0001君の名は(やわらか銀行) (2段)
2017/11/08(水) 22:18:57.810平手くんは美月に会ったとき、目をまったく合わせようとしなかった。うつむきがちに不気味な微笑をみせるだけで、
挨拶すらしようという気配がない。
すると平手くんは、いきなり、美月の肩に腕をまわして、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、さあ行こう、
と言って、なかば強引に歩き出した。
こういうときの平手くんは、いつも唇が震えている。デートを重ねるにつれて美月は、平手くんのいろいろなクセに気づいてきたが、
この唇を震わせるクセは、一回目のデートのときから変わっていない。
二人は行きつけのバーに入った。金曜日の夜とだけあって混雑している。
奥から店員さんが出てきて、もう少ししたら席が空くというので、二人は店を出て、そばの階段で待つこととなった。
平手くんは手をポケットにいれて、どこか斜め上を見ながら、白い息を吐き、脚をグダグダさせイラついていた。
それを横目で気づかれぬように美月は見ていた。これもまた、平手くんのクセの一種であった。
ほんとうはイラついてなんかいないのに、美月と二人きりになって、まわりに気を紛らわすものが何も無いとき、
平手くんはきまって機嫌の悪いふりをして、自分の苦手な会話が始まるのを避けようとする。
しかし美月は、その心理を見抜いたうえで、平手くんにいじわるく話しかけるのが常だった。
「今日の撮影はどうだったの?」
「ん? あー、くっそつまんなかったかな」
「え〜? なにそれ (笑)」
「 …」
「いやな撮影だったの?」
「ん? いや?そういうわけではないけど」
「そうなんだ〜 (笑) 」
「 …」
平手くんはやはり斜め上の壁ばかりを見て、美月の顔どころか、美月の頭より上の空間しか視界に入れようとしない。
街の明かりの反射でメガネが光って見えにくいが、その奥にある平手くんの幼い目は、戸惑ってオドオドしているように見えた。
そしてその可愛さに、美月は胸キュンした。
店の扉がひらき、店員さんが出てきて、席の空いたことを伝えた。
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