意を決して、口火を切る。アーロンさんは意味が分からなそうに、怪訝そうな顔をする。
「相談事に乗ってやれるか分からないが……どうした?次の作戦について何か言われたか?」
「そうじゃありんせん……」
当たり前のように、アーロンさんは軽く膝を屈めて、そう問いかけてくる。
まるで子供の言い分を聞くかのように。でもそれは、私が望んでいることとは違う。

「この戦争が終わる前に、一度だけ……アーロン様の一夜を、わっちにくれんせんか?」
思い切って核心を口にすると、アーロンさんは今まで見たことないような、驚いた顔をした。
口にしてしまったことで、私の胸の中に生まれたざわつきは、更に大きくなっていた。
「それは、どういう……」
息を詰まらせるような声音で、アーロンさんがまた問う。
私は小さく深呼吸をしてから、少し距離が縮まっていた、目の前の顔を見上げる。

「わっちは“花魁道”の継承者。遥か昔に“花魁”が築いた歴史や文化を、後の世に引き継いでいくことを定められた、身の上でありんす」
「その長い道の途中、継承者としての意義とは別に、本来の……“花魁”としての役目を求められることが、万が一の可能性として、存在しているでありんす」
今はもう私しか知らない真実を打ち明けると、アーロンさんはまた驚いた後に、複雑そうに表情を歪める。
真面目なあなたのことだから、聞けば必ずそういう顔をするだろうと思っていた。

「それもまた継承者としての責ゆえに、覚悟はしておりんす。でも……もしこれから先、役目を果たす日が来るとしたら、
 わっちはその前に……わっちが心を寄せた人に、この身を捧げておきたいと思いんした」
「アーロン様。わっちにとってその人は、ぬし様でありんす。だから……この戦争が終わって、お別れする日が来る前に、
 ぬし様と過ごす一夜を……わっちにくださんし」
目線の先で、戸惑って困り果てて、揺れている二つの目を、じっと見入る。
この想いが、決心が、ちゃんと届いてくれるように。

私の目から、アーロンさんは少しも逃げなかった。でも私を見つめ返す目には、否定する意思が宿っていた。
「……生憎だがその願い、俺には叶えてやれない」