何事も中途半端は良くない。たとえ予期せぬ遭遇戦だったとしても、やるなら徹底的に、動かせる戦力全てを動かすべきだった。


しかし収穫が無かったと言えば嘘になる。


結果的に、イレギュラーの存在を観測できた。
生態も精神も人類に近しい艦娘共が、あの短時間で機械人形を操れるようなるわけがない。兵器類に侵蝕できる深海棲艦ですらアレの操縦には熟練を要するのだ。
となれば、異界の船から飛び出した青と白の機械人形は、例のイレギュラーが操っていたのだろう。報告にあった、ビームの銃と剣を操る男。遠目に見た、敵通常艦船の甲板に乗っていた男。
様々な報告と事実と推測を鑑みて、現状、異界の力を操る敵はあの一人のみと断定できる。
沈んだ艦艇用大型スラスター確保の目処も立ち、なら次に考えるべきは、その一人をどう釣りだして確実に包囲撃破するかだ。
敵艦隊の盾になるであろうイレギュラーは、早期に潰さなければ。普通のやり方では駄目だ。己が戦力を見直し、より高次元の戦術で臨まねば。

「・・・・・・?」

そうこう考えていると、不意に特徴的なジェット音が【姫】の耳朶を打った。
超伝導電磁推進機関の駆動音。
見上げると星空に一機、T字型の真っ黒な戦闘機。今まで確認されてきた深海棲艦とは明確に異なる特徴を持った、深海棲艦側のイレギュラーが搭乗する異界の戦闘機が、その機首を隕石群に築いた滑走路に向けていた。
どうやら無事にミッションを遂行し、帰還するようだ。
初陣では即座に逃げ帰ったと聞いていたが、意外とあの者もやり手であるらしい。

「・・・・・・ユウダチ・・・・・・、・・・・・・ソシテ、ヒビキ。コンド、コソ・・・・・・」

状況はそう悪いものではない。
次はもっと上手くやってやる。
散々邪魔をしてくれたあの駆逐艦娘二隻も、蹂躙してやる。
その為には。
【軽巡棲姫】は次の戦いに備えて策を練り始めた。