惨状。死体の山から流れ出す赤い川と、むせ返る錆びた鉄の臭い。燦々と照りつける太陽が、肌のうわべに熱気を閉じ込め、いやにつめたく不快な汗が額から頬に流れる。

「リアン……どうしてあんたは、オレにだけ優しいんだ? どうしてオレにだけ生きろって言うんだ?
 こんなに多くのものを犠牲にしなけりゃならないっていうなら、そうでなければ生きられない命だっていうなら、だったらオレは……そんなの、いらないよ」

 それだけを言うと少女は、もうどうしようもない、という顔をして、そっと自らの胸に右手を当て、――どむ、というわずかに腹に響く音を、心臓に向かう爆撃を放った。
 ごう、と一瞬の炎が中空に昇ってすぐに消える。
 びちゃり、と人の焦げる嫌なにおいを残して倒れたその正面の、えぐれた肉から血に染まった胸骨がむき出しになっている。
「ア、――アーティ!」
 折られた左腕の激痛にかまわず、いてもたってもいられず駆け寄ると、苦しげではあるが、まだ息がある。
 心臓はまぬかれているようだが、傷の深さがわからないので下手に抱き起して動かすこともできず、手の出しようがない。気管に入った血のかたまりを吐いてるんだ、と気づいた。まずい、まずい――と、頭の中で警報がわめいている。

 リアンはいわく言い難い表情をしてその様子を見つめていたが、静かに首を振ると、やがて背を向け自分が築いた屍の山を後にして去っていった。