一番危険な前線で戦っていた人と比べたら、遠くから援護していた私なんて、本当に大したことはしていない。
それなのにアーロンさんは、労うように私の肩に手を置いて、はっきりと褒めてくれた。
(どげんしよ……嬉しか、ちかっぱ嬉しかと……!)
嬉しすぎて、顔が笑ってしまう。見られないように、そっと下を向く。
私はちゃんと、この人の役に立てていた。それが分かってよかった。

「それにしても、最近は勝ち戦が増えてきたな」
ぽつりと、アーロンさんの零した独り言が聞こえて、私ははっと冷静になる。
仮にもまだ戦場にいるのだから、浮かれている場合じゃない。
「そうでありんすなぁ。勝ちを重ねることで、ちゃんと未来を救えていればいいのでありんすが」
そう言ってみると、アーロンさんはだな、とだけ返して、軽く肩を竦めた。

「この調子でいけば、時空越境作戦が終結する日も案外近いかもしれないな」
「終結……」
明るい口ぶりで呟かれた言葉の中の、一部を耳が拾って、一瞬思考が止まった。
「そうすればようやく君も解放されて、元いたところに帰れるだろう。一日も早くそうなればいいな」
「……えぇ、本当に」
そう言われて、私は返事の形にしただけの言葉を返す。

時空越境作戦。この戦争が終わったとき、私には戦う必要も、理由もなくなる。
そして、――私がここにいる理由もなくなる。
私は未来からの来訪者。今いるこの時代に居続けることは、許されない。
留まる理由がなくなれば、本来いるべき未来に帰らなければならない。
つまり……アーロンさんとも、お別れしなくちゃならない。

未来に戻ったところで、私にはなにが残っているんだろう。
母さんはもういない。父さんは……もういないも同然だ。
この時代へ飛ばされてきたとき、私は何もかも失ってきたのだから。
そんな未来へ戻ったところで、私はどうすればいいんだろう。
私はそこから先、ひとりぼっちで生きていかなければならないんだろうか。