朝の歌  中原中也


天井に 朱〔あか〕きいろいで
  戸の隙を 洩れ入る光、
鄙〔ひな〕びたる 軍楽の憶〔おも〕ひ
  手にてなす なにごともなし。

小鳥らの うたはきこえず
  空は今日 はなだ色らし、
倦〔う〕んじてし 人のこころを
  諫〔いさ〕めする なにものもなし。

樹脂の香に 朝は悩まし
  うしなひし さまざまのゆめ、
森並は 風に鳴るかな

ひろごりて たひらかの空、
  土手づたひ きえてゆくかな
うつくしき さまざまの夢。