【軽巡棲姫】は後悔していた。
一つの戦いの顛末を見届け、十日余りの月が輝く台湾近海に帰還し、後悔していた。
結果論だが、やはり実験体【Titan】を参戦させるべきだったと。
というのも、出し惜しみには理由があった。
先の強行突破戦の折に、敵に機械人形の力を行使して【Titan】を屠る――あの一戦で4体も未帰還となったらしい――特異な存在(イレギュラー)が一人いたと、報告を受けていたのだ。
撃墜できたとも聞くが目撃証言少なく、ソイツが生き残っているか否か調べる術はなかった。
台湾近海前衛部隊の指揮を任された【姫】はあくまでも、つい先日ここに集った身であり、あの戦いについては伝聞でしか知らないのだ。
兎も角、その真偽を確かめず発展途上の兵器を投入し、徒に消耗するわけにはいかなかった。仮に生き残っていたら全滅させられるかもしれないのだ。異界の船を巡る戦いなら、異界の力を操る敵が出てこない筈がない。
リスクが高すぎる。
更に言えば、艦娘側も対【Titan】戦術を確立しつつあると聞く。強行突破戦以前のような一方的な展開にはならないだろうと考えた。
故に出し惜しみ、温存した。後の決戦のことを考え、巨人をより洗練し強化する道を選んだ。
故に争奪戦の増援には、精鋭だが喪っても痛手でなく、かつ機動力のある通常戦力を選んだ。
敵が通常艦隊ならゴリ押しで殲滅でき、例のイレギュラーがいれば即時火力集中か撤退できるように。


その選択よって導かれた間違いが二つ。


間違え其の壱。
窺知し得ない強大な敵に対する恐れが、戦力逐次投入に近しい愚策を招いた。脅威はイレギュラーだけでなく、あの二隻の駆逐艦のように敵艦隊の強さが、深海棲艦側の予測の遙か上をいっていた。
【軽巡棲姫】自身の途中離脱こそが一番の誤算だった。
間違え其の弐。
イレギュラーは最後の最後になって漸く現れた。推測だが、おそらく異界の船の内部から補充したのだろう。逆に言えば、異界の船へ侵入しなければ、敵は機械人形の力を行使できなかったのではないか。
これは【Titan】を投入していれば、多少苦戦しようとも勝てた可能性を意味する。
この二つの間違えが、あの無様な撤退を招いた。