「どう見る、同志ノヴィコフ?」
 ソヴィエト連邦共産党書記長ヨシフ・スターリンは空軍総司令官アレクサンドル・ノヴィコフ上級大将に意見を求めた。
 参集した幹部たちの前にはドイツの航空機を捉えた写真が置かれている。そこに写し出された機体はこれまでに東部戦線で確認されたドイツの軍用機とは一線を画す面妖な姿をしていた。
 機首は存在しない。翼も無く前後も定かではない。円盤型の機体各所に据えられた機関砲と側面の鉄十字が、かろうじてそれがドイツ軍機であることを示していた。
トゥーレ機関─ドルニエ社製ハウニブU
 ドイツ本土上空で米軍のジェット戦闘機F-80シューティングスターを散々に打ち破り、米英重爆撃機部隊を崩壊させつつある戦闘機に間違いない。これまで東部戦線では目撃例が無かった高性能機が出現したのだ。
「我が空軍の戦闘機隊は、ハウニブUに勝てるかね?」
 スターリンの問いにノヴィコフは額に汗を浮かべながら答えた。
「勝算はないでしょう。遺憾ながら我が空軍に、このようなふざけた戦闘機に対抗可能な機体は存在しません──空飛ぶ円盤とかドイツの連中頭おかしい」
 クレムリン宮殿の書記長室に重苦しい空気が漂う。

「早まったかな……」

 スターリンの呟きに、赤軍参謀総長ゲオルギー・ジューコフ上級大将も、国防大臣セミョーン・
ティモシェンコ元帥も、虚ろな目で天井を見つめることしかできなかった。


 1946年2月。ドイツ第三帝国は、未だ健在である。



意外に頑張るドイツ