差し出された手の上だけではなく、布袋ごと。
後ろ手にワイヤーを射出して近場の森入り口へと飛翔する。
が、キビツに目立って怒った様子はない。
少し拍子抜けしながらも、舌を出して挑発を置き土産にしてやる。
それに対してキビツは微笑みを浮かべてこう叫んだのだ。

「やはりお主には心がある!今日言ったことを努々忘れないでくれ!」

――――――

森に飛び込んだ後、適当な大木を背にしてようやく一息吐いた。

「なんだよアイツ、二度と会いたくない」

頭の中でキビツに言われた言葉が反芻されていく。
否定してもいい。己が身を案じよ。寂しくはないか。お主には心がある。
浮かんだ言葉を掻き消すように、食べられないのも承知で先程強奪したお菓子を口に運んだ。
ひったくった布袋から丸いふわふわを何個も何個も口へと詰め込んでいく。
味なんてわからない。匂いもわからない。
じゃあ、何でだろう。
楽しいと思った時に現れるハートが周りに浮いてるのは。

「なんかヤダ…こんな気持ちはダイキライだ」

このよく分からないむしゃくしゃは、当分の間収まりそうになかった。