ヴァルキュリア‐システムやSRCPS推進機構、積層式EVPS装甲といった最新鋭GRMFシリーズとしての特徴を最低限まで省き、総合力を【ZGMF-X56S インパルス】並にまで落としてでもこの体たらく。
相変わらずエンジンは絶不調で、どんなに頑張って整備士の真似事をしても改善しようがなかった。
もっとも、素人集団でデュートリオン核融合炉をどうこうできるわけがないとハナから判っていたから、予備電源のバッテリーのみでどうにか飛べるようこれまで努力を重ねてきた。
今、機体に無理させれば整備は一からやり直しになる。再び飛べるようになるまで、また数週間かかることだろう。
でもきっとこの日の為に、これまでの日々があったのだ。
危機に瀕したウェーク島前線基地を救えるのは、間違いなくこのデスティニーしか存在しない。正確に言えば、表だって戦うのはデスティニーが抱えた改装補給コンテナに詰め込まれた、呉鎮守府所属の支援部隊なのだが。
コイツを迅速に輸送し、後退中の西太平洋戦線を支援する。上手く機能すれば、佐世保からビスマルク隊を招集せずに事が進む。巡り巡って、キラ達の助けになる筈。アイツがここで終わっていいわけがない。
次元の壁すら越えた究極のモビルスーツは今、たった一回限りの最強最速の宅配便になる。

「つーか今更だけどよ、コンテナって。もっとマシな運搬手段はないのか?」
<これが意外と快適なのよ。ちゃんとリクライニングシートもベルトもあるから、こっちの事はそんな心配しなくていいわ>

手動制御思考制御複合式MS操縦システムたるブリュンヒルデを最大限活用し、いつになく慎重にコンテナをガッチリ保持する。
いつも大剣や大砲を装備させる厳つい両腕は、今や文字通りシンの身体の延長だ。なにせ乱暴に扱ったら後が怖い。

「いやそういう意味じゃ・・・・・・いいけどさ。・・・・・・ブリュンヒルデ‐システム起動確認。安全運転は心掛けるけど、舌噛むなよな」

戦闘機動とはまたベクトルの異なる難度と緊張感に舌なめずりして、シンはスロットルを上げつつフットペダルを踏み込んだ。
VPS / MPS複合骨格が正確に駆動し、無機質ながら機能的に引き締まった二本足で18mの巨体が力強く前進。誘導灯を手にしたマエストラーレとリベッチオの指示に従い、工廠から十分離れたところまで歩いていく。
モニターには厚い雨曇に支配された真っ黒な空と、とても船など出せないまでに荒れた真っ黒な海、わずかに命の営みを灯す瀬戸内海の島々。他には何も存在しない。
進路クリアー。
すると、再び通信機から少女の声。

<・・・・・・でも、ありがとね、シン>
「あん? なんだよ藪から棒に」