『AIと憲法』(日経新聞出版社)の共著者で「AIと民主主義」の章を執筆している帝京大の水谷瑛嗣郎助教(32)に聞いてみた。

「ニュージーランドのAI政治家『SAM(サム)』が話題になっているが、実際にチャットで会話してみて実用化はまだまだ遠いと感じた」というように、
AI議員が生身の人間の議員を議論で打ち負かし、政治的な勝利をおさめていくというのは、なおSF小説の世界だ。

当面は「AIにサポートされる政治」がテーマになるとして次のように指摘する。

「AIを使う政治家が出てきて、これまでに積みあげてきたデータを読みこみ、
新しいパターンや未来予測をもとに政策を打ち出すようになるのではないか」

「そうなると、より精緻な政策立案が可能になり、最適解が求めやすくなるかもしれない。
不透明な人間関係や利害関係ではなくエビデンス(証拠)にもとづいた政策決定で有権者の信頼を得るようになるだろう」

AIによる政策決定過程の変革に関しては、期待できるということのようだ。

しかしその場合、特定の企業や外国で設計されたAIを使うことに問題はないのか。
AIの設計段階から民主的にコントロールする必要が出てくるはずだ。
AIの分析結果を政治家に「翻訳」して説明する専門的な機関や人材をどう育成していくのかも考えなければなるまい。

ちょっと先の話かもしれないが「AI立法」ができるとすれば、
立案過程でどのようにチェックし、批判的に吟味していくのかも課題になる。

与党の事前審査制はどうするのか、野党はAIで対案を出していくのか……AIのAIによる監視になるのだろうか。
立法権がAIに移らないよう統制していく制度のあり方も検討しなければならないに違いない。

利害を調整しながら合意を見いだし、かりに間違ってもみんなで決めたことだからそこからまたやり直そうとするのが民主主義。
そのあり方に、はたしてAI政治はなじむのかどうかだ。
人間の感情と欲望がないまぜになった権力闘争の場である政治の世界にAIがどんなふうに絡んでくるのかも見通せない。

ただ人間の能力を超えるAIが登場する時代が来るというのだから、
映画『2001年宇宙の旅』みたいに人工知能が反乱をおこす事態を避けるためにも、今から頭の体操を始めておいて悪くはない。