彩流社と水声社の翻訳の比較
水声社は全集の一冊ということと、値段もあって注釈が豊富
彩流社は右側に注が一項目数行程度あるのに対して、水声社は訳者とは別に監修者が前後巻あわせて2段組250ページの注がついている
1700ページのうち250ページなので分量は多いが、まだまだ書き足りない雰囲気を強く感じる
スペインの当時の社会背景などに踏み込んだ注釈というより読解で、たとえばドゥルシネーア・デル・トボソがアラブ人、モリスコであるなども書いている
250ページといっても全然足りていなくて、「セルバンテスの芸術」や「豚の社会史」参照など、研究書を読んでいる読者を対象にしているような注のつけ方
同全集に含まれる「模範小説集」などもかなり参照されており、これだけ読んでも消化不良になる可能性がある
見落としかもしれないが、目次に章ごとのタイトルが並べられていると非常に便利なのだが、見当たらず、あの挿話は何章だったか・・・というのが探しにくいのが難点
また、注釈に出てくる文献が参考文献として独立してまとめられていないため、一々最初に言及された訳注を探さなくてはならないのがもう少し改善できた気がする

まずは物語を楽しみたいなら、彩流社を先に読んだほうがいいと思う
本文だけなら数百人の登場人物ごとに言葉遣いは変えているから好き嫌いはあるだろうけど、どちらでもよいと思う

「セルバンテスの芸術」の著者本田誠二が訳注をつけていて、魔術への態度やセルバンテスの教養の強調、名前に隠れた出自などを読み込んでいく研究者
彼の引用した上記二冊などが愛読書である自分には非常にあっていると思ったけれど、先入観を抱きたくない初読の人には勧めない
ただし、水声社の本は売れて欲しいので、意欲のある人はぜひ買おう