新年初日、課長に呼び出された。おずおずと課長席に行く。
あまり周りに聞こえないように気を遣って声を潜めてくれながらも、課長は自分の眼を見つめて言う。
「10月に2週間以内と指示してあったWEBサイトの更新の件」
「11月に編集作業の目処報告を指示してあった業界関係者交流会の動画の件」
「12月に実施する予定だったオンラインミーティングの件」
「・・・それぞれ、進捗の報告をしてください」
「あっ、えっ」
指示があったかと言われれば、そういう話はあったと思う。
しかし詳細はやはりいつものように思い出せない。自席のメモを見ないと。
「ちょ、ちょっと確認させてください」
「・・・わかりました。今日16時までに口頭でもメールでも良いので必ず報告してください」

自席に戻ってメモ帳という名の、ミスプリントの裏紙の束を必死にめくる。
どのページも、自分の筆跡による読めないなにかの羅列で埋まっている。
10月頃のページには確かにページがどうこうと書き込んであるが、
何のページに関することかが全く書かれていない。
11月頃のページには、日付しか書かれていない。
12月のページには、課長の指示と思しき「Zoom」の4文字と人数だけが書かれていた。
何かを書いて安心するためだけの、何の役にも立たないメモ。
誰かにめくられたような不自然な折り目が付いていた。

引きつった顔の自分を見ていた隣のグループの主任が、メールを1通送ってくれた。
課長やリーダーにもCCを送らなければならないルールを破って、自分だけに。
メールには、主任の耳に入っていた課長からの指示の具体的な内容が書かれていた。
どの作業をどこまで進めていたかを必死に思い出してまとめ、課長にメールで報告した。
主任からのメールへの返信として起票し、宛先を課長に、CCに関係者を指定して送信したせいで
主任が書いてくれた内容も全部課長に筒抜けになった。
遠い課長の席から「あいつの為にならんだろうが」と声が聞こえた気がした。

仕事の指示はすぐ忘れる。
こういう嫌な記憶だけは忘れたくても忘れられない。