情緒興奮性の昂進   もちろん目立つ特徴は強い情緒興奮性であった
患者たちは非常に怒りに陥りやすく、些細なきっかけで「騒ぎ立て」、自分自身
や周囲への暴力をともなう見境ない怒りを発した。彼らの評判は「彼は何も
我慢しない」「反論を我慢できない」「些細なことで自制を失う」などであった。
ある女の患者に関しては、彼女は意志が通らないと窓ガラスを割ると報告され
ていた。しかし、他の情緒動揺、疑惑の爆発や不安状態や不機嫌な苛立ち
や頑固な無愛想などもまた、このような激情的な形を急激にとった。気分の
全般的色調は主として憂鬱で涙脆かった。それは一部では幼少時の過程
から生じていたが、幾人かの患者は自分は何でも難しく受け取る傾向がある
とか、すべてが「感情にさわる」とか、もう楽しいことは何もなく、人生に目標が
ないなどと訴えた。少数の患者は胸部狭窄感に悩まされた。ある女の患者は
自分はまた住居に放火するに違いないと怖れた。更に一連の患者たちは逆に
愉快な陽気すぎるほどの情緒状態を示した。彼らは、よく笑ったり子供じみた
ふざけ方をしたり、色情的であったりした。厭世観や自殺念慮は頻繁であった。

すでにこの知見に、注目を引こうという傾向が現れており、それで自殺企図は
いくつかの例で著しい児戯的刻印を帯びる。ある女の患者は茸を手に入れて、
それがたぶん毒茸だろうという不確かな推測をしてそれを食べ尽くした。別の
女性患者は自分で自分のくびをしめようとした。幾人かの患者は小さなかすり
傷を自分でつけたり、感動的な別れの手紙を書いたり、あらゆるきっかけですぐ
自殺するという脅しを持ち出したりする。通常患者たちはその後速やかに鎮静
するのが常で、そうなると大抵いつも、そのことがよい結果に終わったのを喜ぶ。
ある女性患者はその際、「自分はとても勇気を示して果然と切ったのだ」と自慢
して強調した。

(クレペリン、精神医学4 精神病質性人格 1912年)

クレペリン、クルト・シュナイダーなどの分類がDSMに取り入れられ現在の人格障害郡となっている
上記の「興奮者」という分類は境界性人格障害とほぼ同じもの