――艦これSEED 響応の星海――


金剛らが佐世保への直帰ではなく、福江島最南端の前線基地への寄港を選んだ理由は、至極単純であった。
佐世保まで曳航するには、ナスカ級の船体はダメージを受け過ぎていたのだ。
無茶苦茶な解体によって摘出されたナスカ級中央部は、もう自壊寸前だった。
至極単純で、当然の理由だ。そもそもが地球上で使うことを想定していない宇宙専用艦艇である。
それが地球の重力下に在るだけでも相当な負担だというのに、海に墜落して荒波に揉まれた挙げ句、バカスカ攻撃されて両弦スラスターブロックを喪って、それでもなんとか海上に浮いていたこと自体が奇跡だろう。
もしナスカ級設計者が知ったら泣いて卒倒するに違いない。
ともあれ、無理に曳航し続ければどうなるかは想像するまでもなく、実際、曳航されている最中にも幾度となく沈みかけ、最終的には艦娘達に支えてもらってようやく航行可能という有様だった。
早急にどうにか安全を確保しなければならない。
というわけで、少女達は揃って福江基地に入港することになった。
しかし、少女達の戦いはまだ終わらない。
ここは前線基地。
それも、目と鼻の先の海が敵領域であるのに、防備のまったく整っていない前線基地だ。
思い出して頂きたいのは【金剛組】の当初の任務内容で、艦娘達はナスカ級クルーの葬儀を終えると直ぐさま、先に作業を進めていた【はやて丸】クルーに合流するカタチで復旧作業に取りかかった。
最大目標の一つであった有線通信用ケーブルの再接続に加えて、前もって搬入されていたモジュール構造式の工廠の組み立て、宿泊施設や物見櫓の修理等が急ピッチで進める。
それは本来、数日かけて行う予定のものだったが、敵の執着するナスカ級を引き入れた以上は悠長なことを言っていられない。
今はどこまでもひたすらに、備えるのみ。

「――スカイグラスパー? あの、キラが取り逃がしちゃったっていうStrange Fighterのことデス?」
「うん。僕が知る限り、今この世界で偵察衛星を墜とせるのはアレだけだと思う。大気圏内用の機体だけど推進剤さえあれば」
<宇宙も飛べるだけのスペックがある、ということか。そりゃ確かに、普通の砲撃なんかじゃ衛星墜としなんぞ絶対不可能だが・・・・・・参ったな。こうまで私達の常識が通用しないとは>
「おい提督、感心してる場合じゃないだろが。しかしマズいぞ、デュエルは同化できないうえに飛べないんだろ? 次アイツが来たら難しいんじゃないか」
「ヴァルファウの件もありますよ。今の私達には敵航空戦力に対抗できる力が・・・・・・ありません。ただでさえ艦載機の消耗が激しいのに、なんとかしないと此方が一方的にやられてしまいます」

11月11日の20時14分。
そんな少女達に追い打ちをかけるようにして、とあるニュースが舞い込んできた。
繋がったばかりの有線通信によって実現した、佐世保の二階堂提督との緊急作戦会議でのことだ。基地敷地内の会議室に集った【金剛組】と【榛名組】の首脳陣――金剛、翔鶴、榛名、木曾、キラ――は、
一台の古ぼけたコンピューターが出力する提督直々の報告を聴いて漸く、自分達があくせく戦っていた最中に新たな事件が発生していたことを知ったのだった。