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2020/03/26(木) 04:52:01.75ID:qcC+WwZ/「このままじゃ、みんな死んでしまう! 放せ、この……」
「お前が行ったところで誰も助けられない!」
ちっ、とトーナは舌打ちをする。今にも飛び出さんとする腕をつかんでいたのと反対の手をその白い首に回して上腕と前腕で挟んでがっちりと絞め、抵抗などお構いなしに無理矢理意識を落とす。
「くそっ……なんで俺がこんなことを」
岩陰にぐったりとした少女をそっと横たえ、彼はここが死地だと肚を決めて敵の許へと向かった。
浅い草地では死角からの不意打ちなどとれない、だから力ずくの一息で決める、と駆けるリズムに合わせて跳ねる鞘を片手で支え、逆袈裟に斬り込んだ渾身の一撃が打ち下ろしによってはじかれる。
骨に響く重い衝撃とともに台地に打ち込まれた刃を抜く暇はないと判断して、倒れ伏す兵士の手からこぼれ落ちていた剣をひったくって転がる。
落とされた白刃が耳の横をかすめ、起き上がって間合いを取りながら確認すると、さいわい柄は血で濡れておらず、手の内から滑らせる危険なしに使えそうだった。
「――築くべき現実がもはや無いと知りながら、自分たちに未来が無いと知りながら、なぜその砂上に楼閣を建てようとするのか?
お前たちが持てる者であるのは偉大な過去からのけちな遺産で食いつないできたからにすぎない。誰一人として守ることなく、見向きもしなかったそれがお前たちの生命線そのものだった。どうしてその矛盾に気づかない?」
「…………」
歌うように戯言を口にしながら、心臓を握りつぶすほどの覇気で威圧する。これは、まずいものだ。戦ってはいけない相手だ。と本能が警告する。