市町村もふさがっていた。電話をかけまくって宮城県大崎市の火葬場で空きを見つけた。それでも2週間待ちだった。
翌日から朝一に体育館に寄ってドライアイスを交換し、まだ見つかっていない家族をその足で捜しに出るのが夫婦の日課になった。遺体は冷やし過ぎでカチンカチンになっている。
閉じた目の目頭に血の混じった赤い涙がにじんでいる。かわいそうで拭き取ってあげる。次の日行くとまた出ていた。