仮想幻想

水面の月は日々鮮やかさを増し
凍える毛先の霜の反射は何処からか
ただ震えていることだけが拠り所で
つま先がふわりと淵を踏み外し
まだ眼球はそこにありますか?
路地のゴミ集積所の酔いどれが
未来式の眼鏡の前に手を伸ばす
ようやくシャッターを下ろせた
幾重にも絡められたミミズの脈動に
温もりを感じることに何を躊躇うのか
でも皆分かっているのだ
缶ジュースの中では窒息しかないのだ
その太陽は目指すものではないのに
不自然の白色のフードプロセッサは
プロパガンダが酷く上手い
それでも水面に目を向けて
水面のさざ波に目を向けて
さざ波の高低に目を向けて
高低の周期に目を向けて
奥底のホログラムに爪を立てようと
伸びかける手を押しとどめて
押しとどめたような感覚を注入されて
手足なんてないのに
まだ眼球はありますか?
気が付くとゴミ集積所の前に立ち
酔いどれは相変わらずHMDに夢中で
でも水面はまだ揺らめいて
この毛皮の霜の反射光は何処からかと
伸びた手が
軽いだなんて誰が信じるのだろうか