>>256の元ネタ

【第33期名人戦第1局 中原名人−大山十段】
2日目の午後、控室にお邪魔すると芹沢八段がいた。
相変わらず軽口を連発して周囲を笑わせるが、目は笑っていない。すでに中原の非勢は歴然としており、兄弟子の心中、穏やかならぬのである。

周りに誰もいなくなると、ポツリポツリと語りだした。
「最近の中原は」いつになくしんみりとした口調で言う。
「将棋が分かったような気になっているんじゃないかな。将棋なんてこんなものなんだ、って。
誰でも少し勝つと、そんな気になる。だが、将棋はそれほど底の浅いもんじゃない」
将棋と中原さんと、両方への愛情がなければ言えないせりふである。

昨年来、中原は名人戦・王位戦・王座戦とタイトル戦の番勝負をすべてストレートで片づけた。いかに天才中原とはいえ、異常なまでの勝ちっぷりだった。
将棋に対する驕りが慢心を生み、王将戦の苦戦、十段戦の苦杯につながったのではないか。芹沢さんはそう心配するのだ。
芹沢さんは、奨励会時代、日曜日ごとに自宅に将棋の勉強にやってきた中原さんが可愛くて仕方がないのである。