◆水を打つ漁師

 漁師が川で漁(すなど)りしていた。まず流れの両岸に差し渡して網を張っ
ておき、紐にくくりつけた石で水を打った。不意をつかれて逃げる魚が、網に
かかるという寸法だ。
 ところがこれを見ていた近所の住民が、川を濁し澄みきった水を飲めなくする
ものだ、と文句を言うので、漁師は答えて、
 「しかし、こうやって川をかきまぜないと、俺様が飢え死にせにゃならん」

 このように国の場合でも、攪乱政治家は祖国を内紛へと誘導する時、最も力
を発揮するのだ。

              ――――――イソップ寓話集 岩波文庫 中務哲郎訳