そういった状況を聞いて落ち着いていられる程、シン・アスカは大人でなかった。
怒れる瞳と称された男が遂に、動く刻がきた。

「デスティニー、巡航ステータスでシステム起動。・・・・・・やっぱエラーだらけだな、出力が上がらない。戦闘は無理だよなぁ」
<当たり前でしょ。っていうか、やる気だったの? 何度も言うけどアナタの仕事はあたし達支援部隊の輸送で、それ以上でも以下でもないんだから>
「解ってるよ」
<あと、くれぐれも外の人には見つからないように。アナタ達ってば軍令部にも内緒の最高機密なんだから。そりゃいつまでも隠し通せるものじゃないけれど、提督の好意と努力を無駄にしたら怒るわよ?>
「だから解ってるって! ・・・・・・お前は俺のお母さんかナニかかっての」
<あら。少なくとも保護者ではいるつもりよ、あたしは>
「そうかよ。・・・・・・三分後に出撃するって、みんなに伝えてくれ」
<わかったわ>

久しぶりに身に纏う、真紅の専用パイロットスーツ。
久しぶりに乗り込んだ、ブリュンヒルデ‐システム連動型思念制御式全天周囲モニター装備の自由回転式球状コクピット。
彼が操るは、重厚な鎧武者のような装甲、鍛え抜かれたアスリートのような体躯、禍々しくも美しい魔王のような二対の翼を携えた究極の機動兵器。C.E.の技術の結晶たる【GRMF-EX13F ライオット・デスティニー】。
まさか自ら志願したとは言え、無理を押し通して説得したとは言え、こんなにも早くこの機体を飛翔させる日が来ようとは。
でも、仕方ない。
偵察衛星が撃墜されたと聞いて。
横須賀と呉の艦娘がピンチだと聞いて。
佐世保ではキラ達が圧倒的不利な状況を打破すべく動いていると聞いて。
ふつふつと、冷え切っていた筈の情動が煮えたぎってきた。久しく忘れていた激情が、行き場を求めて荒れ狂う。
そこまで聞いてしまえば、もう動くしかない。ここで動かなきゃ、何の為にここに存在しているのか。彼が求めた力は、こういう時にこそ振るわれるべきだ。
この世界の為に今できる全てを。
通信機越しに天津風と軽口をたたき合いながら、シンは整備不十分な機体を立ち上げるべく、コンソールと格闘する。

(問題はエネルギー配分だ。自衛用にライフルを5発、シールドを1回、沖に出るまでのミラージュコロイドを加味して、ヴォワチュール・リュミエールでの飛行に必要なエネルギーは・・・・・・、・・・・・・往路は問題無い。
けど帰路で尽きる。できれば例のヤラファスクレーターまで足を伸ばしてみたかったけどな)

輸送船を小笠原諸島沖に待機しておいて貰おう。