「盗用です」 身に覚えのないDMと戦う「セーラームーン」監督
https://mainichi.jp/articles/20231013/k00/00m/040/108000c
「私の作品が盗用されています。深い傷を心に負いました」――。
有名アニメ監督の元に、SNS(ネット交流サービス)を通じて心当たりのない「抗議」が寄せられた。
相手は見ず知らずの女性で、仕事仲間にも同様のメッセージが届き、
事態は関係するイベントの中止にまで発展した。監督は女性に賠償を求める訴訟を起こし、法廷に立った。

始まりは2022年4月。「美少女戦士セーラームーン」や「少女革命ウテナ」をはじめ、
多数の人気アニメを手掛けたことで知られる幾原邦彦さん(58)のツイッター(X)に
届いた一通のダイレクトメッセージだった。
送り主は、声優でイラストレーターを名乗る女性。幾原さんとバンドを組んだアニメ関係者が、
幾原さんのアニメに登場するキャラクターのイラストをツイッターに投稿したところ、
女性から「自分の絵のトレース(なぞり書き)で、著作権の侵害に当たる」と指摘された。
幾原さんはイラストと、女性が送ってきた絵と見比べた上で、「全く一致していない」と取り合わなかった。
ただ、沈黙は女性の行動をどんどんエスカレートさせたという。

女性は幾原さんが謝罪をしないことを「名誉毀損(きそん)」「侮辱」だと主張した。
幾原さんの仕事先である大手出版社やレコード会社、アニメ会社、芸能事務所、
イラスト画家のところには、女性から次々とメールが届いた。

幾原さんは22年6月、虚偽のメッセージを仕事先に送られて名誉を傷つけられ、業務を妨害されたとして、
女性に330万円の賠償を求める訴訟を東京地裁立川支部に起こし、後に請求額を440万円に増額した。
法的手段を取ることが作品に与えるダメージを心配したが、同業者に対する同じような被害を
防ぎたいという気持ちが勝った。

23年8月30日、訴訟の本人尋問では「この裁判の結末は多くの仕事仲間が注目している。
(同じような迷惑行為は)今でも多く行われている。どうか厳正な判断をお願いしたい」と訴えた。
これに対して、女性は10月4日の本人尋問で、「私の作品を勝手に使われた。
著作権者である私に対する名誉毀損です」とこれまでの考えを繰り返した。