判例の動向
売主に相続が開始した場合の事例として最高裁として初めて判断を示したものが最二小判昭和61年12月5日である。
すなわち、「たとえ本件土地の所有権が売主に残っているとしても、
もはやその実質は売買代金債権を確保するための機能を有するにすぎず、
独立して相続税の課税財産を構成しないというべきであって、
課税財産となるのは売買残代金債権である」とし、また、その価額は、具体的売買契約により顕在化している契約上の取引価額であると判示しており、その後の下級審判決においても踏襲されている。
一方、買主に相続が開始した場合の事例について最二小判昭和61年12月5日は、買主は相続開始時点では所有権を有しておらず、相続税の課税財産に含まれるものは、土地の所有権移転請求権等の債権的権利であり、そ
の財産の価額は、当該土地の売買契約における売買価額であると判示している。
つまり、客観的な取引価額を顕現する売買契約が課税時期の直近において成立しているなど、その適正な時価が何らかの方法で明確にされている場合には、あえて評価通達を用いる必要はなく、その取引価額をもって時価とすべきであるということである。
ただし、売買契約成立時から相続開始までに長期間経過した場合の事例において、
最三小判平成5年5月28日は、その相続財産は所有権移転請求権等の債権的権利であるとしながらも
、評価額については、当該売買の対象となった農地の売買代金ではなく、
農地と同一の財産的価値(相続税評価額)を有しているものと解するのが相当であると判示している。
そして、これらの判例を受けて現在の課税執行上の考え方としている。