冬のにおいがするね [無断転載禁止]©2ch.net
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「冬のにおいがするね…」
毎年、秋に入りかけの夜。夏の終わりを告げ、どこか寂しげな肌寒い風が吹くと彼女はそう言ってたんだ。彼女はそんな風が大好きだった。
彼女がいなくなってもう5年が経つ。もう彼女のにおいがどんなんだったか、思い出すことさえできない。ただ、この言葉だけは僕の頭に、鮮明に、彼女の声で今も再生される。お互い余裕のある暮らしではなかったが、それでも幸せだった。
一緒にいられる。それだけでよかった。
今日も僕はただ、昔の思い出を引きずりながら意味のない生活を送り続ける。 こんな時間だしここしか吐き出すところがないから1人で語らしてくれ。
出会いは8年前の夏。
まだ高校2年生。
部活に入ってなかった俺は遊ぶ友達もいないので1人で植物園に行ったんだ。普段は絶対に行かないような場所だったんだけど、その日はなぜか無性に行きたかったんだ。
暑い日差しに照りつけられながら何も考えず植物園に入る。暑さのせいかあまり人はおらず貸し切ってるみたいで少し嬉しかった。 少し園内を歩いているとベンチに1人の女性が座っていた。20歳くらいの若い女性。
まだ昼なのにビールを飲んでた。ちょうど歩き疲れてたので隣に座らしてもらおう、そう思って横で腰を下ろしかけた時。
その女性がいきなり泣きだした。
なんの前触れもなくいきなり泣きだすものだから当たり前だけどテンパった。そのまま放って帰ろうかと思ったがそれも気の毒に思えて大丈夫ですか?とだけ声をかけて見た。
女性は目の前に立っている俺を睨みつけるような目で見てきた。普段は絶対にそんな人には関わらないようすぐに立ち去るのだが、なぜかその女性に惚れてしまった。と同時になんとかしてあげないと、という気持ちが芽生えた。
俺は取り敢えず女性の話を聞くことにした。誰かに話すことで少し気が楽になると思ったから。 女性は少しためらいながらも話してくれた。僕はそれを真剣に聞いた。
気がつけば青かった空が赤色に染まり、アナウンスが閉園を知らせていた。
取り敢えずお互いの連絡先だけ教えあってその日は帰った。
それが初めて出会った日のこと。 あとあと連絡をしていると分かってきたんだが女性は俺の住んでる県には住んでいなかった。
夏のジメジメとした鬱陶しい時期が終わり、そろそろ秋になろうかとしていた9月。まだなんとか続いていたメールで俺は2人でどこかに行こうと誘った。
どのくらい待っただろう。そんなに時間は経ってないはずなのになぜか時間が長く感じてしまう。 女性からの返信を知らせるバイブレーションめ重くなってきたまぶたが一気に軽くなった。緊張しながらひらけた携帯。そこには「いいよ!」の一言。こんなに一言だけで喜んだのは初めてだ。思わずやった!と声が出てしまう。
女性はお寺めぐりが好きだと言っていたのでお寺めぐりに行くことにした。山奥にある寺に。楽しみすぎた。はやく約束の日が来ないかと毎日待ち遠しかった。とにかく一日一日が長かった。とてつもなく長かった。はやく来ないかなという気持ちだけがはや走りしてしまう。 約束の日。
まだ少し暑さが残る昼過ぎ、待ち合わせ場所の駅に着いた。約束の30分前に。
少しすると女性が来た。白いワンピースに麦わら帽子がよく似合っていた。「おまたせ!まった?」笑顔で問いかける女性は俺には眩しすぎた。駅で少し待ち電車に乗った。田舎のローカル線だから1両編成の小さな電車だ。
電車の中には誰もいなかった。「わたし誰もいない電車が好きなの!ちょっとだけ自分のものになったみたいでしょ!」彼女はまた眩しい笑顔でそう言うと座席に座った。 連投規制がこわいけどかかるまで書いていこうと思う。 電車に揺られるうちに俺たちは寝ていた。
目的地に着き俺たちは眠たい目をこすりながら駅に降りた。
周りは山だらけだった。空気がとても美味しかった。
休日なのになぜか人が少なかった。
「人少ないね〜!あんまり多いの苦手だからよかった!!」そう言って女性は楽しそうに寺の門まで続く山道を歩いて行った。
舗装はされているもののそこそこ険しい山道を歩き門の前まできた俺たちはそこで衝撃を受けた。 「閉館日」
2人の頭は真っ白になった。そして全てが繋がった。だから電車もここに来るまでも人が少なかったのか…と。
気づかれないように女性の表情を横目で見る。なぜか楽しそうだった。「だって私は俺君と話せてるだけで楽しいもん!森の中も散歩できたし!!」
そんな言葉を聞いて、なぜかとてつもない罪悪感に襲われた。でも女性はそんな僕の思いを吹き飛ばすような眩しい笑顔で「俺君!今日はこんないいところに連れてきてくれてありがとうね!!」って。言った。 下山途中、川があったので目的変更。川遊びをした。ビチョビチョになったけど楽しかった。女性は自然がとても似合っていた。俺はそんな女性にますます惚れていった。
また電車にのって次はラーメンを食べにいった。鶏ガラ出汁のラーメン。女性は暑そうにすすりながらも幸せそうに食べていた。
守りたい人が初めてできた。こんな幸せそうな顔をこれからもずっと守っていきたい。そう思った。女性からすると僕はただのガキなのかもしれない。それでもよかった。ただこの笑顔を守りたかった。 2人が食べ終わる。「つぎどこ行こっか〜!俺君カラオケとか好き?」
曖昧な返事しか返せないまま、結局近くにあるカラオケに行くことになった。
時刻はもうすでに21時。
部屋の薄暗い雰囲気が2人の眠気を後押しする。女性はビールを飲んでいた。アルコールの匂いがほのかに香る。
2人は歌うこともせずただ隣り合わせに座っていた。
それだけでよかった。
ただ時間は非情にも同じ速さで刻一刻と進んでいく。
時々女性は顔を下に向けていた。何かを考えているような、悩んでいるようにも見えた。 部屋の小窓から通路を覗くと、大学生くらいのチャラ男三人が「ウェーイ!」と意味不明な掛け声を発しながら下品な会話をしていた。
「なあ、A助、お前知ってるか?
広告デザイン科一年のB美。あれかなりのビッチって噂だぜ?」
「あぁ知ってたよ!気に入った男見つけたら、すんげぇ甘々な素振りして近づいてくんだよな。C太郎、お前もヤラセてもらえよ?(笑)」
「俺ビッチとか興味ねえし・・・マジきめぇ。」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなそんな会話が俺の耳に入ってきた。
当然この会話を彼女も耳にしている。
俺は彼らと何も関係はないのに、こんな下品な会話を聞くハメになった彼女に対し何となく申し訳ない気持ちになった。
「ウェッホ!?ゲホッ!ゲホッ!・・・あ〜、何か喉に引っ掛かったかな?」
気まずい雰囲気を誤魔化すかのように俺は噎せたふりをした。 >>13はただの便乗です。
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