モーパッサン
こう云う場合に抽出の約束は成立しそうにもない。約束が成立しない以上は、この作物の生命はないと云うより、生命を許し得ないと云う方がよかろうと思います。
一般の世の中が腐敗して道義の観念が薄くなればなるほどこの種の理想は低くなります。
つまり一般の人間の徳義的感覚が鈍くなるから、作家批評家の理想も他の方面へ走って、こちらは御留守(おるす)になる。
ついに善などはどうでも真さえあらわせばと云う気分になるんではありますまいか。 (中略)
大変に虚栄心に富んだ女房を持った腰弁がありました。ある時大臣の夜会か何かの招待状を、ある手蔓(てづる)で貰いまして、
女房を連れて行ったらさぞ喜ぶだろうと思いのほか、細君はなかなか強硬な態度で、着物がこうだの、簪(かんざし)がこうだのと駄々(だだ)を捏(こ)ねます。
せっかくの事だから亭主も無理な工面(くめん)をして一々奥さんの御意(ぎょい)に召すように取り計います。
それで御同伴になるかと云うと、まだ強硬に構えています。最後に金剛石(ダイヤモンド)とかルビーとか何か宝石を身に着けなければ夜会へは出ませんよと断然申します。 さすがの御亭主もこれには辟易(へきえき)致しましたが、ついに一計を案じて、朋友(ほうゆう)の細君に、
こういう飾りいっさいの品々を所持しているものがあるのを幸い、ただ一晩だけと云うので、大切な金剛石の首輪をかり受けて、急の間を合せます。
ところが細君は恐悦の余り、夜会の当夜、踊ったり跳(は)ねたり、飛んだり、笑ったり、したあげくの果(はて)、とうとう貴重な借物をどこかへ振り落してしまいました。
両人は蒼(あお)くなって、あまり跳ね過ぎたなと勘づいたが、これより以後跳方(はねかた)を倹約しても金剛石が出る訳でもないので、
やむをえず夫婦相談の結果、無理算段の借金をした上、巴里(パリ)中かけ廻ってようやく、借用品と一対(いっつい)とも見違えられる首飾を手に入れて、
時を違(たが)えず先方へ、何知らぬ顔で返却して、その場は無事に済ましました。が借金はなかなか済みません。
借りたものは巴里だって返す習慣なのだから、いかな見え坊の細君もここに至って翻然(ほんぜん)節を折って、台所へ自身出張して、飯も焚(た)いたり、水仕事もしたり、霜焼(しもやけ)をこしらえたり、
馬鈴薯(ばれいしょ)を食ったりして、何年かの後ようやく負債だけは皆済(かいさい)したが、
同時に下女から発達した奥様のように、妙な顔と、変な手と、卑(いや)しい服装の所有者となり果てました。
話はもう一段で済みます。 ある日この細君が例のごとく笊(ざる)か何かを提(さ)げて、西洋の豆腐(とうふ)でも買うつもりで表へ出ると、ふと先年金剛石(ダイヤモンド)を拝借した婦人に出逢(であ)いました。
先方は立派な奥様で、当方(こちら)は年期の明けた模範下女よろしくと云う有様だから、挨拶(あいさつ)をするのも、ちょっと面はゆげに見えたんでしょうが、思い切って、おやまあ御珍らしい事とか何とか話かけて見ると案のごとく、先方では、もうとくの昔に忘れています。
下女に近付はないはずだがと云う風に構えていたところを、しょげ返りもせず、実はこれこれで、あなたの金剛石を弁償するため、こんな無理をして、
その無理が祟(たた)って、今でもこの通りだと、逐一(ちくいち)を述べ立てると先方の女は笑いながら、あの金剛石は練物(ねりもの)ですよと云ったそうです。それでおしまいです。 これは例のモーパッサン氏の作であります。最後の一句は大に振ったもので、定めてモーパッサン氏の大得意なところと思われます。
軽薄な巴里(パリ)の社会の真相はさもこうあるだろう穿(うが)ち得て妙だと手を拍(う)ちたくなるかも知れません。
そこがこの作の理想のあるところで、そこがこの作の不愉快なところであります。
よくせきの場合だから細君が虚栄心を折って、田舎(いなか)育ちの山出し女とまで成り下がって、何年の間か苦心の末、
身に釣り合わぬ借金を奇麗(きれい)に返したのは立派な心がけで立派な行動であるからして、
もしモーパッサン氏に一点の道義的同情があるならば、少くともこの細君の心行きを活かしてやらなければすまない訳でありましょう。ところが奥さんのせっかくの丹精がいっこう活きておりません。 積極的にと云うと言い過ぎるかも知れぬけれども、暗(あん)に人から瞞(だま)されて、働かないでもすんだところを、
無理に馬鹿気(ばかげ)た働きをした事になっているから、奥さんの実着な勤勉は、精神的にも、
物質的にも何らの報酬をモーパッサン氏もしくは読者から得る事ができないようになってしまいます。同情を表してやりたくても馬鹿気ているから、表されないのです。
それと云うのは最後の一句があって、作者が妙に穿った軽薄な落ちを作ったからであります。
この一句のために、モーパッサン氏は徳義心に富める天下の読者をして、適当なる目的物に同情を表する事ができないようにしてしまいました。
同情を表すべき善行をかきながら、同情を表してはならぬと禁じたのがこの作であります。
いくら真相を穿つにしても、善の理想をこう害しては、私には賛成できません。 以上
どう足掻いてもモーパッサンは反論のしようがないだろう 補足
>>248にある「抽出」というのは、文学の理想、つまり文学者の目的とする「美、善、荘厳、真」の四種のうち、異なる種の理想と互いに行き当たった時に
自分の理想を一時的に抽出して、その相手に一先ず道を譲り、その場の平穏を保つという約束事(これは文学だけに限らないが)を示してるんだけど
自分にはうまく説明できないから「文芸の哲学的基礎」の本文を読んでくれ 訂正
×自分の理想を抽出して
○他の三種の理想を抽出して(むろん自分の理想を含む) 最近、モーパッサンを読みはじめた
モーパッサンの短編で、一番ページ数が短い作品はどれだろう? そういう意味のない問いかけには答えが付かなくてもしかたないな。
そういえば、昨晩、風呂に浸かりながらモーパッサンの短編ひとつ読んだ。
題名は、”Empailleuse”かな。赤貧の女の生涯をかけた恋。しかし、女が密かな恋心を
燃やし続けたその相手の男はなんと・・・・・・ >風呂に浸かりながらモーパッサンの短編ひとつ読んだ
防水紙で出来た本か?w ざんげを読んだけど、なんか何処かで聞いた事あるような話だったな。
類似品があるのか? >>261
それを言うなら“La rempailleuse”、「藁椅子直しの女」だな モーパッサンの怪奇小説ってほとんど神経の高まりによる幻覚だよね
本当に偉大な作家には入らないかな モーパッサンって、メリメのことどう思っていたんだろう 映画には期待してないけど
こうやって新訳が出てくれることは喜ばしいな 中村光夫の旧訳のほうが良かった。
河出文庫あたりから出せばいいのにね。 モーパッサンはフランスのチェーホフだ
結構すごいよ
三巻の全集がある モーパッサンは、O・ヘンリー、チェホフと並ぶ三大短編王だ 英米圏はヘミングウェイやポウの方が上のような気がします。
というか、意外とフランスは短篇小説作家が少ない。 >>283を読んで
中学生の頃だったか、「女の一生」の出版年(1883)を
「いや(18)、もうパッサン(83) 女の一生」
とかいう語呂で覚えさせられた記憶が甦ってきた 教科書に載ってる首飾りが初読作品
ダーク落語って感じがした おじさんの話が好きです。
アメリカで大金持ちになっているのではなく、遊覧船で牡蠣を剥いていたおじさん。 高校の国語の教科書に載ってた
これ面白いでって友達に言われて暇つぶしに読んでみた どう思ったと言うより、今では、私自身が脂肪の塊です。 ジュールおじさんおもしろいね。
牡蠣が食べたくなった。 長編では『われらの心』のみ持っていない。
モーパッサン全集でしかこの邦訳読めないよね? 福武文庫から出てる
モーパッサン怪奇傑作集ってやつ読んでるんだけど、すごくいいね。 >>301
しかも二刷でびっくり。昔は本が売れてたんだね。 脂肪の塊について誰も語らない
もっと語るべきではないか 一番最初に読んだモーパッサンの作品。
タイトルに惹かれた。 モーパッサン派 花袋、荷風
反モーパッサン派 漱石 悪魔的なワルどころか子悪党ってほどでもない卑小さが非常に生々しい。 完璧な遊戯が批判されるならベラミだって批判されてしかるべきだ 脂肪の塊/ロンドリ姉妹 モーパッサン傑作選 (古典新訳文庫) 文庫 - 2016/9/8
モーパッサン (著), 太田 浩一 (翻訳) >>326
それ、おもしろかったよ。第二弾、第三弾も刊行予定らしい。
楽しみ。 ギ・ド・モーパッサン(Henri René Albert Guy de Maupassant、1850年8月5日 - 1893年7月6日)
徳田 秋声(1872年2月1日 - 1943年11月18日) 先月モーパッサンの全集を全部読んだ
あまりにも短編が多いことから全部は記憶していない
また折を見て再読しようとも思っている
短編王はチェーホフとOヘンリーを加えて3人だろう
今はスタンダール全集を読んでいる
7割読んだ
次はバルザック全集を挑む予定だ ステファヌ・ブリゼ監督『女の一生』(2016)
ステファヌ・ブリゼ(Stéphane Brizé, 1966年10月18日 - ) /⌒彡:::
/冫、 )::: また…秋が…
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(_,,/\ 脂肪の塊テリエ館 初めて読んだけどすごく面白いな
こういう社会の隅の弱者の尊厳を救い上げるような話は大好きだ 他のも読んでみたいな 「最も優れた自然主義文学は最も優れた幻想文学である」
これはモーパッサンの言葉だっけ? どの訳者がいいの? 青柳の訳はどうにもこうにもなじめなかった。
新庄嘉章
青柳瑞穂
高山鉄男
永田千奈
太田浩一
山田登世子 こればかりは自分で全部読んで合う訳者を探すしかないな。
好みもありますし。 岩波文庫は杉捷夫が多い
新潮文庫の新庄嘉章、青柳瑞穂
自分はどれも大丈夫だ ああ、原文で読むことが出来る語学力があれば、訳者で悩むこともないのだが。 モーパッサンは、本当に話作りの上手な作家です。
そして、杉さんの訳は簡潔で分かり易くなお、
即物的でない所がとても良いと思います。 ただ残念なことに岩波文庫の杉訳は絶版が多くない? 同じく岩波の高山訳はどう? 所有6長編
女の一生・新庄嘉章訳・新潮文庫
ベラミ・杉捷夫訳・岩波文庫
モントリオル・杉捷夫訳・岩波文庫
ピエールとジャン・杉捷夫訳・新潮文庫
死の如く強し・杉捷夫訳・岩波文庫
わたしたちの心・笠間直穂子訳・岩波文庫 以前、NHKの週末のドラマ枠で、『べラミ』を
日本の現代を舞台に翻案したドラマやったんだ。
草刈正雄主演かなんかで。
80年代の記憶だから実際見た人って、
俺ぐらいしか生き残ってないんじゃね?(笑) う〜ん、残念な事に「杉訳」「高山訳」読み比べられないな。
確かに、それ興味ありまんな〜。 岩波書店は、戦前や戦後の翻訳を順次廃版にして、光文社の様に現代的な翻訳を
出そうという意図かな?そうすると、往年の名訳と言うのが我々の読書から遠ざかる。
数年ぶりで、復刊もあるみたいだけど。極力残してもらいたい。 新潮で女の一生を読み始めたが風景の描写がとんでもないな
文章というより詩が満遍なく挿入され形成されてるという印象
この手の表現ではあらゆる小説でも頂点じゃないかと思ってしまった 元旦に猟奇短編集読んだらむっちゃ気が滅入った。
2021初読書本は他のものにすればよかったと後悔w 新潮で短編集1〜3を読みおわった。
一番気に入ったのは悲哀(miss harriet)
これ岩波や光文社の本には収録されてないみたいだからマイナーなのかと思ったが
画像検索したら、外国では表題作としてたくさん表紙になってるのが出てくるのね
これが読めただけでも新潮にしてよかったわ なんか知らんけど全集2セット持ってる
3巻のやつと15巻ぐらいのやつ
どちらも春陽堂だからたぶん中身いっしょ >>331
ポーは別ジャンルかな、短編王
>>332
漱石は「首かざり」が嫌いだって言ってるね
なんの救いもないから
自分もそれには賛成です モーパッサンは、物語の組み立て、話の展開がとても巧みな作家だと
思いますね。 モーパッサンって
日本だったらエンタだよね
モームとどっちがエンタっぽいんだろ
あるいは純文学っぽいんだろう 女の一生、死の如く強し、ベラミ、ピエールとジャン、モントリオル、わたしたちの心
長編をすべて読んだ人いるかな? >>373
どんなところが? 所々、訳文のリズムが合わないんだけど。 >>374
訳は今の人みたいにうまくないし、作品自体大傑作といえるようなのはないと思うが、気楽に読める良さがあるし、味があると思います >>375
確かにそうだね。買ってある(一)を読みますか。 モーパッサンの短編は、どれを傑作と感じるのか人によって差がありそう。
新潮のが終わったので、光文社のも読んでみるよ。
光文社のは、他社のに入ってるのはなるべく省いたと書いてあった 光文社のモーパッサンの短編集3冊、あっという間に読み終わった。
文章がこなれていて、新潮の短編集よりずっと読みやすい。
太田さんにはモーパッサンの長編も訳してほしいと思った。 モーパッサンの長編で現役なのは、女の一生以外は岩波の「私たちの心」だけなんだな
さびしい
角川のベラミなんか絶版になるまでが早すぎる ほんと胸糞悪くなる話しか書かないな
「田園秘話」も救いようのない話だったわ
一番のお気に入りはジュール伯父
道徳の教科書に載ってたんだが製作陣はどういうつもりだったのか? スレない人もいるくらいだし、別にいいんじゃない。
細く長く読まれる作家だと思う。 フランス文学を読みたいという人には、長編ならバルザック、短編ならモーパッサンと薦めているのだが、かんばしい答えが返ってこない。 短編はモーパッサンしかないと思うが、バルザックの長編は読みづらいのかも
椿姫、マノンレスコー、カルメンとオペラの原作が入門によいと思う 小室圭さん眞子さん夫婦 緊急帰国なら「要人扱い」警備体制は必至、費用は誰が? [TOTTO★]
https://asahi.5ch.net/test/read.cgi/newsplus/1651417490/-100
1TOTTO ★2022/05/02(月) 00:04:50.78ID:J4j8cH9N9
245名無しさん@恐縮です2022/05/01(日) 16:00:54.87ID:UcZzz62x0
小室圭さん眞子さん夫婦 緊急帰国なら「要人扱い」警備体制は必至、費用は誰が?
https://www.news-postseven.com/archives/20220501_1749975.html?DETAIL モーパッサン伝
トロワイヤ,アンリ【著】〈Troyat,Henri〉/足立 和彦【訳】
水声社(2023/03発売)
ルリユール叢書
モン=オリオル
モーパッサン,ギ・ド【著】〈Maupassant,Guy de〉/渡辺 響子
【訳】
幻戯書房(2023/08発売) 弱小出版社の本は
校正が不十分だから買いたくない
特に翻訳モノはな >>389
へんな気を使わないで王道から勧めるのが一番 『女の一生』は『ある人生』とか『一つの人生』にさっさと改題すべきだ。誰が付けたか知らないが明らかに過剰邦題だ 仏語の文法一通りやったのでモーパッサンの音声と対訳付きの怪談集読み始めた モーパッサン作品への評価は、賛否両論ながらも確立されています。
代表作『女の一生』は、ストーリー展開こそベタと言えますが、人間心理の描写は秀逸で、味わい深い作品です。 現代の連続ドラマの原型とも言えるのではないでしょうか。
モーパッサンは、人生や人間社会の暗い面を、時に皮肉を込めて描き出しました。 罪のない登場人物が、理不尽な運命に翻弄され、転落していく様子は、まさに人生の皮肉そのものです。
短編小説『脂肪の塊』では、周囲の人々のエゴイズムが、病に苦しむ主人公を追い詰めていく様子が描かれています。
明治時代の日本の文学者は、同時期に紹介されたモーパッサン作品に大きな影響を受けました。 彼の作品は、当時の日本の文壇に大きな衝撃を与えたのです。
モーパッサンの思想の背景には、ショーペンハウアーなどのペシミズム思想があると言われています。
作品の内容については、すでに多くの研究がされていますが、近年では「モーパッサンの文体」というテーマで研究が進められています。 彼の作品の魅力の一つである、簡潔で洗練された文体を分析することで、新たな発見が期待されています。 『女の一生』は面白かったな。青柳瑞穂訳の新潮文庫版は読みづらかったので、旺文社文庫で読み直したんだ。訳者は誰だったんだろう? >>402
新潮文庫は新庄訳じゃなかったっけ? 俺が読んだのはそれだったが まあ色んな人が訳しているだろうから。モーパッサンの訳者では誰が一番優れているのだろう >>404
歴史版各地のスレに書き込まれているこのキモいスレは、上の西郷吉之助のレスも間違いだらけで、AI生成なんだろうが、何の目的があって書き込んでいるのか