「身の回りの出来事が、どう世界と繋がっているのかを考える、という点で地方紙の仕事に意議を感じていた。9.11(米同時多発テロ事件)の後、それまであったものが壊れていく時期、世界のことと身の回りのことをどう関連づけていくのか、自分の生き方を考えるうえでも現場を見た方がいいと思った」

 2007年には、料理人としてイラクの基地で働き、内部から戦争を見つめた。

「兵隊としての戦闘や警備などを除いて、多くの仕事が民間に委託され、世界中から労働者を集めて、基地建設や食事、洗濯などに従事させている。委託を受けた民間企業は、取材に行っても中は見せてくれない。ならば、料理人になって中に入ってみよう、と。そこには、貧しい国々の労働者がいた。
彼らがいて、初めてアメリカの戦争は成立する。格差がなくなれば戦争ができない状況だ」

イラクで料理人として働きながら取材。その結果を報告した「ルポ戦場で稼ぎ労働者」(集英社新書)
イラクで料理人として働きながら取材。その結果を報告した「ルポ戦場で稼ぎ労働者」(集英社新書)

 講演では、2012年7月に安田さんがシリア内戦の最前線で取材した映像を紹介。政府側による空爆で崩れ落ちた建物のがれきを掘り起こして人を救出し、野戦病院に運び混む場面では、大けがをしたり死亡したりした子供たちが映っていた。

「いろんな人が、紛争地で子供の写真を撮ってくる。それが、以前はあまり好きではなかった。でも、実際に行ってみると、亡くなる子どもが本当に多い。あっちは子だくさんの家が多く、一軒やられると何人もの子供が犠牲になる。大人だったら命は助かるような砲弾の小さな破片でも、当たれば子供は死んでしまう。あそこで子供が元気に育つのは奇跡に近い。
子供が元気に育てない環境は、社会が壊れていることを象徴しているんです」

 こうした現実を知るためにも、最前線の取材は必要だと安田さんは考えている。

「最前線があって、難民も出るんです」

今後は…

 ただ、現在のシリアは、反政府側同士で争っている状況。安田さんでも「こういう状態で中に入ることは考えられない」という。

 当面は、新たに始めたメルマガで拘束されていた期間の詳細を伝えるほか、本の執筆、ドキュメンタリー番組の制作、講演活動などを行っていく。主な講演予定は、2月1日東京都内、16日神戸、23日東京都内、3月2日京都、9日福岡、10、11日長崎など。