「一度でいいのでありんす。たった一度、一夜だけ戴ければ、他に何も望みんせん。
 そうすればわっちはこの先……未来に戻っても、孤独が待つ道を歩んで往けんす」
断られるのも分かっていた。でも、だからって引き下がれない。諦められない。
今ここで我儘を通さなければ、私は……後に待ち構えている日々を、生きていける自信がない。

「わっちの願い、どうか……聞いておくんなんし。――アーロンさま」
嵐のように感情が暴れ回っている心境を訴えたくて、複雑そうに歪んだままの表情を
もう一度じっと見つめて、言葉にして伝える。
この想いが実を結ばないとしても、傍に居続けられないとしても、
せめて、あなたという存在だけは――未来まで、持ち帰らせて。

胸の中で募らせていたものを、全て打ち明けた私は、そのまま言葉をなくして立ち竦む。
後悔はしていない。していないけど、胸の中が今にも痛みで潰れてしまいそうだった。
アーロンさんは何も言わずに、やっぱり立ち竦んでいた。
馬鹿なことを言うなと怒ることもしなければ、呆れてその場を去るようなこともしない。
しばらくの間、そこだけ二人の時間が止まったように思えた。

「――四日後」
長い沈黙が終わったのは、囁くような低い声の呟きが聞こえたときだった。
「四日後なら、仕事も任務も予定がない」
「――え」
唐突な話を理解出来ずに、思わず困惑した声を漏らしてしまった私を、
アーロンさんはとても真剣な表情で、まっすぐ見据えてきた。

「一夜で、いいんだな」
「――!!」
「こういったことは先延ばしにしない方がいい。――四日後の夜、君を訪ねよう」
「あ……アーロン、様……?」
淡々と告げられた言葉が、受け取った返事が、信じられなくて、私の頭は、真っ白になっていた。