「え、シンが?」
「Да。なんでも西太平洋戦線を支援する為に、呉の提督を説得したみたい」
「まるでドラマの一幕みたいだったって話よ。――俺がやんなきゃ誰がやるんだよッ!! ってな感じで執務室に乗り込んだらしくて。うぅん、オトコだねぇ」
「おかげでビスマルク達も利根達もこっちに残れそうだって、提督が言ってた」
「そう・・・・・・そうか、シンが・・・・・・。教えてくれてありがとう、響、瑞鳳さん」

緊急作戦会議を終えて暫く経った頃、福江基地中央広場。
一際大きい図体と索敵能力を活かして南方の海を睨みつける【GAT-X105 デュエル】、そのコクピットで機体調整に勤しんでいたキラに、シン・アスカ出撃の報を伝えたのは響と瑞鳳の二人だった。
とある事情から二人で陸上任務をこなしていた時に伝え聞いた、提督からの続報かつ速報かつ朗報。自分達を助けてくれる存在が他にもいると知った時、少女達はそれを一刻も早く教えてあげたいと思った。
名前しか知らないキラの同僚が、道を拓いてくれたと。
だって彼はナスカ級クルーの葬儀以前から、ずっと張り詰めて、思い詰めていたようだったから。理由も気持ちも良く解るけれど、仲間が暗い面持ちでいるのは良くないことだ。喜ばしてあげたいと素直に思った。
だから二人は走ってここまでやってきて、キラも応えて外に出て、三人で機体のつま先に腰を下ろして。
響が淡々と、瑞鳳が感情豊かに呉での顛末を語った。

「シンが動いてくれるなら、向こうは大丈夫だね」
「断言するね」
「僕なんかよりずっと優秀だから、彼は。彼なら上手くやってくれるよ」

するとキラは静かに微笑んで、東の方角、遙か遠いウェーク島を望むようにして綺麗な紫晶色の瞳を細めて。
良かったと、二人の少女は思った。
その顔が綻んでくれてどことなく嬉しくなった。それに、これなら遠慮なく二人で用意したものを披露できるというもので。

「へぇ・・・・・・シン・アスカさんかぁ。いつかこっちに来てくれるって話だけど、俄然興味沸いてきたわねぇ」
「天津風から聞いたところによると、だいぶ難儀な性格らしいけど。・・・・・・ところでキラ、お腹すいてない? 私と瑞鳳で晩ご飯を用意したんだ」
「そっか、臨時主計課だものね。じゃあいただくよ。実は結構、限界近かったんだ」

響と瑞鳳はこの度、基地全員の衣食住をサポートする主計課の一員として活動することになっていた。
その主な任務は毎日三食の戦闘糧食(レーション)の提供や、衣類の洗濯等の家事全般。先の鎮守府再建時で多少経験したとはいえまだまだ慣れない陸上作業に追われる艦娘達は勿論、
二隻の哨戒艦の乗組員と工作隊と業者さん、戦車隊の皆さんの後方支援が目的だ。
美味しく手軽でボリュームのある食事は、どんな兵器よりも即物的な力となる。