2001年初夏。
それまで外国人の立ち入りが禁止されていた旅順の立ち入り禁止一部緩和に伴い、
中国国鉄、瀋陽鉄路局が大連近郊の周水子駅から水師営駅まで運転を開始したのが「新亜細亜号」。

かってロシアが敷いた東清鉄道から、日清戦争後は軍用鉄道として日本軍が運用し、
のち満鉄に引き継がれた路線を、満鉄時代からの駅舎が残る駅に停車していき、
終点は軍歌にもうたわれた水師営まで52キロを走る、まさに戦跡をたどる列車だったのだが、

かの満鉄特急「あじあ」の名を受け継いだ堂々の「新亜細亜号」・・・とはお世辞にも言えない、
冷房すらついていない旧式の客車を展望車に改造した、
たった1両の客車を保線工事用のレールバス1両が引っ張る、情けなくなるような珍列車で、
確かに満鉄時代の駅舎が残る駅に停車してはいくものの、
終点の水師営駅にはホームすらなく、乗客は踏切の真ん中で降ろされ、
旅のハイライト、旅順駅は外国人の構内立ち入り禁止、外からのスナップ撮影のみ許可というありさま。

当時、瀋陽鉄路局は、そんな改造展望車とは格が違う、
満鉄国際急行「大陸」に使われていた本物の1等展望車、テンイネ2型を保有していたのだが、
こちらは中国政府要人用の貴賓車として使われていたものを、
特別な外国人観光客団体向けの貸切列車用に振り向けて運行しており、
一般観光客向けの「新亜細亜号」には使っていなかったのである。

なお、現在は旅順もおおむね外国人観光客に開放された都市になり、
改造展望車のその後はさだかではないが、
テンイネ2型はレストアを受け、北京の鉄道博物館に展示されている。