クトゥルフ/クトゥルー/Cthulhu-63
>>717 盲目のものという呼称はエンサイクロペディア・クトゥルフには載ってないのな 抹殺されてしまったか 眼が見えないのと、そもそも視覚を必要としていないのとは別なので 盲目のものはちょっと安直なネーミングという印象はあった >>717-720 「盲目のもの」は、1978年に創土社から出版された「ラヴクラフト全集 IV」に収録されているフリッツ・ライバー・Jrのエッセイ「ブラウン・ジェンキンとともに時空を巡る」における、英語の"the Blind Beings"の荒俣宏による翻訳。 > 約六億年前の古生代初期に、地球と太陽系の他の三つの惑星に、ここでは〈盲目のもの〉と呼んでおきたい半ポリプ状の種族が到来した。彼らは幾つもの宇宙を抜けて到来したが、その構成物質はわたしたち人類の知識内にあるものである。彼らは翼を持たずに空を飛び、風を武器として用い、窓のない玄武岩の都市を築いた。彼らはもっぱら円錐状の生物を食料にして、しばらくのあいだ地球を支配した。 ――ラヴクラフト全集 IV、pp.511-512 ラヴクラフトの「時間からの影」に登場する「半ポリプ状のまったく異質な存在である、恐るべき先住種族」"a horrible elder race of half-polypous, utterly alien entities"に対して、ライバーがとりあえず使った呼称が、しっくりくるのでTRPG「クトゥルフの呼び声」における独立種族"Flying Polyps"の訳に採用されたという経緯かもしれない。 時間からの影を読み返してみたら、ラヴクラフトはあの種族を"Flying Polyps"と呼んでいないばかりか まったく命名してなかった。だからライバーは便宜的な呼称を考える必要があったのか! 話はずれるが、ブラウン・ジェンキンの荒俣訳の 「その構成物質はわたしたち人類の知識内にあるものである」 原文では "They had traveled through several universes and were constituted only in part of matter as we know it." 荒俣先生はonlyを訳し落としてるっぽい。onlyの意味を踏まえて訳すなら 「その構成物質のうち、わたしたち人類の知識内にあるものは一部に過ぎなかった」といったところか >>722 森瀬繚の「ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典」における「空飛ぶポリプ」の項でも「盲目のもの」という呼称については触れられていないし、索引にもなかった。 エンターブレイン版「クトゥルフ神話TRPG」(2004年)では「飛行するポリプ」なので、ホビージャパン版「クトゥルフの呼び声」TRPG(1988年/1993年)の周辺で使われたということだろう。 >>723 この先住種族にケイオシアム社がゲームの必要上便宜的につけた呼称が"Flying Polyps"で、ゲームの日本語版においては、ライバーが便宜的に呼んだ"the Blind Beings"の日本語訳である「盲目のもの」が採用されたという、便宜尽くしの経緯か。 >>724 「時間からの影」における「この種族の体は一部だけが物質――われわれの理解の範囲内にある物質――で、その意識の型や知覚手段は、地球上の生命体のものから大きくかけ離れていた。」(東京創元社「ラヴクラフト全集」第3巻、p.242)という記述とも一致している。 初期の Chaosium は基本的に Lovecraft の著作から採用していてそうじゃなければ自分たちで勝手に命名していた ホビージャパンの翻訳はラヴクラフト本人の作品にはこだわらずに当時日本語に翻訳されていたクトゥルー神話関連諸作品から訳語を採用した 今でこそクトゥルフといったらRPG用語が最初に挙がるが当時の認識は当然違ったので 歴史的経緯というやつだ 呼称といえば「未知なるカダスを夢に求めて」に出てくる狩りたてる恐怖(忌まわしき狩人)も 原文では"his formless hunting-horrors"で、果たして種族名なのか微妙なところ 仮に種族名だとして、誰が命名できるんだよという突っ込みが当然あるだろうし むやみに設定をこしらえないのがラヴクラフトらしい謙抑といえるかもしれん 「名付けて定義できない」ことによる正体不明の恐ろしさ、みたいなもんも狙ってたんでは。 あとあとゲーム他で体系化する時に名前がないと不便だから定義されたのはご愛敬。 ガグはgugsでガーストはghastsと全部小文字だが、これは普通名詞扱いだからか 考えてみれば犬や猫をいちいち大文字から書きはじめたりはしないわけで 表記ひとつとっても幻夢境なりのリアリティを追求しているように見える 「未知なるカダスを夢に求めて」の大瀧啓裕訳ではformless hunting-horrorsは 「駆りたてる無定形の恐怖の配下ども」で、これはどう見ても種族名ではないっすね 森瀬訳では「形無き狩り立てる恐怖ども」にハンティング=ホラーとルビを振り 種族名とする解釈にいくらか寄せている印象 英語だと種は一般名詞扱いで小文字が始まりだよ。民族名とかは固有名詞なので大文字始まり。種族全体を指す場合や学名とかは大文字始まり。 a deep one → 一人の深きもの two deep ones → 二人の深きもの Deep Ones → 深きもの種族 登場している個別の存在について記述する場合は小文字、種族全体の特徴とかを説明する場合は大文字はじまり。 >>733 そこまで厳密なものではなさそう 手許にあるブライアン・ラムレイの"The Return of the Deep Ones"を見たら 「深きもの3匹」を"three Deep Ones"と書いている たぶん大文字のほうが格好いいとか、その程度の理由で決めてるんだろう 逆にダニエル・ハームズは種族全体を指す場合でも小文字にしているけど むしろ定冠詞の有無で判別するんじゃないかな >>734 もちろん厳密ではない 正しい作法で書けない作家もいるし 敢えて正しい作法から崩して特別なニュアンスを込めることもある 作家の意図しないミスとか誤植が取り切れてない場合もある 日本語の小説思い浮かべれば全部が正しい日本語使っているわけではないことが分かるだろ ラヴクラフトはズーグとかガグとかガーストを一貫して小文字だけで書いてるんだが 逆にダーレスはバイアクヘーを必ず大文字から始めており、ラムレイの流儀も同様 ただしラヴクラフトもDeep Onesには大文字を使っており それすら小文字で統一しているハームズはちょっと極端に見えたんだが マレモンの原書を見たら、これまたdeep onesで揃えてたわ 昔の本だと手書き原稿から植字する職人が勝手にスペルを直したり、大文字小文字を変更したりするのもザラなのできちんと著者の意図を反映しているかは分からない、大文字小文字は誤植多い 著者が存命なら改版のときに修正されたりすることもあるけど死後はそのままにされるのが普通 トールキンの「指輪物語」クラスになると研究者がいて草稿の改変履歴や書簡をたどって死後に大文字小文字が訂正されたりするけどかなり例外 ラヴクラフトの作品もS・T・ヨシによる校訂版が有名だね その件について論じた「ラヴクラフト=テクストにおける諸問題」というのが 国書刊行会の定本ラヴクラフト全集の1巻に収録されてるんだが ズーグやガグやシャンタクはすべて小文字で表記しないといけないってのも指摘されてる 永劫の探究の第4章で、空を飛んでいるものの正体を確認したシュリュズベリイ教授が "The Byakhee"というんだが、大文字小文字より定冠詞を使っているのが気になった まあ総称なんだろうけど、そこで総称表現にするの? という疑問が >>739 総称じゃなくて選択固有名詞とかだったりしない? 「あの有名な Byakhee」みたいなニュアンスのやつ。 >>740 その場面にいるバイアクヘーは1頭だけじゃないので 選択固有名詞だとしても複数形になると思うんだよね 教授は単数形を使っているので byakhee って単複同形じゃないの? 別に複数形ってあるの? a byakhee が個体で Byakhee が種族名という認識 >>742 すまん、そのくだりの少し後に"The Byakhee were visible on three nights between the oasis near the Nameless City and the port of Damqut."とあった 作家によってはbyakheesという表記を使うこともあるが、ダーレスの場合は単複同形のようだ 永劫の探求では一貫してthe Byakheeとしか書いていないので ダーレス的に不定冠詞が使用可能なのかは実は不明 なお作中にはByakhee birdsという表記もあるが、あるいはManx catのようなものか read.cgi ver 07.5.4 2024/05/19 Walang Kapalit ★ | Donguri System Team 5ちゃんねる