JR東海にとって在来線の意味とは
 国鉄改革法で基準となった平均通過人員4000人/日未満に当てはめると、高山線、身延線、飯田線もバス転換対象になってしまう。しかし鉄道廃止の動きはいまのところない。21年3月に発表された「2021年度重点施策と関連設備投資について」においても、路線の見直しをにおわせる文言はなかった。

 筆者は「JR東海が平均通過人員では計れない価値を見出している」と考える。地域輸送では心許ない成績であっても、在来線各線は広域・観光輸送で大きな役割を持っている。

 高山線は名古屋〜富山を結ぶ特急「ひだ」がある。身延線も静岡と甲府を結ぶ特急「ふじかわ」がある。飯田線には特急「伊那路」、中央線は特急「しなの」、紀勢線は特急「南紀」、御殿場線は特急ロマンスカー「ふじさん」だ。寝台特急「サンライズ瀬戸/出雲」は名古屋駅に停まらないけれど、熱海・沼津・富士・静岡・浜松(下りのみ)に停車し、
沿線エリアの人々に山陽・山陰・四国へ直行サービスを提供している。

 つまり、JR東海は在来線について、岐阜・名古屋・豊橋・静岡エリアの通勤輸送と、東海道新幹線で行き届かないエリアの都市と観光地を結ぶ特急列車を重点施策に置いている。そしてこれらのエリアと特急列車を東海道新幹線と結びつけて地域に貢献するという姿勢だ。

 東海道新幹線・リニア中央新幹線については、東京・名古屋・大阪を結ぶという使命がある。それはJR東海にとって日本の経済を支える責任、そして誇りだ。役割が大きいだけに頑なな一面もあり、ときに冷たい印象も持たれてしまう。しかし在来線は国単位の大ごとにはしない。地域に密着した公共交通事業として、違うベクトルの誇りと責任がある。

 その現れのひとつが新製車両の積極的な導入だ。冒頭の315系電車もそのひとつ。23年度までに中央線の名古屋〜中津川間の普通列車はすべて315系になる。これは中央線を優遇しているというわけではなく、むしろいままで中央線は古い車両が多く残留しているため、これら古い車両を一掃する狙いがある。
中央線内の比較的新しい313系電車についてはほかの線区に転出し、そこで古い車両を押し出し廃車していくという。

 その後、315系の投入線区は静岡地区にも投入される予定だ。報道公開された車両は8両編成だが、今後は4両タイプ、2両タイプも作られるとみられ、東海道本線や関西本線にも配属される設備投資額は約720億円とのことだ。

 特急形車両も新型の投入計画がある。非電化路線用のハイブリッド式「HC85系」だ。ディーゼルエンジンを搭載しているけれども、このエンジンは発電機として使い、その電力でモーターを回して走る。余剰な電力や減速時に発電した電力はバッテリーに蓄える。

 19年に試験車両として4両編成1本が落成し、21年1月に量産が決定した。22年度から23年度にかけて64両を新製し、紀勢線の特急「南紀」、高山線の特急「ひだ」用に配備される。事業費は約310億円だ。


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