「ところで、あなたに見せたいものがあるの」

 ぱん、と彼女が両手を打ち合わせると、そこは自分がつい今しがたまで立っていたはずの薄暗い洞穴の中ではなく、人ひとりが住むとは思えない、神殿のように荘厳で、だだっ広い空間だった。
 部屋を埋め尽くす、無数の彫像、壁画、天井画……彼女にこの部屋をどう思うかと訊ねられて、私はその芸術品の数があまりにも多すぎることを口にした。
 明るい光の差し込んでくる部屋の中央に配されたグランドピアノに向かう少女を私はエルベと呼んでいたが、彼女の話によればこれは全て石にされた女たちで、彼女の一族の人々なのだという。
 代々の当主がこの部屋を継いで、石化の呪いを解く方法を探してきたらしいが、この部屋を見渡す限り、その始まりは気の遠くなるほど、それこそ何千年もの昔からの話なのではないかと思われる。
 少女の背負ったものを知って、私は少しだけ、彼女の心を理解できたような気がした。

「花束のお礼、と言ったらおかしいかしら。けれどあなたには知らせておくべきだと思ったから」
「エルベの使命を、ですか?」
「いいえ――そう、そうだけれど違うのよ」
「それは私が存じてもかまわないことでしょうか」
「今は伝えようがない、けれどその時が来ればあなたはかならず気づくわ」
「……はい」

 彼女の様子に、彼女らしからぬ感情のさざ波を見て取った私は、その時あなたはどうなっているのですか、という問いをのみこんだ。