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「スターリンの野望」北海道占領を阻止した男 2019/01/27 読売

 北海道占領を断念したスターリンは8月28日、南樺太の部隊を択捉えとろふ島に向かわせ、国後くなしり島、色丹しこたん島、歯舞はぼまい諸島を次々に占領した。「本来は北海道に送り込む部隊を、仕方なく腹いせのように北方4島に送ったのではないか」と隆一さんはいう。

米国を動かした「もうひとりのスギハラ」

樋口を戦犯として引き渡すように申し入れたが、マッカーサーはこれを拒否した。米軍とのパイプもあったのだろうが、背景にはユダヤ人団体が引き渡しに反対して圧力をかけたといわれている。

 樋口はハルビン陸軍特務機関長を務めていた1938年(昭和13年)、ナチスに追われてソ満国境のオトポール(現ザバイカリスク)に逃げ込んできたユダヤ系ドイツ人に食料や燃料を配給し、日本政府と軍部を説き伏せて、満州国の通過を認めさせていた。

 ドイツは日本に抗議し、関東軍司令部は樋口を呼び出して査問するが、樋口は参謀長だった東条英機(1884〜1948)に「参謀長、ヒトラーのお先棒を担いで弱いものいじめすることは正しいと思われますか」と問いかけた。東条も樋口を不問に付し、「当然なる人道上の配慮によって行った」とドイツの抗議を一蹴したという。

 この逸話から、樋口は近年「もうひとりの杉原千畝ちうね(1900〜86)」と呼ばれることもある。隆一さんは「祖父は合理的に物事を考える人だった。ユダヤ系ドイツ人を救ったのは、杉原のように外交官としての信念というよりも、筋が通らないことが嫌いだったからだろう」と話す。

 1月28日放送の深層NEWSに出演した樋口隆一さん(写真左から3人目)は、「(ソ連軍の侵攻は)明らかに国際法違反。日露戦争の復讐ふくしゅう戦だった」と指摘し、ロシア側が第二次世界大戦の結果を受け入れるよう求めるのは「国際法違反ということを蒸し返させないためではないか」と指摘した。近代日本政治史に詳しい慶応大教授の片山杜秀さん(同2人目)は「(不法占拠された)結果を受け入れるのはあまりにも不条理。千島列島全体が日本領だと主張して妥協点を探るような交渉をしてもいいくらいだ。あわてて(返還交渉の)結論を出すべきではない」と話した。