そう考えたら、いずれ受け入れなければならない事実が、急に現実味を増してきて、怖くなった。

「どうした、具合でも悪いのか?」
「なんでもありんせん。ちと風に冷やされただけでありんす」
「……君は優秀な戦闘員だが、その前に一人の娘なんだ。何よりもまず自分を大事にしろ」
「有り難いお言葉を頂戴いたしんした。肝に銘じておきんす」
僅かに体が震えてしまったのを、アーロンさんが察してくれて、心配してくれる。
すぐに平静を装って微笑み返したけど、胸に針が刺さるような痛みが走った。

微笑み返す中で、気付かれないように、目の前の人を見つめる。
初めて出逢ったときから変わらない。強くて優しい人。私の大好きな人。大切な人。
……お別れなんてしたくない。たとえ戦争が終わって、戦う理由がなくなったとしても、
ずっとこの人の傍にいたい。こうして優しい目を、気持ちを、ずっと向けられていたい。
でもそれは、許されないこと。願ってはいけないこと。……分かってる。
分かっているから、胸に刺さった針が、更に深いところで痛みを強くしていく。

「!――本部からの信号だ。ようやく帰還出来るな」
突然そう言って、アーロンさんは持っていた通信機に目をやる。
気が付けば自分が付けている通信機にも、信号がきていた。
先に転送が始まったのは、アーロンさんの方だった。
「じゃあお先に。向こうでまたな」
「えぇ、また。お疲れ様でありんした」
最後に短く言葉を交わして、私はアーロンさんが本部へ転送されるのを見送った。

一人になって、急に思考が巡る。
――ここに残ることが許されないのなら、私が未来に持っていくしかない。
ここで積み重ねてきた記憶を、経験を、想いを、全部。
それがあれば、私は未来に帰っても、ひとりぼっちでも、生きていける。
私の中にひとかけらでも、あの人の存在があれば……きっと大丈夫だ。
そのためには、どうしたらいい?どうすればいい?
そう考えたとき、ふとあの日、母さんから聞いた話を思い出した。