すべての調度品が同じ色合いに統一された部屋。整いすぎてむしろ味気ないと感じるその部屋に、二人の男が立っていた。
 書きかけの書簡と、双頭の獅子の記章が彫られた印形、インク瓶と羽ペン入れの立った執務机を挟んで、一人は窓際に、もう一人は入り口の扉に背を持たせかけて。
「何故あいつを行かせた?」
「彼女が、君を死なせるべきではない、とそう言ったからだ」
 君では何もできずに殺されるだけだろう。無謀な賭けは君らしくないし、するべきではない。そう、彼はただ事実だけを述べた。
「だからといって、」
「トーナ」
 低く、静かな、落ち着いた声。それは、この空間にこれ以上ふさわしいものは存在しないというような。
「この街を守るのが、私の役目だ。私はそのために存在する」

 窓越しに一望できる景色は、石の街。その窓を背にした男は、見た者の瞳を捉えて離さぬような存在感を放つ冷厳な瞳は、扉を背にした男と向かい合う。
 どちらも互いの視線を受け止めたまま、逸らすこともせず、空気が張り詰める。

「なら、俺は俺で、いつものように勝手に動く。それでいいんだろう?」

 そう吐き捨てて、扉を背にした男は扉を開けて出ていった。
 わずかに置かれた沈黙の後、残された男は、留め金を外して窓を開け放つ。ばたばた、と勢いよく吹き込んできた風に、合わせた襟元があばれ、薄い色合いの金の髪を翻弄する。
 そのまま彼は空を仰ぐと、天頂に昇った太陽をまぶしげに見つめ、深い紅の双眸を細めた。

「そう……幸いにもまだ、時間は残されている」