「・・・・・・そういえば、さ」
「うん?」
「あ、いや・・・・・・、・・・・・・ちょっと思い出したんだけどね」

ものの十数秒の準備を終えて一息つくと、なにやら響が感慨深げな声音で呟いた。
呟いて、しまったとでも言うような顔になって、しばしの気まずい沈黙。
しかし瑞鳳がキョトンとしてその蒼銀色の大きな瞳を注視すると、観念したように口を開いた。
敵わないなという雰囲気で。少しばかり申し訳なさそうな雰囲気で。

「瑞鳳とこんなに長く一緒にいるのって、なんか久しぶりだなって・・・・・・」
「あー・・・・・・そうね。言われてみれば、そうかもね」
「昔はあんなに一緒だったのに私・・・・・・全然、今の瑞鳳達と話してないなって・・・・・・」
「・・・・・・」

これは、なんとも。


なんとも思いがけずに、懐かしい話題が出たものだ。


感傷。
そうだ。まだ佐世保が今のメンツでなかったあの頃、榛名達や木曾達が異動してくるよりずっと前、響が一時的に横須賀所属になる前までは。
佐世保の暁型駆逐艦娘と祥鳳型空母艦娘はセットで行動していて、六人一緒でいるのが当たり前だった。
まるで姉妹のように過ごした日々があった。そんな日々で唯一人、響の「記憶」の話を知ってしまったのが、瑞鳳という少女だった。その時から何かと気に掛けるようになったのをよく憶えている。
懐かしい話だ。
まさかこのタイミングで、その当時を思い返すことになるとは思わなかった。

「最近、さ」

キラの為に用意した、紙皿にポツンと乗っかった大ぶりなバケットサンドとキッシュを眺めて響の独白は続く。まるで堰を切ったようだった。
そういえば、予備戦力として共に出撃した時の、海上でいただく戦闘糧食の定番はバケットサンドと卵焼き。まだ最前線で戦うには力不足であったあの頃のあの味は、
瑞鳳が料理を始めた頃の味、色々な思い出が詰まった味だったなと、少女は遅まきながら意識する。
しまった。なんとなくで選んでいいメニューではなかった。
アレを最後に一緒に食べたのは、三年以上も前だったか。
その翌日に、響はとある戦場で出会い憧れた夕立の背を求め、単身で横須賀へと異動した。