嗚呼。
やはり変わってきている。張り詰めた心がほぐれてきている。
これまで離れていた心の距離が一気に縮まったような実感がある。こんな簡単なことを、すごくすごく遠回りしてしまって。
こんな唐突なのに、こんなの予期してなかったのに、なんとなくで作った、たった一つの料理をキッカケにして。

「これから沢山さ、話をしようよ」
「いいのかな?」
「よくないわけ、ないじゃない」

いや、違う。
自分達にとって本当に大切で必要だったものは、一緒にいるとか料理とかそういうのじゃなくて、この状況そのものだったのかもしれない。

「昔みたいに?」
「そう、昔みたいに」

ありがとうと、瑞鳳は内心でキラとシンという二人の男に感謝した。
こうしてゆったり語れる機会は、実に少なく貴重だ。仕方のないことだが、状況はそんな余裕を少女達に与えてはくれないから。あの二人がいるからこそ、この福江基地でこんなにも穏やかな時を過ごすことができている。
心に余裕が無ければ、己を顧みることなんて出来やしない。
自分達に余裕を与えてくれた二人に、ただただ感謝する。そして、無意識的とはいえみんなで食べようと提案して良かったと、つくづく思う。

「ごめん、遅れちゃったね」

二人が数年越しの抱擁を交わしてから、キラがようやくと工廠に現れたのは数分後のことだった。
急に気恥ずかしくなって、ばっと素早く離れる二人の少女。
それで二人してちょっと傷ついた顔をするものだから、二人して笑うしかなかった。
やっぱり出てくるタイミング早かったかなと思った男も、つられて微笑んでしまう。
不思議なもので、もうこれからは絶対大丈夫だと根拠なく信じられた。

「もう、キラさんってば。遅いわよぅ、お料理乾いちゃうじゃない」
「いやぁ・・・・・・ちょっとタイミング掴めなくて。でも、お詫びと言っちゃなんだけど、昨日貰ったカステラ持ってきたからさ」
「それ、祥鳳がくれた・・・・・・持ってきてたんだね。Хорошо」
「一人で食べるには勿体ないって思ってさ。なんか良いことあったんでしょ? じゃあ甘い物が一番だよね」

二重の意味でお膳立ては整った。
いただきますと合唱して、食事を始める。
久々に食べた思い出の味は、思い出のものよりずっと、昨夜の食事会の豪華絢爛な料理よりもずっと美味しく感じられた。