■部下の些細な一言で、突然の逆上と罵声

あるメーカーの営業担当の常務取締役、Eさんからの相談でした。

「私の下にいる営業部長のFが、部下ともめ事を起こして、大きな騒ぎになってしまいました。いったい何が起きたのか探ってくれないでしょうか」

E常務によると、それまで部長のF氏は穏やかな人と認識されていたそうで、なぜこんなことになったのか、見当がつかないというのです。

そこで事情を探るべく、F部長、さらにはもめ事の一方の当事者である課長のGさん、さらにはF部長が率いるチームのメンバーに事情を聞きました。

すると、F氏にはE常務には見せない「裏の顔」があることがわかったのです。

部下たちの証言を総合すると、F氏はこういう人でした。

確かに普段は穏やかであるのは間違いない。しかし、E常務をはじめ、社長など自分の上の立場にいる人には挨拶を欠かさない一方で、部下に対しては自分から一切挨拶をしない。

部下に対しても、好き嫌いがはっきりしすぎており、自ら話しかける部下と、まったく話しかけない部下がいて、それぞれの部下から相談事があった場合でも、その対応ぶりには大きな違いがある。

部長になったといっても、特に現場の営業担当として大きな成果を上げたわけでも、課長時代に部署の成績を伸ばしたわけでもなく、社長や常務に媚(こ)びを売って気に入られ、部長に取り立てられた、と部下たちは暗黙のうちに了解していた――。

周囲からこのように見られていたため、当然、部下からの評判は押しなべてあまり高いとは言えない状況でした。

では、F部長とG課長との間に何が起こったのでしょうか。

もともとG課長は仕事もでき、順調に成果を出してきたため、F氏のお気に入りの部下でした。何かというとGさんを頼りにし、よく部の運営についても相談している姿が目撃されていました。

事情が大きく変わるきっかけは、部長によるGさんの目標設定面談でした。

当時、F氏の要請で営業部員が増員されていたことから、会社全体の予算で利益見込みが対前年比プラスに設定されており、そのため売上目標も大幅に増額されていました。

それまでG課長は自分の担当する課のノルマは達成し続けていたのですが、目標額がアップしたことにより、今回は未達になってしまいました。