>>119続き)

籠に飼ってしばらく経った
虫はしばしば飢え渇き僕の妻を呼び寄せた
その白い髯をみた妻は虫のふるう鞭に恐れ
一つのエロスを彼に与えたのだった
虫は自信に満ち 時には傲岸に成長した
籠を檻に代えるころ それは
天を仰ぐ複眼と精緻な巨体を完成した
彼は腹匍いで家に沢山の道を作った
僕は毎朝その道を通る 太陽の並ぶ道を

彼はなぜ様々に変身するのか
どこに辿り着こうとしているのか
多分 自然はいまも創造の途中であり
神は製作の手を休ませてはいないのだ
その神に通ずる我々の言葉も出切ってはいない
この分別の鎧戸から空の高さまで言葉を送るには
特異な抑揚やはずみが要る
炎を捩る鞴のような舌で

虫はまことに放縦で彼の領土に海や砂や風を求めた
すると絨緞に島が出来て流人と島があがってきた
麻が伸び 妻と娘はそこで会話をしている
過去に苦しまず未来の想像を恐れずに
海のホリゾントに精霊を認め
身内に天上の種族の妊娠を望んでいる

(続く)