ナスカ級発見と同等――否、世間的にはそれ以上の、一大事である。

『偵察衛星が撃墜された。方法は不明だが、稼働状態にあった全ての衛星との交信が途絶したらしい』

艦娘はおろか深海棲艦にも絶対に手出しできない領域、高度36,000km。一方的な空からの監視によりそれまでの戦況を一変させた、現人類の英知の結晶、人工衛星。
これに直接干渉できるモノは、同じ人類をおいて他にない・・・・・・筈だった。
だというのに、あっという間に、寝耳に水の如く。兆候を察することも対策を講じることも出来ないまま衛星は呆気なく墜ちた。そもそも完全に想定外であった。
この世界の人間には、ソレが意図的な、何者かの悪意によって成されたものであるということしか解らなかった。消去法で深海棲艦の仕業と推測するしかなかった。
世界情勢を直接揺るがす大事件と混乱。
最近まで人類側の優勢に傾きつつあり、しかし佐世保の機能不全により均衡まで押し戻されてしまっていた戦況は、本日を以って遂に逆転されようとしていた。
キラ曰く、たった一機の戦闘機の仕業で。

「・・・・・・ごめん。僕があの時、ちゃんと・・・・・・討ててれば」
「それは・・・・・・、・・・・・・でも、御友人と似ていらしたのでしょう? なら仕方ないじゃないですか」
<なんにせよ厄介なことになった。軍令部もかなり混乱していてな、下手をすれば再び孤立してしまうかもしれん、我々は>

10月25日を境に始まった世界の変遷は、加速していく。
加速し、確実的確に人類のアキレス腱を切り崩していく。

「孤立、か。なぁ提督、横須賀の連中は・・・・・・ウェーク島前線基地はそんなにヤバいのか?」
<音信不通とまではいかないが、維持に影響が出るレベルで足並みが乱れている。ミッドウェー包囲網を突破されるのも時間の問題らしい。
今時、昔ながらの長距離通信は使い物にならんし、やはり衛星のサポートあっての西太平洋戦線ということだ>
「通信の重要性は痛いほど身にしみているが・・・・・・アイツらがそこまで苦戦するか」
「となると呉が動くのも時間の問題、ということですね」

強力無比な深海棲艦が次々と湧き出る西太平洋海域を専任する、横須賀鎮守府が押されだしたのだ。
通称、西太平洋戦線。これを維持し、敵を抑えこんでいるからこそ他の戦線が維持できると言っても過言ではなく、その戦局は常に世界中から重要視されている程だ。
日本国の主力 of 主力であり本丸である横須賀と、そのサポートを本懐とする呉こそが要衝ウェーク島前線基地を拠点に、今日までの日常を守護していた。
言うまでも無く、新型人工衛星の恩恵あっての戦果である。
なればこそ、この後の展開は容易に予想することができる。

「むぅ、今ビスマルク隊に抜けられるのはVery troubledデース・・・・・・」
「鹿屋の利根隊も、どうなるか。舞鶴と大湊も動けないでしょうし」